表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/24

もう一人の護衛騎士(2)

挿絵(By みてみん)

ミモナはここ数日、他の貴族から招待を受けて合同勉強会に参加していた。

それに同行していたセイリスも、どうやら日程を終えて無事に戻ってきたらしい。



「アゼリアお嬢様。改めまして、お体の回復を心よりお慶び申し上げます」



セイリスはきちんとした所作で胸に手を当て、私へと小さく頭を下げた。



「……お陰様で」


「失礼ながらお話は聞かせていただきました。僕がお嬢様の手合わせ相手に名乗り出てもよろしいでしょうか?」



隣に立つヘルムートを見上げると、彼はうんうんと頷いている。



「クロが嫌だというのならセイリスが適任だろう。お嬢様は知らんかもしれんが、コイツは根っからの戦闘狂でなぁ。戦地での活躍はそれはもう凄まじいもんで……」



……え?

ミモナにも懐かれているこの穏やかそうな裏切り者顔の騎士(失礼)が……?



「……ヘルムート団長、訓練前にあまりアゼリアお嬢様を怖がらせるようなことを言わないでください」


「ん? そうだったか?」


「いえ、わたくしは問題ありません。わたくしが強くなるために超えなければならない壁であるのなら、立ち向かうのみです。セイリス、お手合わせをよろしくお願いいたします」



セイリスはいつも通り、穏やかに微笑んで紳士的に深々と頭を下げた。



「喜んで」



まずは基本的な動きの確認を、と言って、セイリスは何度か私と簡単に剣を合わせた。

より実戦に近づけるためというフェリオール騎士団の方針で、訓練に使われるのは切れ味を落としてあるとはいえ本物の剣だ。

金属同士のぶつかり合う音には、まだ内心ヒヤッとする。



「……なるほど、大体把握できました。才能溢れる今のアゼリアお嬢様であれば、降参するまでの間に僕の剣を2回、避けることができるでしょう」


「に、2回だけ……?」



それは……手合わせと呼べるんだろうか。

私の中のアゼリアが、「わたくしにナメたこと言ってんじゃないわよこの腹黒戦闘狂が!」と怒鳴ったような気がした。



「フェリオール騎士団の規則に則り、たとえお嬢様が相手だろうと僕も手加減はいたしません。勝負はどちらかが負けを認めるまで。それではどうぞ、お気持ちの準備が整いましたらお好きなタイミングで打ち込んで来てください」



気づけば周りには訓練の手を止めた団員たちが見学のために集まってきていた。

セイリスは本職の騎士……しかもその実力はジェトリウスからミモナの護衛騎士を任されるほどのものだ。クロヴィスに負けずとも劣らない。


現時点でアゼリアとの実力差が大きく開いていることも、ヘルムートの言葉からわかっている。

これは勝つための勝負ではなく、私が強くなるための勝負なんだ。

私が生きるため、死なないために乗り越えなければならない試練なんだ!

いざ…………!

私は決意を固めてセイリスを見据え、剣を構えた。



「おおっ……!」



ざわめきが起きる。

そして。



「……参りました」



結果はセイリスの言ったとおり、私たちの間にはそれなりの回数の金属音が弾けたものの、セイリスからの攻撃の3回目で握っていた剣を弾き飛ばされ、私は降参した。



「素晴らしい動きでした、アゼリアお嬢様。剣術の手合わせで僕に足払いを決めようとしたのはあなたが初めてです」


「う……」



笑顔で拍手をするセイリス。

そんな顔で言われても嫌味にしか聞こえないけどね!?



「これは戦いを俯瞰して見ることができているという、純粋な賞賛ですよ」



私の顔に出ていたのか、そうフォローを入れたセイリスから差し出された手を握って立ち上がると、周囲からはパチパチと拍手が起きた。



「お嬢様は体が柔らかいな」


「すでに体を大きく使えていらっしゃった」


「今の時点でもお前じゃアゼリアお嬢様に勝てないだろうな」


「ぐっ……それは……そうかもしれない……!」



団員たちは一瞬で終わってしまった私たちの手合わせについて、あれこれ振り返りをしてくれている。


……なんだろう、この違和感は。

私とセイリスの剣術は何かが大きく違う。

純粋に筋力や体格?

それとも気迫……?



「…………セイリス、もう一度お手合わせをお願いできますか?」


「ええ、もちろん」


「ありがとうございます」



私が感謝を告げるとセイリスはほんの一瞬いつもの笑みを崩し、少しだけ驚いたような顔をした。



「……アゼリアお嬢様は僕のことをお嫌いなんだと思っていました。感謝の言葉をかけられたのは今日が初めてです」


「え」



確かに、"本来の"アゼリアはミモナの周囲をうろつくこの胡散臭くニヤニヤしている騎士が大嫌いで露骨に威嚇していた。

まずい……さすがに態度の違いが気になるか……!?



「先日の凄惨な事件はお嬢様のお心にそれほどまでの『強くならなければならない』という覚悟を刻んだのですね。プライドの高いあなたが、嫌いな人間に教えを乞うほどに……」


「いえ、あの、わ、わたくし、別にあなたのことを嫌っているというわけでは……」



……ハッ!?

こ、これは!


アゼリアが拗れさせてしまった人間関係修復のわかりやすい第一歩、復学前のちょうどいい練習台……すなわち、セイリスとの仲直りチャンスなのでは!?

とりあえずアゼリアが過去この男に向かって「二度とツラ見せんな腹黒ドクズ!(※意訳)」と言ってしまったフォローが必要か……!?



「そ、その、セイリスの剣術の腕はお父様がお認めになるほど確かなわけですし、わたくしもあなたのことをちゃんと信頼していますよ。好き嫌いは別として」



…………最後の一言必要だったか!?

なんだろう、純粋にこの男を褒めようとしているだけだったのに、なんか口が勝手に意図してるのとは違う方向へ動いていく。

まるでこの男への賞賛を、アゼリアの体が拒否しているかのような……。


セイリスは胸に手を当て、ふわりと微笑む。周囲に花が咲いて見えそうなほどの柔らかな笑みだ。わざとらしいほどに。



「アゼリアお嬢様にそこまでの信頼を寄せていただけていたとは……このセイリス、身に余る光栄です。それならば僕も精一杯お力になりましょう。実は僕も、ミモナお嬢様のお部屋で僕の眉間に向かってフォークを正確にぶん投げてきたあの時から、あなたには戦闘の才能を感じていたんです」


「えっ……? アゼリアお嬢様がそんな野蛮なことを……?」



アッ、ダメだやっぱり私もコイツのこと嫌いかもしれない、アゼリア!


セイリスは終始にこやかな雰囲気で、きちんと手を抜かずに容赦なく私のことをボコボコにしてくれた。

本当に……そういうとこだぞ。


普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ