EP 3
異世界の城で緊急事態!? ランダムボックスと現代医療チートでポイント荒稼ぎの白衣の天使
ルナミス帝国、アルヴィン公爵城。
そこは私が想像していた「中世ファンタジーのお城」とは少し違っていた。
荘厳な石造りの外観でありながら、敷地内には「魔導車」と呼ばれる自動車のような乗り物が停まっており、夜になれば「魔導照明」が煌々と輝くらしい。建国者である佐藤太郎さんが無理やり近代化を進めた影響だという。
「素晴らしい景色でしょう、ミツキ殿。我がアルヴィン公爵領は、帝国の中でも特に豊かな土地でしてね」
「は、はい……しゅごいです……」
隣を歩くルークス様が微笑むたびに、キラキラとしたイケメンオーラが私の網膜を焼く。スウェット姿の私が隣を歩いているのが申し訳なくなるほどの貴公子っぷりだ。
はやくお城の中に入って、掃除でも皿洗いでもしてポイントを稼ぎ、まともな服を出したい。
そんなことを考えていた矢先だった。
「急患だ!! 街道の巡回部隊が、はぐれワイバーンの群れに襲われた!」
城の中庭に、血相を変えた兵士たちが数名、担架を抱えて駆け込んできた。
担架の上には、血まみれになった若い兵士が横たわっている。
「おい、しっかりしろ! 早く『豚神屋の二郎系ラーメン(爆弾缶)』を持ってこい! 超回復させるんだ!」
「駄目です、意識不明でラーメンが食えません!!」
「なら回復魔法だ! 治癒魔術師を呼べ!!」
周囲の兵士たちがパニックに陥っている。
私は耳を疑った。意識不明の重症患者に、致死量のニンニクと背脂が乗った二郎系ラーメンを食わせようとしていたの!? この国の医療レベル、一体どうなってるの!?
「ミツキ殿、危険だ! 下がっていてくれ!」
ルークス様が私を庇うように前に出るが、私は彼をすり抜けて担架へと走った。
血の匂い。蒼白な顔色。
傷口は……右太腿。装甲が引き裂かれ、ズボンが赤黒く染まっている。
ドクッ、ドクッ、と脈打つように鮮血が噴き出していた。
(大腿動脈からの出血!? この勢い、1分以内に止血しないと出血性ショックで死ぬ!)
「どいてください! 私が診ます!」
「なっ、君は誰だ! 素人が口出しするな!」
衛生兵らしき男が怒鳴るが、私は無視した。
そこに、杖を持った治癒魔術師が駆けつけ、青ざめながら魔法を唱え始める。淡い光が傷口を包むが、血の勢いが強すぎて、塞がった端から再び傷が開いてしまう。
「だ、駄目だ……! 魔力が追いつかない。出血を止めないと魔法が定着しないぞ!」
やっぱり。いくら魔法があっても、物理的な血管の損傷が激しければ、水漏れしているホースにテープを貼るようなものだ。まずは元栓を締め、物理的に圧迫しなければならない。
私は頭の中で素早く「ポイント」の計算をした。現在の所持ポイントは901P。
(人命救助の善行ポイントは100〜500P……! ここは投資のしどころ!)
「システム! ランダムボックス発動!」
私は空中のパネルを叩き、100Pを消費してキーワードを叫んだ。
【白】! 【布】! 【衛生】!
ポォン! という小気味良い音と共に、中庭の空中に立方体が出現する。
落ちてきたのは、地球の病院でお馴染みの医療キットだった。滅菌ガーゼの束、幅広の弾性包帯、そして使い捨てのニトリル手袋一箱。
「なんだ、あれは……?」
「真っ白な布……? 手に何か薄い皮のようなものを……?」
周囲がざわめく中、私は素早く手袋を装着し、滅菌ガーゼの束を鷲掴みにした。
異世界の細菌感染リスクは未知数だ。不潔な手で傷口に触れるわけにはいかない。
「ルークス様! 手伝ってください!」
「えっ? お、俺か!?」
普段は領地の執務や優雅な生活を送っているであろう公爵令息を、私は遠慮なく呼びつけた。医療現場では、使える人手は誰であろうと使うのが鉄則だ。
「私がガーゼで傷口に蓋をします! そうしたら、ルークス様の全体重をかけて、両手でここを全力で圧迫し続けてください! 絶対に手を離さないで!」
「わ、わかった!」
私は大腿動脈の出血点を見極め、大量の滅菌ガーゼを傷口に強く押し当てた。
すぐさまルークス様がその上から両手を重ね、体重をかけて力強く圧迫する。さすがは鍛え上げられた騎士の腕力、完璧な圧迫止血だ。
「よし! 出血の勢いが弱まりました。治癒魔術師さん、今です! ガーゼの下の血管を繋ぐイメージで、もう一度回復魔法を!」
「お、おおっ! 『大いなる癒やしの光よ』……!」
魔術師の杖から放たれた光が、今度は血に流されることなく傷口へと浸透していく。
数秒後。
ガーゼの隙間から溢れ出ていた鮮血が、完全に止まった。
「……止まった。血が、止まったぞ!!」
「脈も安定してきました。顔色も戻っています」
私が手袋を外し、弾性包帯で太腿をしっかりとテーピングして固定すると、周囲から「おおぉっ……!」というどよめきが沸き起こった。
「す、凄い……。我々の回復魔法の欠点を、あんな真っ白で清潔な布と、正確な知識で補うなんて……!」
「意識不明の奴に二郎系ラーメンを食わせるより、遥かに合理的で効果的だ!」
魔術師や衛生兵たちが、私を拝むような目で見つめてくる。
そして、血まみれになった両手を拭いながら立ち上がったルークス様が、熱を帯びたサファイアの瞳で私を見つめ下ろした。
「ミツキ殿……。魔獣を一刀両断する神速の剣技を持ちながら、失われゆく命を繋ぎ止める深淵なる医術の知識まで持ち合わせているとは……」
「えっと、大腿動脈の圧迫止血は、基本中の基本というか……」
「いや、謙遜は不要だ。気高き武の心と、慈愛に満ちた癒やしの手。貴女はまさに……戦場に舞い降りた白衣の天使だ」
完全にロマンチック・フィルターが最大出力になっているルークス様が、ひざまずいて私の手を取ろうとする。
しかし、その瞬間に私の目の前にポップアップした半透明のパネルが、私の全神経を奪い取った。
【善行獲得:人命救助(重度) +500 P】
【善行獲得:衛生観念の啓蒙 +50 P】
【現在の所持ポイント:1,451 P】
(よっしゃああああああっ!! 550ポイント一気にゲットぉぉぉ!!)
私の心臓は、ルークス様の甘いセリフではなく、爆増したポイント残高によって激しく高鳴っていた。
1451P。これで、1回1000P消費の「カテゴリー4つ指定」の上位ランダムボックスが回せる。服だって、靴だって、美味しい現代の非常食だって出し放題だ。
「はははっ、ルークス様、私、困っている人を助けるのが何よりの喜びなんです! お城のお掃除でも、お皿洗いでも、怪我人の治療でも、なんでもやりますからねっ!」
「あぁ……なんという無私の精神。俺は今日、真の聖女に出会ったのだな」
感動で目を潤ませるルークス様と、ポイント長者への道が開けてホクホク顔の私。
見事にすれ違っている私たちの関係性は、こうしてアルヴィン公爵城の伝説の第一歩として刻まれたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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