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妹と親友(1)

挿絵(By みてみん)

午前中に騎士団の訓練で思いっきり体を動かしたあと、午後は机に向かう時間だ。



「アゼリアお嬢様、お茶をお持ちしました。こちらは疲労回復の効果もあるそうなので、よろしければお召し上がりくださいね」


「ありがとう」


「それとお手紙も」


「!」



アゼリアの部屋にやってきた使用人のリーナは、ティーセットを乗せたトレーをサイドテーブルに置いてから手触りのいい封筒を3通差し出してくれた。

差出人は、私がこの数日で手紙を書いた貴族の令息、令嬢たちのうちの3人だった。


ある人には誕生パーティーがとんでもないことになってしまったことへの謝罪と、私の体調がペンを握れるほどまでに回復したことを。

またある人には今までひどい態度をとってしまったことへの謝罪と、お詫びのお茶会への招待を。


相手の顔を思い浮かべながら一人ひとりに向けて丁寧に内容を考えて送っていたのだが、返事が来たのは今日が初めてだ。



「嬉しい……」



そう思わず声に出てしまうほど、自分の声が相手に届いたのかと思うとじんわりと込み上げてくるものがある。

きっとまだ、私たちは仲良くなれる……!



「きっとお相手の方々も、お嬢様からお手紙を受け取られたときはとても嬉しかったと思いますよ!」



自分のことのように純粋に喜んでくれるリーナに後押しされ、引き出しからペーパーナイフを取り出す。


……と、その前に。

大切なことを忘れていた。


幼いアゼリアは、封筒を開けた瞬間毒を浴びたことがある。

それ以降彼女は他人から受け取ったものに対して魔術の痕跡がないかを欠かさずに確認するようになった。

私もアゼリアの記憶に倣い、封筒を一通ずつ目の前に掲げて透過魔術を使った。



「…………ん?」



2通はなんの仕掛けもないただの封筒だったけど、3通目は何か様子がおかしい。



「どうされました?」


「中の手紙に魔術印が仕込まれてる」


「えっ……な、なにか危険な魔術印ですか? どうしましょう、旦那様にご報告を……!」


「リーナ、落ち着いて。簡単なものですから、この程度であればわたくしでも処理できます」



どうやらそれは封を切った瞬間風魔術が発動し、指先が切れるよう組まれた魔術印のようだった。

切断するほどの強さはないが、間違いなく全ての指から血が出るであろう規模のものだ。


危な……よかった~、確認しておいて……!


解除してしまってもよかったが、そうすると証拠が残らない。封筒の中の魔法印を丁寧に無効化の魔術で上書きしてから封を切った。

心配そうに口元に両手を当てているリーナに、「もう安全ですよ」と微笑んでから手紙を取り出して目を通す。



「………………」



開けた瞬間怪我をするような魔術印を仕込んでいる相手が、手紙にマトモな内容を書いているはずもなく。

「仲直りをしたい」と伝えた私に対して実に憎しみに満ちた文面だった。この男との仲直りは骨が折れそうだ。



「ふぅ」


「お嬢様…………」


「大丈夫ですよ。見てください、3枚もお手紙をくださいました。文章を考えるのも紙に文字を書くのも、すぐにはできない作業です。一般的には、興味がない相手に対してこれだけの時間を費やしたりはしません」



きっと相手の貴族令息はアゼリアの態度を伺っている。

私が上辺だけでなく本当に仲直りをしたいと思っているなら、この程度でジェトリウスにチクったり、事を荒げたりしないと踏んでいるんだろう。


アゼリアだったら、きっとこの手紙を破り捨てて怒りのままにすぐにでも相手の貴族令息に殴り込みに行くだろう。

二度と逆らえないよう完膚なきまでにベコベコに心を折るはずだ。


でも、『私というアゼリア』はそういうわけにはいかない。

人間関係の拗れ、不満の火種を野放しにしたせいで今後も怪我をしたり、ましてや命を失うことに繋がってしまうなんてもっての外だ。

返信をくれているのだからなんとしてもコイツと和解しなければ。



「どうかこのことはお父様には内緒にしてください。これはわたくしが自分で解決したい問題なんです」


「か、かしこまりました。私はいつでもお嬢様を応援しております!」


「ふふ、ありがとう」



私はすぐにペンを取った。



その他の2通の手紙の内容は実に似ていて、私の意識が戻ったことへの祝福と、謝罪内容に対して遠慮がちにこちらの態度を伺っているものだった。

どちらも快くお茶会のお誘いに頷いてくれてはいなかったものの、どうやらアゼリアに興味がありそうだ。ありがたいことにあと一押しといったところか。

この2人とは復学後にアルセリア王立学院で会うこともできる。直接声をかけに行こう。

とはいえ最大限の感謝とともに丁寧に返事をしたためた。



「うぅ~…………ん!」



時間をかけて返信を書き終えた私は思いっきり伸びをして、固まった背中と肩をほぐす。


……手紙の中の魔術印に気付いたときは少しだけヒヤッとしたけど、なんとか冷静に対応できてよかった。


悲しいことに、こういった陰湿な嫌がらせはアゼリアにとって特に気にするようなことでもない日常だったようだ。

フェリオール家の令嬢たる者、この程度で一族の名誉を傷つけるようなみっともない慌て方をせずに、涼しい顔をして華麗に回避していかないと。


リーナが運んできてくれたお茶はすっかりぬるくなってしまった。それでもいい香りだ。

一口飲めば、なんとなくだけど……確かにセイリスにボコボコにされながら過酷に動かした体を労られているような気がする。


リーナがお茶と一緒に運んできてくれたアゼリアの好物でもあるラズベリー味のマカロンに手を伸ばしたとき、部屋のドアがノックされた。

一瞬だけ考えてから、マカロンへと伸ばした手を引っ込める。

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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