フェリオール騎士団へ
エルグランド王国の国旗を掲げたフェリオール騎士団が港町に着いたのは、それから数時間後のことだった。
「生存者の確認を急げ。最優先は住民の保護だ。兵士は殺さずに捕えろ」
「はっ!」
「それにしても酷い惨状ですね……余程強力な魔術師でもいたのでしょうか」
「私たちが追っていた部隊に戦闘に特化した魔術師はいなかった。万が一道中で合流していたのだとしても、いれば味方にこれだけの死者を出したりはしないだろう」
「確かに、敵味方関係なく、何か大きな爆発にでも巻き込まれたかのような印象ではありますが……」
「おそらくこの魔術痕は……」
「おーい、ジェトリウス! ざっと見た感じ俺たちが追ってた部隊はこの町で壊滅したようだ」
「……」
「んで、コイツがここで唯一の生存者みたいだぜ」
俺を見下ろした灰銀の瞳と目が合って、思わず息を呑んだ。
右頬に傷のある端正な顔の男は、まだ若いながらとてつもない修羅場を何度も生き延びてきた佇まいをしていた。
何より、見たことがないほど力強い魂の色をしている。
その男は俺の前に膝をついて目線を合わせると、本質を見透かすかのような冷たい瞳でじっと見つめてきた。
「私はジェトリウス・フェリオール。私たちはこの町を守るために来たのだが、駆けつけるのが遅れてしまってすまない」
フェリオール……まさか、"剣聖"の"領主様"?
その声色はお世辞にも優しくはなかったものの、敵意は感じられない。
「君の名を聞かせてくれるか」
「俺は……クロヴィス。クロヴィス・ヴァレント」
「クロヴィス。ここで何があったか話せるか」
「突然あいつらがやってきて、母さんと弟たちを殺した」
一度言葉を切って町を振り返ったその男は再び俺を見る。
「この町を守ってくれたのは君か」
「……!」
小さく目を見開いた俺と、ざわつく騎士団。
「おいおい……どういうことだ? この小僧はたったひとりで、町一つを吹っ飛ばした何かと戦ったってのか?」
壊れた家の瓦礫の影から目ざとく俺を見つけてここまで担いできた大柄な男が、騎士団を代表するように驚いた様子でそう言った。
フェリオール公爵は小さく首を横に振る。
「いや。この魔術痕は魔力暴走でできるものに似ている。おそらくこの少年の強い防衛本能によって魔力が暴走し、これだけの大規模な魔術爆発を引き起こしたのだろう」
「ってことは、この小僧が町を……」
死にたくない、死ぬわけにはいかないと強く思った瞬間溢れた魔力が押さえられなくなって、気づいたときには生まれ育った小さな港町を吹き飛ばしていた。
どよめく騎士団を見て、今度こそ俺はここで処分されるんだろうなと心の奥が冷えていく。
なら、どうやってこの場を切り抜ける?
けれどもフェリオール公爵の言葉は俺の予想とは異なっていた。
「強い力は使い方を誤れば自他ともに破滅を招くものだが、正しく使うことができれば自分の望む以上のものを守ることもできる」
「!」
「力は持っているだけでは何も守れない。大切なものを守りたければ己の力の使い方を学び、飼い慣らし、強くなれ」
「……?」
話の着地点がうまく見えなくて俺が戸惑っていると、大柄な男はフェリオール公爵の肩をばしばし叩きながら笑った。
「わはは! 小僧……クロヴィスっつったか。悪いな! この無愛想な男はいつだって不器用で言葉が足りねえんだ。要するにコイツは、お前さえ良ければ俺たちの騎士団に来ないか、力の使い方を教えてやるぞって言いてえのさ!」
この力の使い方。
玲を守り、幸せにするために必要なこと。
フェリオール公爵からすれば、俺を騎士団に誘った理由は情をかけただけじゃないんだろう。
町ひとつ吹き飛ばすほどの魔力暴走をさせた人間を目の届くところに置いておきたいだとか、武力として味方に招き入れたいだとか。
そうだとしても、俺は玲を守る強さが欲しかった。
こうして俺は騎士団という、血の繋がりのない第二の家族を得ることになったのだ。
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