復学、決意
「それはできない」
ガーン………………。
騎士団での白熱した『昇進ボール』の見学を終えると、クラリエの後押しに勇気づけられた私は早速ジェトリウスに戦術訓練をつけて欲しいと単身頼みに行った。
もちろん彼の忙しさは理解しているので、手が空いているときに、少しだけでもいいからと付け加えるのを忘れずに。
執務室で書類と向き合っていたジェトリウスは、そんな最大限気を遣いつつ極力努めてかわいく伝えた娘のお願いを、ものの0.1秒で切り捨てた。
私にはまだアゼリアでおねだりをするのは早かったらしい……しょうがない、前世でもそんなことしたことないし!
「な、何故だか、お聞きしても……よろしいでしょうか……」
「理由は3つ。1つ、私とアゼリアでは剣術の力量差が大きすぎるため稽古にはならない。2つ、魔術に関してはむしろ逆のため、また然り。3つ、これは私自身の問題なのだが、申し訳ないことに付きっきりで稽古をつけてやれるだけの時間が今は取れない」
……確かに、ジェトリウスはいつ寝てるのかもわからないくらい働きっぱなしだ。
今も私と会話をしながら書類を確認する手をまったく止めない。
落ち込みもするけど、「仕事より私を選んで!」なんてメンヘラじみたことを言うつもりもない。
「剣術訓練に関してはヘルムートに相談して騎士団での訓練に参加することが、やはり効率的にはいいだろう。魔術の戦闘訓練に関しては、聖女の加護を持つお前にも指導ができる魔術師に心当たりがある。すぐにとはいかないだろうが、必ず手配しよう。それまではアルセリア王立学院へ復学することが最善かとは思うが、これはお前の体調を鑑みた上で決めることだ」
あーあ、やっぱり復学するしかないのかぁ……!
とにかくアゼリアは人間関係構築のスキルにだけ生まれつきマイナス補正が入っているような子だったから、高位貴族の令息・令嬢ばかりが通う王立学院なんて言うなればそこらじゅう敵だらけ、というかほぼ敵しかいないような場所だ。
騎士カリキュラムをこなすクロヴィスとは学年も履修科目も違うから授業で顔を合わせることはほとんどないし、そうなると才能と性格を妬まれてしまってはその存在は孤独なものだった。
そう……私が長く生きるため、数多あるアゼリアの悪役令嬢バッドエンドルートを回避するためにも砕くためにも絶対に避けて通れない高すぎる壁が、学院への復学だ。
正直なところ、体調はもうすっかり万全だった。
医者の先生が心配していたメンタル面も、一度突然の死を経験した身としては今こうして生きている喜びと感謝のほうが大きいのでもう問題はない。
だからすぐにでも復学できる状態ではある……けど、アゼリアがしたくないと思っているってだけで!
逃げていても仕方がないのはわかっているけど、私の意志とは別にこの体が復学を嫌がっている……。
とはいえ学院以外に、今は誰かと魔術訓練ができる場がない。
そうこうしている間にも次の刺客がアゼリアの命を狙うかもしれないのだ。
「わ…………わかりました。わたくしの体調はもう万全です。学院へは週明けから復学いたします」
「そうか。すぐに手配しよう」
あぁ~~~~、やっぱりこの判断……完全にやっちまったか~!?
でも、いつまでも自分の部屋で紅茶を捏ねてるだけじゃ強くなんてなれないじゃん……!
またいつ命を狙われるかもわからないのに!
頭(※私)が体(※アゼリア)をなんとか説得している間、無表情なりにジェトリウスが喜んでいるように見えてしまい、「やっぱり今のナシ」とも言えない雰囲気のまま、私は泣きそうになりながらその執務室を後にしたのだった。
『アゼリア』の復学まで、あと4日。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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