人類 vs. 悪魔(4)
《貴様、己の命ごと我の魔力を断ち切るつもりか!?》
どうする?
防御壁?
治癒魔術?
虚界への扉の完成は……!?
だめ……だめだギリギリ間に合わない……!
聖女の加護だとか、奇跡の力だとか!
大切な人たちの未来を守るために戦ってるはずなのに、その大切な人を守ることもできないなんて……肝心なときになんの役にも立たない!
役立てられない……私が、無力だ……!
いやだ……
いやだ!
もう誰も失いたくない、誰とも別れたくない、のに……!
『……まだ、終わらせないっ!』
「!」
剣を握るレオンの腕を両手で引き留める少女の姿があった。
春のように温かく、花のように美しく、それでいて力強い。
『レオン様! まだアゼリア様にお伝えしていない言葉があるはずです!』
『……リノン……』
修道着に身を包んだその少女……リノンは、レオンが手から力を抜いた一瞬の間に分厚い教典を取り出してページを開く。
『"主よ、癒しの歌声を届けたまえ"』
素早くそう唱えたリノンを中心に柔らかな光が満ちる。
その光の柔らかさに対して、込められた聖属性の濃度はぬいぐるみ越しでも伝わってくるほど強力なものだ。
それまでヴェルザグラトによって苦痛を堪えるような顔をしていたレオンも、ゆっくりと胸をさすってから自分の手のひらを不思議そうに眺める。
『……これは……治癒魔術、とは違うな』
『私の故郷に伝わる、病を癒すための祈りです。よかった……お顔の色もだいぶ戻られました』
……悔しい。
悔しいけど、やっぱりリノンにはメインヒロインがぴったりだなぁ。
かわいくて、健気で……いつでもひたむきで一生懸命なその姿には、人の心を動かす力があって。
ピンチにちゃんと駆けつけてくれるところも、もれなくみんなを簡単に助けちゃうところも。
「おっと、そうだった。王族の小僧の中のヴェルザグラトの気配に勘付いたという、シスターの小娘とやらにも声をかけておくといい。おそらくそいつの持つ聖属性の魔力には、小僧の中のヴェルザグラトの"悪意"を中和する力がある」
まさにヴァステリアのその言葉を受けて、今日この日、この時間に、この場所でレオンのことを助けてもらうため、私がかけた"保険"こそがリノンだった。
時間になっても来ないから何かあったのかと心配したけど……!
『到着が遅くなってしまい申し訳ありません、アゼリア様。故郷に私の大聖教典を取りに戻ってたんです。ですが、おかげでここに来る途中で王城にも丸ごと聖属性の結界を張ることができました。人間にはなんの影響もありませんが、魔と呪いの類をほぼ弾いてくれるはずです』
《なっ……!? 他の王家の人間どもから魔力を引き出せなかったのは貴様のせいだったのか!》
……ヴェルザグラトがレオンに固執してたのは、他の王家の人たちから魔力を引き出せなかったから……?
リノンは膝をついてわざわざ目線を合わせると、ぬいぐるみの視界越しに私へ微笑みかけた。
『ですからどうかご安心ください。私には高度な魔術戦闘はできません……ですが、私は私にしかできないことで、おふたりのお力になります。アゼリア様、どうかご存分に!』
《小癪! そして姑息! 人間ごときがこの我に抗うとは!》
まったく……どの口が!
リノンの聖なる歌声が響く中、王家の人たちの安全を確信した私とクロヴィスが目の前のヴェルザグラトに向かって剣を振ったのは同時だった。
二色の剣筋が交差して十字の残像を生む。
《ぬ、ぐうゥゥ……ッ!》
光の鎖と剣筋の残像の隙間から押し出されるようにして四方に吹き出した黒いモヤに触れると、服や皮膚が焼け爛れ、呪いのような黒い痣が残る。
浴び続ければ確かに厄介かもしれない……けど、それは魔力の回収に失敗した悪魔の悪あがきのように、私には見えた。
「お嬢様! お下がりください!」
「……」
クロヴィスの鋭い声に私は扉をチラリと確認した。
地面の魔術印から組み上がっていった巨大な光の扉は、壁に貼り付けられているミイラをそのまま通すことができそうなほどの高さになっている。
完成まであと1分を切った。
「……いいえ、このまま扉の完成まで押し切ります!」
「……!」
すぐに聖女の加護を編み直して本数を増やした光の鎖で再びヴェルザグラトを捕える。
攻撃の手を止めずに削れ!
斬り刻め!
数百年間王家の人たちの感情を奪い続けた悪魔を許すな!
聖女が命を賭けて守った未来を繋げ!
《軟弱で、群れなければ生きていけぬ、矮小生物の分際で……ぐ、ガアァァ……!》
魔と呪いを断ち切る宝剣と、"剣聖"の最大加護を受けた剣に魂を削ぎ落とされていく悪魔の咆哮が地下空洞を震わせたその時。
5つの鍵を外された虚界への扉が、ついに完成した。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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