↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
106/141

ヴェルザグラト(1)

挿絵(By みてみん)

私のノックを聞いてすぐに客室のドアを開けたヴァステリアは、真剣な顔でじっと私の顔を見つめてから、入れ、と短く言った。

え、な、なに今の……?



「王家の小僧、土産は受け取ったぞ」



彼女の亜空間に招き入れられた私たちは、使用人たちが用意してくれたらしいお茶や、レオンがヴァステリアのために用意した手土産の高級菓子を並べたテーブルへと案内された。

クロヴィスを除く私たちが円形のテーブルに三角に位置取って座ると、レオンは私たちの顔を順に見て口を開く。



「改めて、本日はお招きいただき感謝する、アゼリア、ヴァステリア殿。以前頼んでいた件に進展があったとのことだが」



ヴァステリアは湯気の立つ香り高い飴色の紅茶が揺れるティーカップへ手を伸ばす。



「ああ。小娘からの情報により、儂(ワシ)も諸々調べがついた。順に話そう」



紅茶を一口、二口……飲んでから、ティーソーサーにカップを置いた彼女は満月のように黄金に輝く瞳を私、そしてレオンへと順に向けた。



「王家の地下に封印されている悪魔の名はヴェルザグラト。他者から奪った『感情』を自分の『魂』、魔力へと変換する能力を持つ。600年前に時の聖女が王城の地下に封印し、その封印の守護を貴様ら王家の人間に任せた……災厄の悪魔だ」


「……」



聖女。

悪魔。

封印。

普通の人間であればそんなの物語の中の話でしょ、と笑いかねないワードが続いても、レオンは表情ひとつ変えない。



「だが、今から320年ほど前……悪魔の声に耳を傾けてしまった当時の王家の人間が、自分たちの『感情』を与えることと引き換えに、奴から『魔力』の一部を受け取るという取引をしてしまった。それによって、ヴェルザグラトは聖女に削がれた魂を今日(こんにち)まで320年かけて補完し続けてきたというわけだ。あえて強い言葉を使うのであれば、これは600年前の聖女への裏切りであり、王家の罪と言えるだろうな」


「……」



まるで試すかのように言葉を切って、ヴァステリアはニヤニヤと笑いながらレオンの反応を見ていた。


王家の人間は代々冷酷無慈悲で合理的、笑わないし、怒らない。

感情的になるほどつけ込まれやすいからそう教育されているものだと思っていたけど、実際は……自分たちでも知らないところで悪魔に感情を奪われてたせいだったのかな……。


レオンはヴァステリアの言葉に動じることなく、いつも通りの冷静な瞳を彼女に向ける。



「では、俺たち王家がその罪を償う方法についても聞かせてもらおうか」


「ふん」



ヴァステリアはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、テーブルに頬杖をつきながら紅茶に角砂糖を落とす。



「小娘たちには伝えてあるが、ヴェルザグラトという悪魔は人間が相手取って討伐をすることはおそらく不可能だ。なぜなら人間は感情の生き物であり、ヴェルザグラトは感情を餌にする悪魔だからな。となってくると、残された選択肢は2つ。再封印か、この世界からの追放か」



ティースプーンでゆっくりとかき混ぜられる飴色の液体に、4人分の視線が注がれる。



「ヴェルザグラトを再封印することのメリットは、なんといってもリスクの低さと手軽さだ。600年前の聖女が封印用の魔術を残しているから、小娘だろうと儂(ワシ)だろうと、ある程度魔力を持つ者であれば誰でも可能だろう。デメリットは、再度封印が解ける可能性があること……」


「……」


「そしてもう一つの選択肢、この世界から追放することのメリットは無論、今後ヴェルザグラトによる世界の破滅の危機を完全に排除できることだ。デメリットは人手がいる、もしくはリスクが高いこと」


「そのリスクというのは?」


「小娘の命……いや、それどころか最悪世界が滅びるかもしれんな」


「……」



真剣に話を聞いていたつもりが、突然話題に出されて心臓がひゅっとする。

ま、待って待って、なんでそこで私の命が関係してくるの!?



「ヴァステリア殿から見て、そのリスクというものは現状どの程度の確率だ?」


「今はなんとも言えん。というのも、こればかりは貴様ら次第で確率が大きく上下する」


「……というと?」


「うむ」



ヴァステリアがパチンと指を鳴らすと、テーブルの上にこの国の地図と、人の形を模した5つの駒が現れた。



「つまるところ、そのリスクってやつはヴェルザグラトをこの世界から追放する"方法"に大きく関わっているんだが」



駒は意思を持っているかのように動き出すと、それぞれ地図上の5ヶ所で止まる。



「600年前の聖女はヴェルザグラトの封印とは別で、この世界と魔界の隙間の世界……すなわち虚界との亀裂が生じやすい5ヶ所に、自身の遺骨を混ぜて打たせた剣で結界を残していた。これがまた相当強力なようでな……。調べたところ、結界が張られてからの600年間、この世界には虚界からの悪魔の侵入が一度も観測されていないことがわかった」



話を聞いていた私とクロヴィスは同時に目を見開く。

ヴァステリアでさえ手玉にとる自称大陶芸家の愉快な聖女。

自分の生命力を使ってヴェルザグラトを封印し、後世を気遣いその封印魔術まで残した献身的で優しい彼女は、死後もこの世界をずっと守ってくれてたんだ……。


地図上の駒に目を向けるヴァステリアの顔にも、さすがにいつもと違って畏敬の念が混じっている。



「ヴェルザグラトをこの世界から追放し、虚界へ追い返すためには、600年間悪魔どもの侵入を阻んでいたその5ヶ所の結界を一時的に停止させ、意図的に亀裂を作る必要がある」



ヴァステリアは地図から目を離すと私を見た。



「5ヶ所の結界は扉にかけられた錠のようなものだ。復活間近のヴェルザグラトほど《《ふくよか》》な悪魔を通すには開かずの扉を開けなければならん。その扉を開けるには埋めていた5つの鍵穴を解き放ち、鍵を挿し、全ての錠を外すわけだが、当然鍵穴からは虫が侵入してくる可能性がある」


「……ヴェルザグラトをこの世界から追放する過程で、別の悪魔が侵入してくる可能性があるということですか?」


「ああ、それも5ヶ所で同時に、な。いくら虫程度の悪魔とはいえ、そこらの兵士では歯が立たん。この国の離れた場所にある5つの結界を同時に解除し、侵入してくる悪魔を食い止めながら、ヴェルザグラトを虚界へと追い返す……貴様が聖女としての全ての力を解放すれば可能だろうが、そうするとおそらく、その体は塵も残らないだろう」

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。