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夢

挿絵(By みてみん)

浅い眠りの中で夢を見た。


あれは……前世の私だ。

会社の中での評価は、可もなく不可もない。


教育担当でもあった上司は厳しく、高圧的で感情的に怒る人だったせいで、彼に怒られたくなくて必死に仕事を覚えたころ、新人が入って来た。


次に上司のターゲットになったのはその子だった。

私は結局一度も彼女を庇うことができなかったことを、ずっと申し訳なく思って悔やんでいた。

助けてあげられなくてごめん……


でも今の私には聖女の加護がある!


夢の中の前世の私は上司に向かって飛び蹴りをしたあと、助走をつけて思いっきり殴った。

上司はギャグ漫画みたいに派手に回転しながら、オフィスの端まで吹き飛んだのだ!


や、やればできるじゃん、私!

今まで一度も逆らえなかった上司に、蹴りと拳を入れてやった!


後輩は涙を流しながら、「先輩、ありがとうございます……言えなかったけど、本当はずっと怖かったんです」と弱々しく打ち明けてくれた。

すぐに助けてあげられなくてごめんね、でももう大丈夫。


いざ立ち向かってみたら、怖かったのは最初だけだった。

私はもう、上司にだって負けない!



「やってみろ、■■! どうせお前はまた見て見ぬ振りをするに決まってる! 争いたくないと平和主義を謳っているようで、自分だけ痛みから逃げているようなお前には、何もできやしない!」



う、うるさい!

私は強くなったんだ……!

多少の痛みには耐えられるし、自分だけじゃなくて、誰かを守ることだってできるようになったんだ!


不敵に笑って立ち上がった上司に、私はまた拳を…………



「……っ!」



振りかざした拳を受け止められる感触に私は目を覚ました。

拳を受け止めていたのは上司じゃなくてクロヴィスで、驚いたような顔をして私のことを見下ろしている。



「だ、大丈夫ですか?」


「ご、ごめんなさい、クロ……」



私はクロヴィスに受け止められた拳を下ろしてからゆっくりと起き上がる。

固く握り締めていた指を解いていくと、手のひらにじんわりと汗をかいていた。



「なにか嫌な夢でも……?」


「…………」



夢…………そう、夢だ。

前世の私が絶対に敵わない、従わなければいけないと思ってた存在へ、反旗を翻して拳を振り上げた夢。



「ふ、ふふ……」


「……お嬢様?」



私は震える手をもう一度握り締めて、込み上げてくる自嘲に身を任せる。


……なんだ、やればできるんじゃん。

今の私の手は、誰かを守ることができる。

今の私には、敵わないと思ってた敵へ立ち向かう勇気がある。


怯えて涙を流す存在に笑顔を。

何より私自身が罪悪感と後悔を抱えたまま生きていかなくてもいいように……私自身に、胸を張れるように!



「ふぅ……」



私は深く息を吐いてからクロヴィスに向き合った。



「心配をさせてごめんなさい。嫌悪する相手と殴り合いの喧嘩をする夢を見て……」


「……そうでしたか」


「でも安心して。無事この手でボコボコにしてやりましたから!」


「!」



ガッツポーズをして見せた私に、クロヴィスは目を丸くしてからふわりと笑ってくれた。



「さすがお嬢様です」


「ふふ。わたくしには意外と体術の才能があるのかもしれません。あいつが綺麗に吹き飛んだところを、クロにも見せてあげたかった」



思えば、アゼリアに転生してから前世の夢を見たのは今回が初めてだった。

仕事と上司、最後まで庇うことができなかった後輩。

前世の私の後悔と未練は、大事な人たちに別れを告げられなかったことだけじゃなかったんだなぁ……。



「……わたくしはどれくらい寝てました?」


「まだ15分くらいです」



その割には随分頭がスッキリしたし、体もよく動く気がする。


普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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