『公開試験会』最終日
『公開試験会』、最終日。
初夏らしい爽やかな青空に反して、私の心の内はどんより重い曇り空のようだった。
今日はギルベルトという強敵を相手に複合部門の決勝戦に挑むっていうのに、熟睡できなかったせいで体調まで最悪だ。
だめだめ、切り替えないと……。
気合いばっちりの使用人たちにメイクもヘアメイクも綺麗に仕上げてもらった私は、しっかり朝ごはんを食べてから学院へ向けてクロヴィスと一緒に転移門を潜った。
最終日の今日は決勝トーナメント期間とは逆で最初に剣術部門の決勝……クロヴィスの試合があり、次に魔術部門の決勝、レオンの試合。
大トリが複合部門の私とギルベルトの試合というスケジュールだ。
全ての試合が終われば、4日間戦い抜いた選手たちの勇気と栄光を讃え、闘技場で閉会のセレモニーが華々しくおこなわれる。
「やー、4日間とか秒だったわー」
「4日間が秒なわけないじゃない」
「え、比喩とか知らん?」
「大袈裟すぎて共感しかねる比喩は比喩ではなくただの妄想、もしくは勘違いよ」
四大公爵家用の観覧席には今日もルチアナとミレーユの姿があって、2人はいがみ合いながらも同じテーブルでお茶を飲んではお菓子をつまんでいた。
なんていうか……もしかしたらこれが2人の適切な距離感ってやつなのかもしれない。
クロヴィスはフェリオール家のみんなの期待に恥じない圧倒的な強さで、『公開試験会』剣術部門6度目の優勝を見事に勝ち取った。
レオンも王族らしい堂々とした戦いぶりでその手に優勝を収めたところで、今眼下の闘技場は整備と浄化作業がおこなわれている。
このままであれば予定通り、2時間後には私の試合が始まりそうだ。
私がティーカップを置いて立ち上がると、ルチアナとミレーユは話すのをやめて同時にこちらを見上げてきた。
「お、もう行くん」
「はい。試合前に少し集中しておきたいので、早めに控え室へ入っておこうかと」
「正解ね。ここじゃ誰かがうるさくて気が散るでしょうし」
「は~? お前のことだからな?」
相変わらずの様子に思わず笑みをこぼすと、2人は顔を見合わせてからまた同時にこちらを見上げる。
「……オホン。わたくしからの心配など不要でしょうから、あなたが全力を出せるように祈っているわ、とだけ」
「ミレーユ……ありがとうございます」
「今日はあの辺の席一帯に応援弾幕出すから! めっちゃ元気出るやつ」
「ふふ、ありがとう、ルチアナ。試合中に挫けそうになったらあなたの弾幕を見上げますね」
頑張れ、と笑顔で送り出してくれた2人に改めて礼を言う。
通路に出るときに目が合ったクラリエも、いつものようにふんわりと微笑んで、私へ小さく手を振ってくれた。
闘技場の控え室へやってくると、すでに何度か顔を合わせた事務員が穏やかな雰囲気で出迎えてくれた。
「お早いですね! 選手の使用武器の登録はもう少しあとなんですが、お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろん、予定通りで問題ありません。その……時間まで少しここで休ませていただきたいのですが、席を外してもらうことは可能でしょうか」
「ええ、構いませんよ。それでは手続きのお時間になったら戻って参りますね!」
「ありがとうございます」
失礼します、と言って笑顔で控え室を出て行く事務員を見送ってから、私はソファーに体を沈める。
色々考えてたことによる寝不足のツケがこんなところで来るなんて……。
「クロ、1時間経ったら起こしてくれる?」
「わかりました」
「ありがとう……」
闘技場の控え室とはいえ、ソファーは私が横になれるほど大きいしそれなりに柔らかい。
ただ、枕にできるようなクッションがなく……高さがどうも悪くて何度もごろごろ寝返りを打っていると、クロヴィスが控えめに声をかけてきた。
「……あの、お嬢様」
「ん?」
「俺の膝でもよければお使いください」
脳はやや遅れてその言葉の意味を理解した。
…………クロヴィスが膝枕してくれるってこと!?
「い、いいのですか?」
思わず飛び起きてクロヴィスを見る。
「もちろん。余計寝にくいようであれば退きますから言ってください」
クロヴィスはソファーの端に座るとどうぞ、と膝を差し出してくれた。
お、お邪魔しまーす……!
ちょっとだけ緊張しながらその膝に頭を乗せる。
仰向けだと少し高いけど横向きならいけなくはないな。
私はクロヴィスに背を向けるようにして膝枕をしてもらうと、自分でも驚くほどすぐに眠りの中に落ちていった。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
★毎日22時に続話追加




