手紙の行方
「リーナ、今少しいいですか」
エントランスの窓拭きをしていた使用人のリーナに声をかけると、彼女は布巾を素早く片付けて元気に返事をして私を振り返った。
「はい、お嬢様!」
「ここ1ヶ月の間に屋敷に届いたわたくし宛の手紙や荷物の記録を調べて欲しいのですが」
「えっ……」
「え?」
「いや……そ、そのぉ~…………」
「…………」
この使用人はかわいいことに嘘がつけない。全て顔に出てしまうから。
リーナは冷や汗をたらりとかきながら目を逸らした。
わかりやすすぎるその態度にさすがの私もジトリとした目を向けてしまう。
「……あなた、何か知っていますね?」
「う、うぅ……! も、申し訳ございません、お嬢様!」
彼女は今にも泣きそうな顔で深々と頭を下げた。
「実はジェトリウス様のご指示により、お嬢様宛に届いたお手紙の一部を使用人どもでお預かりしております……」
なんでそこでジェトリウスが首を突っ込んでくるわけ……?
「一部、というのは具体的には?」
「ローゼンベルグ公爵家のご令嬢、ルチアナ・ローゼンベルグ様からのお手紙、です……」
まさか犯人が身内にいたなんて。
というか手紙や荷物の受け取り記録なんてすぐにわかるものを、あのちゃっかり者のセイリスが調べていなかったとは思えない。
もし悪意が潜んでいたらミモナの安全にだって関わるかもしれないんだし。
……あの男、調べて事実を知った上で、面白がって黙ってたな…………!?
「……お父様がそのような指示を出した理由を聞いても?」
「はい……ジェトリウス様はルチアナ様からのお手紙に対して『良からぬ気配がする』と。お嬢様のお心へのご負担をご心配されて、目覚めてもしばらくの間は見せないようにとおっしゃっておりました」
えええ……なに、『良からぬ気配』って……。
私がジェトリウスの過保護っぷりに若干引いていると、リーナは弁明するように付け足す。
「も、もちろんジェトリウス様はお手紙の内容はご覧になっておりません。ただ……その、大変失礼ながら、ルチアナ様にはジェトリウス様の懸念を向けられるだけの前科が……」
「ああ……そうでしたね……」
私は思わず眉間を押さえて目を閉じた。
アゼリアの記憶によると、アゼリアへの行き過ぎた愛情の矛先を間違えたルチアナは、幼い頃アゼリアを誘拐したことがあるらしい。
結局誘拐された自覚のなかったアゼリアは数日間ルチアナと一緒にローゼンベルグ家の別荘地でお菓子をつまんでおしゃべりをして遊んでいただけだったものの、ジェトリウスが珍しく怒りを露わにし、責任を追及されたローゼンベルグ家の当主は代替わり、幼い令嬢による不祥事として一時期貴族界では大きな話題になったのだ。
それ以降ジェトリウスはルチアナのことをかなり警戒している。
この件に関してはルチアナを庇いきれないだけに頭が痛い。
「本当に申し訳ございませんでした……!」
「……顔を上げて、リーナ。わたくしのためを想っての行動だったのですから、咎めるつもりはありませんよ」
「お嬢様……」
ましてやジェトリウスの指示だったら逆らえるわけもないんだし。
「わたくしはもう体も心もすっかり元気になりましたから、ルチアナからのお手紙を渡していただけませんか?」
何度も謝りながら「ルチアナ様からのお手紙はかなりの量なので、後ほどお嬢様のお部屋にお運びいたします」と言ってくれたリーナに感謝しつつ、もう一つだけ大切なことを質問した。
「クロヴィス様ならヘルムート団長と一緒に騎士団のお仕事で町に出ておられます。もうすぐお戻りになるかと」
「そうだったのですか。では戻ったらわたくしの部屋に来るよう伝えてください」
「承知いたしました」
リーナに伝言を預けて自分の部屋に戻ろうとした矢先、クロヴィスと町に行っているはずのヘルムートが邸内を歩いているのを見かけた。
慌てて捕まえてクロヴィスの行方を聞いてみる。
「はっはっは! あいつなら多分庭園でお嬢様の猫と遊んでるぞ」
朗らかにそう言ったヘルムートに、私はピシャリと凍りつく。
庭園で……猫と遊んでるクロヴィス……だと……!?
えええ……待って何それめちゃくちゃ見たい、今見なかったら絶対後悔する……!
ヘルムートにお礼を言ってから私は大急ぎで花の咲く庭園へ向かった。
前世の私が大の猫好きだったのと同じく、アゼリアも猫が大好きだった。
フェリオール邸には彼女が町で見かけて捨て置けずに拾ってきた猫が何匹もいる。
全員に名前をつけて甲斐甲斐しく世話をしているものの、アゼリアの手が回らないところではクロヴィスがそっとフォローをしてくれていたようだ。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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