遺作に隠されていた秘密
私とクロヴィスが転移門を通って帰宅すると、フェリオール家の屋敷はまるでパーティー会場のようになっていた。
出迎えてくれた使用人たちは魔術道具のクラッカーを鳴らしてくれて、私たちの優勝を口々に祝福してくれたし、屋敷内は廊下にまで華やかな飾り付けがされている。
「わたくしとクロの優勝が決まったのは先ほどのことだというのに……よくこれだけ素晴らしい飾り付けができましたね」
よく見ると廊下の花も本物のようだ。
使用人のリーナは溢れんばかりの笑顔で教えてくれた。
「ふふ、飾り付けは話を聞きつけたヴァステリア様が。パチンと指を鳴らしたら屋敷中このような素敵な姿になっていたんです!」
なるほど、彼女の得意げな顔が目に浮かぶ。
料理の仕込みが間に合っていないとかで本格的な祝勝パーティーは明日の夜におこなわれるそうだけど、今日の夜も十分に豪勢な料理がテーブルに並んでいた。
珍しくジェトリウスも夕食の席に同席してくれて、嬉しそうなクラリエやミモナと久々に家族水入らずでディナーを囲むことができた。
そして夕食後。
私はクロヴィスと一緒にヴァステリアの部屋を訪れていた。
ノックのあとすぐに顔を出したヴァステリアに、いつもの亜空間へと招き入れられる。
「ふたりとも試合とやらの結果は上々だったらしいな。使用人たちが興奮気味に知らせに来たぞ」
「師匠の適切な指導のおかげです。ありがとうございます」
「ふふん! 儂の指導が一流なのは当然のことながら、ちゃんと修行についてこられたのは貴様らの力だ。誇るがいい」
私は苦笑いをしながら、それはそれは得意げな様子でそう言ったヴァステリアの視界から、見るからに「お前のおかげじゃない」みたいな顔をしたクロヴィスをさりげなく隠した。
「そ、そういえば! 『公開試験会』の優勝報酬として、アイリス様の遺作といわれている陶芸品をいただいたので、師匠にもお見せしようと思って」
「! あいつの遺作……」
「はい。美しい妖精の像のようです」
私は転移魔術で亜空間内にデミスから受け取った陶芸品を呼び出してヴァステリアに見せた。
足元に置いても私の腰ほどまであるその美しい白磁の妖精を、彼女は顎に手を当ててじっと下から上まで眺めている。
「これは……」
「この作品をご存知なのですか?」
「…………ああ。この女性は儂と融合した悪魔、ティアレインの姉だ」
「!」
確かに人とは少し違う造形だと思ってたけど……まさか妖精じゃなくて魔族だったなんて。
「儂が彼女から聞いていた姿をあの大馬鹿者に伝えたところ、そんなに美しいのなら形として残さなければもったいないと言ってせっせと作ってな。あいつの遺言に従って、死後この国の王家にこれを含むいくつかの作品を届けてやったのは他ならぬこの儂なのだ。死んでもなお人を顎で使いおって……チッ! 思い出しても腹が立つ!」
ヴァステリアは苦々しい顔で美しい陶芸品を睨んでいると、何を思ったのか、突然その像を指先でピンと弾いた。
像はガラガラと音を立てて粉々に砕け落ちる。
ぎゃーーーーーっ!?
「し、し、師匠! な、何……なんてことを……!」
600年間も王家で大切に保管されていた国宝級の陶芸品を、指1本で破壊するなんて!
さすがのクロヴィスも目を丸くしている。
「ああもう、騒ぐな落ち着け。貴様は儂がただ感情に任せて教え子の作品を破壊するようなヒステリックババアだと思うか?」
事実だけ見ると十分そうなんだけど!?
ヴァステリアは砕けた陶芸品を指差す。
「よく見ろ」
「……?」
破片に混じって何かがきらりと光った。
空洞になっていた陶芸品の中に隠されていたようだ。
ヴァステリアが魔術で拾い上げたそれは、美しい紅の宝石の嵌め込まれた指輪だった。
内側には王家の紋に似た模様が入っているものの、よく見ると少し違う。
「これは……?」
「まさかこんなところにあったとはなぁ。この国の王家の秘密のうちのひとつ……とでも言っておくか」
「お、王家の秘密?」
「おそらく儂よりも王家の歴史に詳しい人間を、貴様もよく知ってるだろう」
それは……レオンのこと?
ヴァステリアは私の手の中に指輪を落とすと、ふん、と鼻で笑った。
「それを奴の眼前に突きつけて聞いてみろ。おそらく貴様には嘘偽りなく答えるだろうよ。なんせ未来の妃なわけだからな」
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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