満月の夜の戦いへ
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そしてついにやってきた、ヴェルザグラトとの戦い……満月の日。
事前の打ち合わせにより、私とクロヴィスはレオンの招待を受けて王城での食事会に参加し、そのままレオンと話が盛り上がってしまったので宿泊まで面倒を見てもらう……という話になっている。
まあ、正直ツッコミどころのある筋書きだけど。
月が高く昇った夜中に王城の中を歩いているところを万が一誰かに見つかっても言い訳ができるように、とのレオンの配慮らしい。
食事の席のためのドレスや手土産としての献上品などを用意したらなんだかんだ荷物がかなりの量になってしまい、リーナともう1人、使用人が付き添ってくれることになっている。
そしてフェリオール家の屋敷の転移門には他の使用人たちだけでなく、ジェトリウスやヴァステリアも見送りに出てきてくれていた。
「……長い夜になるだろうが、この"諦観の魔術師"が直々に、貴様らが無事に戻ることを祈ってやらなくもないぞ!」
腕を組んでふんぞり返りながらそう言ったヴァステリアからは、昨日の夜のうちに私とクロヴィスにお守りとしての宝具が渡されていた。
それらはそれぞれ私の指先とクロヴィスの耳元に小さく輝きを放っている。
「ふふ、ありがとうございます、師匠。おかげさまで万事抜かりはありません。師匠もどうか、わたくしの部屋のぬいぐるみたちをよろしくお願いします」
「ああ、無論だ。その程度ならティアレインの刑期について、お咎めもないだろうしな」
「……」
「……貴様からも何か声をかけんか!」
隻角の美女が隣に立つ鉄仮面の男の背中を容赦なくスパーンと叩くと、その場にいた使用人たち全員がもれなく音がするほど凍りつく。
それでも冷静なジェトリウスはちらりとヴァステリアを一瞥しただけで、その非礼を咎めたりはしなかった。
「私が改めて言葉にせずとも、クロヴィスにはフェリオール家の騎士としての精神がきちんと刻まれている」
『生きて帰ってきてこそ、一人前の騎士』。
愛する家族のため、大切な仲間のため……近しい人たちの笑顔を見届け、幸福を一緒に分かち合うためには、戦場で命を落としてはならない。
ジェトリウスの騎士道精神は生きることにあるのだ。
「お前たちが殿下と共に成そうとしていることは、確かにこの世界の未来に関わることだ。勝利にはこの上ない名誉と栄光、賞賛が与えられる。が、命と引き換えにした勝利は敗北以下だと心しておけ。死ぬことは美談ではない。必要であれば全てを捨て、己の命だけでも持ち帰れ」
「……っ! ありがとうございます、お父様。そのお言葉、しかと胸に刻みます」
ジェトリウスの言葉に、クロヴィスもきちんと足を揃えて敬礼をする。
私たちを鼓舞してくれたふたりの話を聞きながら、事情を知らない使用人たちは「レオン殿下との食事会っていうのは戦争に行くのと同じような心持ちが必要なのか……」と息を呑んでいたようだった。
「それでは、お父様、師匠。いってまいります」
リーナが転移門を起動し、私たちはみんなに見守られる中、決戦の地であるエルグランド王国の王城へと転移を遂げた。
王城に着くと、エントランスでレオンから直々の出迎えを受けた。
付き添いで来ていたリーナは目を丸くして驚いてから、ハッとした様子で慌ててその場に膝をついて頭を下げる。
そりゃそうだよね……いくら婚約者だからって、わざわざ王族自らエントランスまで出迎えになんて普通は来ない。
「本日はお招きいただき光栄にこざいます、レオン様」
その場で完璧なカーテシーを見せた私にレオンは小さく頷く。
「客室を用意させてある。食事の時間まで自由に使うといい」
「ありがとうございます」
レオンが出迎えをしてくれたということは、夜間の城内の警備の調整と5ヶ所の聖女像付近の人払いが抜かりなくうまく手配できた、ということ。
事前の打ち合わせ通り、食事会を終えたら私とクロヴィスはヴェルザグラトの封印されている王城の地下へ、レオンは城から一番近い王立公園の聖女像へ向かって戦いに備えることになる。
王家の執事に案内をされ、代わりに持参した献上品を渡してから、私はレオンの手配してくれた客室で使用人たちにドレスアップを手伝ってもう。
リーナは終始興奮気味に、今日の食事会への招待やレオンが直々に出迎えてくれたことについての憶測をあれこれ楽しそうにしていた。
そして私のヘアアレンジとメイクが終わったころには、「きっとレオン殿下はお嬢様のことが大好きなのでしょう!」という結論に着地した。
……残念ながらそうではないんだけど、真実は伏せておくことにしよう。
2人の使用人たちはいつものように自己肯定感が上がる言葉を惜しみなくかけてくれてから、お食事を楽しんでくださいね、と笑顔で言ってフェリオール邸へと戻っていった。
着替えを終えた客室にクロヴィスが入ってきて、私を見て笑顔で「お綺麗です」と迷いなく言う。
……相変わらずすごいキラッキラしてるな。
本当に、普通のご令嬢だったら間違いなく恋してるレベルだ。
「殿下との食事会までもう少し時間がありますね」
部屋の時計を見たクロヴィスがそう言った。
「リーナたちがお茶を用意しておいてくれました。クロの分もありますよ。あなたも少し休んでおくといいでしょう」
「ありがとうございます。せっかくなのでいただきます」
珍しく私の提案に従ってテーブルへ近づくクロヴィスと入れ替わるようにして、私は窓辺に近づく。
初夏の外は日が長くなってきたものの、時間的にもだいぶ暗くなってきた。
王城の中でも高い位置にあるこの部屋からは、夜空に昇っていく満月がよく見える。
今の私ならヴァステリアの言っていたことが体感としてわかる。
この世界の大自然のマナから魔術を生み出す聖女の加護。
太陽を強く反射する月が大きく出る夜は、暗い夜よりも確かに魔力の巡りがいいと。
……いよいよなんだ。
この世界の未来を守るための戦いが、始まる。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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