一本
セイリスは時には剣を弾き飛ばして私の反撃手段を奪い、時には体勢を崩してトドメを刺そうとし、時には私の反撃を掻い潜って目の前に切先を突きつけてくる。
その全てが私を殺そうとしているものだったのだと認識した途端、自分のやるべきことが絞れて頭の中が急にスッキリした。
私は死にたくない。
生きたい。
生きるためにはコイツの動きを止めればいい。
何がなんでも、死に物狂いで。
「お」
いつも私が降参を吐かされているセイリスの3撃目を跳ね返したことで、彼は笑みの中に驚きを混ぜた。
今…………油断したな!?
「!」
奥歯を食いしばって剣を両手で握り直す。
生きるために。
生きるために……生きるために!!
私の手元を見て咄嗟に受け身を取ろうとしたセイリスの剣を掻い潜り、下から一気に自分の剣を振り上げた。
一瞬か、それとも数秒か。
時が止まった。
「……ははっ! 参りました」
「……!」
「あなたの勝ちです、アゼリアお嬢様」
セイリスのシャツの左の襟が真っ二つになっていた。
「…………! ……!?」
私はセイリスを右腰から左肩まで真っ二つにするつもりで剣を振った。はずだった。
けど間一髪避けられていたみたいだ。
……必死で剣を振っても現実では本人には届かないのか。
終わったのだと自覚した瞬間ドッと汗が出て息が上がり、私は思わずその場にへたり込んでしまった。
こ、こんなに疲れるものなの……!?
「お見事でした。危うく僕の左眼が無くなるところでしたよ」
そんなつもり1ミリも無かったくせに……。
私に目線を合わせて片膝をついたセイリスは息ひとつ乱れていない。
これじゃ一見どっちが勝ったかわからないくらいだ。
「僕から一本取った感想はいかがですか」
「か、感想…………その、正直実感はあまりなくて……あなたの剣がわたくしを殺そうとしているのだと思ったら……生きるために、必死で」
セイリスはにこりと微笑む。
相変わらずわざとらしいし胡散臭い。
「先ほどお嬢様は『お綺麗な教科書剣術を捨てる覚悟』とは、『相手を殺す覚悟』のことではないかとおっしゃいましたが、実はそれは70点の答えでした」
「えっ」
「王国最強を誇るフェリオール騎士団が最強たる所以、それは『相手を殺す覚悟』があるからではなく、『みっともないほどの生への執着』があるからです」
『生への執着』……?
「それは……『相手を殺す覚悟』とは違うのですか?」
「似ているようですが少し違いますね。相手を殺すことは、生きるための手段の一つにしか過ぎません。どんなに覚悟を持っていても、相打ちで自分も死んでいては意味がないのです」
「それは…………」
その通り……なのかな。
「ジェトリウス様はいつもおっしゃっています。『生きて帰ってきてこそ、一人前の騎士だ』と」
「……!」
生き残るために剣を振るってきたジェトリウスの言葉だと思うと重みが違う。
殺すことが目的ではなく、生きることへの執着によって剣を振る。
そうか……そういうことだったのか。
私の気持ちと何も変わらない。
「……ありがとうございます、セイリス。わたくしはもう、あなたにも負けません」
「その意気です、アゼリアお嬢様。まあ、さっきの一本は偶然なので二度目はありませんが」
「………………」
お前、本当にそういうとこだからな。
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