人類 vs. 悪魔(3)
《ふはははは! なんだ、一番の馳走は外出中か! しかもよりによって虚界の隙間の目の前にいるとは! 馬鹿め!》
「……!」
《貴様に一部譲り渡した我が魔力、聖女に抵抗するために返してもらうぞ!》
ヴェルザグラトはレオンの体から魔力を引き抜こうとしている……!?
魔力は体力と同じだ。
長い年月をかけてその魔力を得てきたレオンの体から突然大量の魔力を抜いたら……急激な衰弱で昏睡状態になるかもしれない。
だめだ、今すぐ!
なんとしても止める!
私がヴェルザグラトを目掛けてソルヴェリオンを振り下ろすのと、クロヴィスがこの場に駆けつけて炎を纏った剣を薙ぎ払うのはほぼ同時だった。
《おっと、動くなよ人間ども》
「っ!」
拘束された黒いモヤを真っ二つにする寸前、私たちはピタリと動きを止める。
《貴様らにも見えているのだろう? この国の第一王子の命が誰の手の中にあるのか……解らんほど愚かではないだろう》
ヴェルザグラトがそう言うと、私のぬいぐるみの目の前で胸を押さえていたレオンが激しく喀血する。
「レオン様……!」
咳の合間に苦しそうに浅い呼吸を繰り返すレオンは、それでも虚界から侵入してきた悪魔を焼き払っていた。
どうして……さっきから治癒魔術が効いてない……!
《チッ……元から王家の人間にしては信仰心のない生意気な餓鬼だと思っていたが……なかなか受け取らんかった魔力を、今度は手放さないときたか!》
ヴェルザグラトの口調は忌々しさの中に少しの焦りが混じっていた。
レオンから自分の魔力を引き剥がすのに苦戦してる……?
『ゲホッ……アゼリア』
「!」
『自分の体のことは……自分が一番わかっている。俺に構わず、お前が為すべきことを、成せ』
「……っ!」
ぎりっと奥歯が鳴る。
レオンは自分の命がヴェルザグラトに握られてることを理解してる。
そして悪魔がそれを私への脅しのネタにしてることも。
その上で私にその言葉をかけてくれたはずなのに……なのに、ソルヴェリオンを握る手は心と体から相反する命令を受けてしまって動かない。
《我に抵抗するとは小癪な……ただで済むと思うな!》
いつでも冷静なレオンが珍しく目を見開く。
その先には彼の右手があった。
まるでソルヴェリオンを握る私の手と同じように、ふたつの命令を受けたその手は小刻みに震えて動かない。
《虚界の悪魔ども! 小僧を引き裂き、我に魔力を献上せよ!》
レオンの右手に凝縮された熱エネルギーが、彼の意志に反して地面に叩きつけられた。
大きな地鳴りと共に、アイリスの剣が刺さっていた地面に大きな穴が開く。
底が見えない穴の暗闇の中には濃紺の霧が立ち込めていて、大勢の何かが蠢いていた。
まずい……!!
私は咄嗟にぬいぐるみを通して魔術防御壁を何重にもして穴を塞いだものの、中から鋭い爪のようなもので強く引っ掻かれているようで、物理攻撃には脆いそのシールドは張るそばからどんどん削られていく。
「レオン様、ここはわたくしが押さえ込みます! どうか安全なところへお逃げください……!」
『アゼリア、』
《はっはっは! 無駄な足掻きよ! 我の魔力を持つ身で、我から逃れられるわけがあるまい!》
「うるさい……! やってみなきゃわからないでしょ!」
だって、このままここでレオンを悪魔たちのエサにするわけにはいかない……!
視界の一部を共有されているクロヴィスも、苦々しい顔で黒いモヤを睨みつけたまま剣を振り切れないでいる。
『……アゼリア、聞いてくれ』
「!」
それは森の奥の静かな泉のような……とても澄んでいて落ち着いた声。
レオンは口の中に溜まった血を鬱陶しそうに吐き出すと、足にぐっと力を入れて立ち上がった。
『俺はお前に……謝らなければならない』
「……? な、なにを……」
『お前の運命を……未来を、俺のせいで歪めてしまった』
「そんな……なにを言っているのですか……。わたくしはそのようなこと、一度も思ったことはありません」
『はは……そうか。ありがとう』
どうしてこんなタイミングで……初めて見たレオンの笑顔が、そんな悲しそうな顔だなんて。
『……安心しろ。俺は悪魔の人質にはならないし、王国を滅ぼす手助けもしない』
《! 小僧、貴様まさか……!》
レオンは腰に差していた剣を抜くと、それを迷わず自分の首元に当てた。
待って……ちょっと待って!!
私が!
なんとかするから……だからまだ!
『クロヴィス……アゼリアを頼む』
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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