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満月の夜に向けて

挿絵(By みてみん)

◆


『公開試験会』が終わってから一夜明けて、アルセリア王立学院は後片付けで休校のまま、穏やかな週末の休みに突入した。


私はいつも通りの時間に起きて朝食を終えると午前は学院の課題を、午後には騎士団の訓練に参加した。

一晩の間に当然『公開試験会』での私とクロヴィスの活躍はすでに騎士団にも知れ渡っていて、一緒に汗を流した団員たちは口々に祝福の言葉を贈ってくれた。


夜は前日から仕込みをしてくれた料理人たちによる豪華なディナーで、フェリオール家の関係者が招かれて私とクロヴィスの『公開試験会』の祝勝パーティーがおこなわれた。

ジェトリウスの計らいによって騎士団や使用人たちも正装をしてパーティーに参加し、お酒やスイーツ、アゼリアとクロヴィスの好物がたくさん並び、締めの余興では角の折れたヴァステリアが華やかな花火を打ち上げる。


どこに目を向けても慣れ親しんだ人たちの笑顔が溢れていて、今ここにある時間こそが間違いなく"特別な日常"だった。


10年後も20年後も……アゼリアの死後、100年後の未来でも、そんなささやかな日常が変わらずに訪れることを願いながら、ヴァステリアと聖女の加護の最終調整をおこなった私は、翌日の午後……フェリオール家で再びレオンと顔を合わせた。



仰々しい護衛の騎士たちに部屋の前で待つよう告げたレオンは、以前と同じくヴァステリアの亜空間に用意されたテーブルに3人で着席すると、相変わらず用意されたお茶には手をつけずに口を開いた。



「改めて、まずは『公開試験会』複合部門優勝の栄誉に賞賛を。ご苦労だったな」


「ありがとうございます。お褒めに与り光栄でございます」



一往復もしなかった簡素な前置きを気にする様子もなく、レオンは淡々と言葉を続ける。



「そして本題だが。先日話したヴェルザグラトの件について、お前の出した答えを聞こう」


「……はい」



私は深呼吸をしてから、レオンの凪いだ海のような瞳を真っ直ぐに見つめた。



「ヴェルザグラトは、わたくしがこの世界から追放いたします」



レオンは表情を変えることなく静かに瞬きを挟むと「そうか」と呟いた。



「聖女の加護によって命を落とす危険性について、何か解決策が見つかったのか」



私はレオンに具体的な方法は伏せつつ、全力の聖女の加護に耐えられる肉体を得た、という結果だけをかいつまんで説明した。

案の定彼は深追いしてくることはなく、わかった、とだけ短く答えただけだった。



「手段が決まったのであれば、あとは具体的な打ち合わせと日程についてだが」



レオンがそう言うなり、テーブルの上に王国の地図と5つの駒が現れた。



「ヴァステリア殿。あなたは以前、虚界との亀裂が生じやすいこの5ヶ所に、過去の聖女による結界があると言ったな」



ヴァステリアは地図を見てわざとらしく驚いた。



「ほう? よく覚えているじゃないか」



レオンはヴァステリアの失礼な態度を咎めることはしないで、地図に視線を落とす。



「この5ヶ所にあるのは王立公園……緊急時の国民の非難場所として設けられた広場と、広場を見守ると伝えられる伝説の聖女像だが、何か関係はあるのか」


「無論。その聖女像は中が空洞になっていて、中には剣が、地面に直接刺さっているはずだ。あの生意気な小娘の張った結界を緩めるにはその剣を地面から抜けばいい」



私は『公開試験会』の報酬で受け取ったアイリスの陶芸品(今思えばあれはエスカテをイメージして作られたものだったんだな……)の中に、王家に似た紋様の入った指輪が隠されていたことを思い出した。

当時は美しい像の中に大切なものを隠しておくのが流行ってたのかもしれない。



「ある程度の人払いはさせるが、騒ぎを避けるためにも決行は夜を考えている。不都合はないか」



レオンに向けられた視線を受けて私は黙って首を横に振ったけど、ヴァステリアは顎に手を当ててふむ、と考え込んでいた。



「昼間は人間の感情が溢れているからな、夜のほうがヴェルザグラトの動きも封じやすいだろう。……それであれば次の満月の夜に決行するといい」


「満月の夜?」


「貴様ら王家の人間は今まで新月の夜にヴェルザグラトに"エサ"を与えていたのだろう? 月のない夜に奴の動きが活発化するのであれば、単純に月が明るい夜はその逆だと考えられる」



ヴァステリアの満月のような瞳はどこか遠い過去を映しているようだ。



「加えて、聖女の加護という力は大地のマナから魔力を得るものだが、月はその源である太陽の光を反射している。……人間を殺すことなど虫けらを潰すも同然だったろうに、600年前にそのたった1人すら殺せなかったということは……ヴェルザグラトという悪魔は、余程大地のマナとの相性が悪いんだろうよ」



レオンはヴァステリアの言葉に頷いた。



「では、ヴェルザグラト追放は次の満月の夜。1週間後におこなう」


普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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