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ヴァステリアと600年前の聖女(3)

挿絵(By みてみん)

私はどうしたらいい?

私に何ができる?


死にたくない、けど、アイリスのメッセージに甘えて、ヴァステリアに封印の役目を任せて本当にいいの?


この魔術印を使ってヴェルザグラトを再封印できたとして、また何百年後かにヴェルザグラトの封印が解かれないとは限らない。

そのときはどうするの?

また同じように、そのときの聖女が自分の命を犠牲にして封印する?

アイリスのように?


……それじゃだめだ。

長い年月をかけて、ずっと同じことを繰り返すことになる。


何か……何か方法は……!



「……お嬢様、顔色が」


「……。……ふぅ……ありがとう、クロ。大丈夫ですよ」



心配そうなクロヴィスの声に、私はハッとして肩の力を抜くと深呼吸をした。


……また焦って視野が狭くなってたや、だめだめ。

こんな時こそ落ち着いて、一歩引いて全体を見直さなきゃ。


私は巻物に残された美しい魔術印を両手で大切に掬い上げると、そっと両手を合わせて自分のものとして預かった。



「師匠。アイリス様のメッセージ通り、ヴェルザグラトを倒すことは本当に不可能なのですか?」


「ふむ……結論からいうとほぼ不可能だろうな。ヴェルザグラトが感情を自然災害に変換する魔術の使い手というだけならまだしも、自身の魂を補完しているとなると話が変わってくる。少なくとも儂(ワシ)の持つ知識では、この世界から全ての人間を消す以外倒す方法が思いつかん」


「……それはできません」


「だろう? その上王子の小僧が聞いた声によると、ヴェルザグラトは完全復活間近だそうじゃないか。おそらく数百年単位で王家の人間から感情を奪い続けたんだろう。怖がらせるつもりはないが、再封印もかなり骨が折れるかもしれんぞ」


「……人間のいない場所であれば倒すことが可能なら、例えば外界の干渉を受けないここ、亜空間に誘き出して戦うのはどうでしょう?」


「簡単そうに言うがなあ、亜空間への扉は儂(ワシ)が半日かけて設置するものだ。奴のそばで半日作業し、自ら入るよう仕向けるというのは現実的じゃない。それに万が一誘き出せたとしても、封印に際し対面する以上ヴェルザグラトは封印する者の感情を真っ先に奪うぞ」


「……では、やはりある程度の力を削いで再封印するしかないのでしょうか」


「う~む……」



腕を組んで天を仰ぎ黙り込んでしまったヴァステリアからクロヴィスへと視線を向けると、彼は巻物を眺めながら顎に手を当てて真剣な顔で何かを考えていた。



「クロ、何か気づいたことがあるのですか?」



私が声をかけると、クロヴィスは顔を上げる。



「いえ……ヴェルザグラトを倒せないなら、せめてこの世界から追(・)い(・)出(・)す(・)方法がないかと考えてました」


「!」


「魔界から追放された悪魔が、虚界から人間界に来られたんなら……その逆もできていいんじゃないかと思って」



私はヴァステリアを見る。

角の生えた美女は珍しく苦笑いを浮かべていた。

というか少し引いている。



「小僧、貴様ぶっ飛んでるな……」


「できるのですか?」


「理論上できてもおかしくはないが、当然ながらこちら(人間界)からあちら(虚界)に行ったという前例は見たことも聞いたこともない。とはいえ討伐が難しい以上、現状の選択肢は再封印か追放かのどちらかになるか……」



ヴァステリアは少し考えたあと、私に目を向ける。



「……1日だ。儂(ワシ)はヴェルザグラトをこの世界から追放する方法と安全性について調べてみる。1日後、王子の小僧を連れて再度儂(ワシ)の元へ来い。その時に結論を出そう」



ヴァステリアの亜空間を後にした私は、屋敷への招待の手紙を書くとレオンに届けるよう騎士団長のヘルムートにお願いをした。

いつも通り朗らかに笑いながら快く引き受けてくれた彼を転移門から見送ったところで、ふと思い出す。



「あっ……」


「?」



クロヴィスは私を見て不思議そうな顔をした。



「600年前の聖女のアイリス様……どこかでその名前を見かけたことがあると思っていたのですが、今思い出しました。王城のエントランスにある大きな花瓶の作者が、確かそうだったかと」


「! メッセージの最後にも、自称"大陶芸家"だとありましたよね」


「ええ。彼女は"大陶芸家"として、日頃から王城への出入りを許されていた存在だったのかもしれません」



それどころか、ヴェルザグラトの封印の守護を王家の人間に任せることができるほど権力を持っていたか、もしくは王族の誰かと親しい関係だったのかもしれない。


伝説として語り継がれるほど偉大な存在でありながら、家畜にとうもろこしをあげたり、大きな花瓶を作ったりして過ごすという"普通の人"としての一面もあったのに、アイリスはどうして、自分を犠牲にしてまでこの世界を救うことができたんだろう。


恐怖や迷いはなかったの?

どうやって決断したの?


聞きたいことがたくさんあるのに、私が預かった温かくて優しい魔術印は何も答えてはくれなかった。

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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