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転生

挿絵(By みてみん)

二度目の生で"クロヴィス"と名付けられた俺が生まれたのは、エルグランド王国東部の辺境にある小さな港町だった。

漁師の父は1日の半分以上を海で過ごし、母は小さな食堂で働いて、4人の子どもをなんとか養っていた。



暮らしぶりは裕福ではなかったものの、人間として生きる世界は俺にはどれも新鮮で楽しかった。


玲が当たり前のようにやっていたこと。

服のボタンを留めること、靴紐を結ぶこと、ナイフとフォークを使うこと、字を書くこと。

俺はずっと玲のそばで見ていたけど、実際にやってみるとすぐにはうまくできないことも多い。

それでも初めて見るわけじゃない動きは、俺の習得の充分な助けになってくれた。


言葉もそうだ。

人間にはたくさんの言葉がある。

その中から適切なものを選んで、俺の気持ち、俺の考えを相手に伝えること、相手の言葉を理解すること……その大切さと難しさ。

ときにはうまくいかなくて喧嘩になることもあった。

でもたくさん練習しておかないと。

玲と再会したときに、俺の気持ちをたくさん伝えるためにも。



国境も近く、大きな町の中継地点でもあるせいで、町にはいつも入れ替わり立ち替わり人が訪れる。

今日こそは玲に会えるかな。

俺は毎日、転生した玲の姿を探して町の中を見て回っていた。

二度目の生でも俺の生きる力の全ては玲だけに向けられていた。



「クロヴィス、よく聞いてくれ。この国ではこれから大きな戦争が起きる。そうなると、国境が近いこの町も安全ではなくなるだろう。父さんと母さんは、お前の弟たちを連れて内地の親戚の家に避難するつもりでいる」



ある日、父が真剣な顔をして俺にそう言った。

それは国境付近で隣国との小競り合いが多く起きていて、王国の旗を掲げて物資を運ぶ兵士や商機を嗅ぎ取った商人たちが、毎日慌ただしく町を訪れていた頃だった。



「そうなんだ……わかった。でも、俺は?」


「お前は好奇心が強い上に、物覚えがとてもいい。魔術の才能もある。6歳になったら王都の学校へ進学できるよう、父さんが知り合いに頼んで手配してやる」



王都……王家が城を構える、この国の政治と経済の中心地。

俺はその存在を直接目にしたことはまだないけど、当然人の数もこの町とは比べ物にならない。

それならこの町にいるよりもずっと、玲と出会いやすいはずだ。


俺にとってはありがたい申し出だったけど、父は不安そうな顔をしていた。



「……戦争が終わるまでは離れて過ごすことになる。けど、またみんなで一緒に、平和に暮らせる日がきっとくるはずだ。お前はそれまでたくさんのことを学ぶといい」



机に向かって本を読むだけっていうのは得意ではなかったけど、新しいことを学ぶこと自体は嫌いじゃない。


学校。

出会ったばかりの頃、玲も通ってたっけ。

先生と、友だち。

勉強もあるけど、イベントもある。

たくさんの学びの場。



「ありがとう父さん。俺、頑張るよ」



けど、結局俺が王都の学校へ進学する日は来なかった。

俺たち家族が町を離れるよりも早く、平和だった小さな港町は隣国との戦禍に飲まれたのだ。



「食料、衣服、薬は優先的に運び出せ! 女とガキは拘束しろ! 男と刃向かうやつは容赦なく殺せ!」



悲鳴と、怒号、刃物のぶつかり合う音。

火薬と血の臭い。

内地から敗走してきた隣国の部隊が立ち寄ったせいで、賑やかだった港町はあっという間に地獄になった。


海に出ていた父たちは魔術師が船ごと沈めてしまった。

俺と弟たちを逃がそうとした母は、目の前で妹ごと兵士に真っ二つにされてしまった。

それを見て泣き喚いた双子の弟たちもまた、呆気ないほど一瞬で切り捨てられてしまった。


第二の生を与えられてからというもの、毎日玲との再会のことだけを考えていた俺は母と妹の血を頭から浴びたときに初めて思った。


玲と再会する前に、俺が死んだら意味がない。

玲と再会しても、俺に力がなかったらまた彼女を失うかもしれない。


この世界は平和な前世とは違う。

それが起こり得るのだと。



「なんだ? このガキ生意気な目ぇしてんな」


「目の前で家族を殺されても泣きもしねえなんて、イカレちまってんのか?」



薄汚い顔の兵士が俺の襟首を乱暴に掴み上げる。



「それはお前たちだろ」


「何……?」



俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。

生きて、玲と再会するために。

この手で玲の幸せを守るために!

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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