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王家の秘密

挿絵(By みてみん)

そのまま詳しい時間や手順についての相談も終えると、レオンは最後にもう一度私たちを見回して「他に意見がなければ本日は以上とするが」と締め括る。

私は膝の上の手をわずかに握り締めて、ひとつよろしいでしょうか、と彼を見た。



「なんだ」


「……ヴェルザグラトとは別件なのですが、レオン様にご覧いただきたいものがございます」



私は転移魔術で例の指輪を呼び出すと、そっとレオンへ差し出した。

受け取った指輪をくるりと見回し、その鮮やかな紅の宝石と、その内側に彫られた王家によく似た紋で目を止めたレオンは私を見る。



「これをどこで手に入れた?」


「……『公開試験会』の報酬としていただいた陶芸品の中に」



あれを壊したのか……と私を責めるような言葉をレオンは口にしなかった。

ヴァステリアは腕を組んでニヤニヤしながら彼を見ている。

この指輪がなんなのか、彼女は概要を把握してるんだろう。


レオンは指輪を静かにテーブルに置いた。



「……この紋様は本来の王家のものだ。おそらくこの指輪は、その本来の王家の最後の王が手にしていたものだろう」



…………本来の、王家?



「この国の王家の血筋は600年前に一度滅んだと聞いている。俺たちは分家から本家へ入った養子の末裔だ。国民には明かされていないがな」



王家が、一度滅んでた……!?

その言葉に思わず目を見開いたのは私だけじゃなくて、クロヴィスも同じだった。



レオンは自分の右手の親指にある指輪を静かに見つめる。

それはエメラルドグリーンの宝石が嵌められた、細かな装飾のある美しいものだった。



「この指輪は王位継承権を持つ王家の人間のみに与えられるものだ。生まれた日に採掘された宝石の中から最も美しいものを選んで指輪にし、死後も共に埋葬される、言わば分身のようなもの。歴代国王の墓の中に指輪の埋葬記録がないものは、その本来の王家最後の王のみ。それが600年前の聖女が手がけた陶芸品の中から出てきたということは……」



……そんな大切なものを渡すほど、その国王にとって聖女……アイリスは特別な存在だった……ってこと?



「その王は逝去に至るまで頑なに王妃を迎えなかったため、後継が絶えたと記録されている。おそらくその理由がこ(・)れ(・)だったんだろう」


「…………」



つまり……その国王にとってアイリスは、聖女として以前に1人の女性として特別な存在だった。

けれども王妃に迎えられる女性は王家の人間の意志に関わらず、家柄や教養……全てが優れていなくては、認められることはない。

今まで得た断片的な情報から判断しても、アイリスという聖女は爵位の高い家の出身者ではなさそうだった。


とはいえ国王の言葉は絶対だ。

たとえ血筋が途絶えようと、アイリス以外の女性は王妃として断固迎えないと意地を張ってしまえば、その国王を従わせることができる人はいないんだろう。

普通に考えれば周囲は当然あらゆる手を使って国王を説得したはずだけど、結局国王は最後まで折れなかった。


王宮からしてみればアイリスは王家の直系を途絶えさせた、見方によっては重罪人だ。

聖女としてどれだけ華々しい功績があって、多くの人の命を、世界を救ったとしても、その名前を後世に残すことは許せなかったんだろうな。

だからアイリスの功績は隠され、歴史の中に埋もれて、聖女が世界を救った史実はただの伝説……おとぎ話としてしか伝えられていなかったのか。



おそらく私と同じ答えに行き着いたであろうレオンに、ヴァステリアは挑戦的な視線を投げかける。



「王家の秘密と聖女の功績は過去から今に至るまで複雑に絡み合っている。ヴェルザグラトをこの世界から追放できたとして、貴様はどういう判断を下す? 現代の聖女は貴様の婚約者だが、その功績は公表しないまま、誰にも讃えられることなく、今までと同じように多くの歴史の中に埋もれさせるつもりか?」


「……」



……別に私は誰かに褒められたくてヴェルザグラトを追放するために体を張ろうとしてるわけじゃない。

自分に救える力があるのに手を差し伸べなかったら、きっと私は来世でも夢に見るくらい後悔する。

そう思ったから、言ってしまえば自分で自分に胸を張っていたいっていう自己満足のためだけに、この決断をしたのだ。


けどありがたいことに……レオンもヴァステリアもそれを"なかったこと"にするつもりはないらしい。

っていうか、まだヴェルザグラトとの戦いは始まってすらいないんですけど~!?

まあまあ全部終わってからゆっくり考えたらいいじゃん、と言おうとした私はレオンの顔を見て思わず口をつぐんだ。



「そもそも今回のヴェルザグラトの復活も、元を辿れば600年前の聖女に対する王家の裏切りによるものだ。これは国の存亡が関わる事実を公表しなかったために起こり得たのだと俺は考える」



レオンの声はいつもと変わらない、冷静で落ち着いた様子だったけど、その目には決意が宿っていた。

ヴァステリアはにやりと口角を上げる。



「つまり?」


「ヴェルザグラトとの戦いが終わったら国民へ向けて全て公表しよう。王家の秘密と罪も、聖女の功績も、全て」


「くくく……貴様もなかなかぶっ飛んでるな。この国がひっくり返るかもしれん大スクープだというのに、迷いもしないとは。だが、その意気は気に入った。この"諦観(ていかん)の魔術師"が、600年前の馬鹿弟子に代わって歴史の転換点を見届けてやるとしよう!」

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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