EP 6
開拓は現代重機で! 敏腕村長と忍び寄る『満月』の予兆
ギュイィィィィィィンッ!!
ババババババッ!!
「おおおおおっ! なんという恐るべき神の武具だ! 刃が高速で回転し、数百年の樹齢を誇る大木を、まるでバターのように切り裂いていくぞ!!」
ポポロ村の広場に隣接する荒れた森で、ルーク(元・公爵令息)が歓喜の雄叫びを上げていた。
彼が両手で構え、青白い闘気を流し込んでいるのは、私がランダムボックス(ポイント消費)で召喚した地球の現代兵器――『エンジン式大型チェーンソー』である。
「うむ! この『ちぇーんそー』という剣、俺の闘気とすこぶる相性がいい! 美月殿、これで家屋を建てるための木材はいくらでも調達できそうだ!」
「ルークさん、凄い! でもキックバック(刃の跳ね返り)には気をつけてね! 絶対に防護メガネは外さないでよ!」
私が叫ぶと、ルークは安全第一のゴーグルをキラッと光らせてサムズアップを返してきた。
リーザちゃんの『Love & Money』による奇跡のアイドルバフと、地球の現代重機の組み合わせは、まさに完全なる異世界チート(物理)だった。
「……おい、美月。木材の加工は終わったぞ。次はどこに運べばいい」
リアスが、面倒くさそうに黒い魔力を指先に漂わせながらやってきた。
彼の背後には、ルークがチェーンソーで切り倒した丸太が、リアスの闇魔法(念動力のような応用)によって、数十本も空中にぷかぷかと浮遊している。重機どころか、もはや完全に超大型クレーンの役割を果たしてしまっていた。
「あ、リアスさん! その木材は、村の北側の居住区予定地に運んでください! キャルル村長がそこで区画整理をしてますから!」
「チッ、人使いの荒い……。俺の魔力は、本来こんな大工仕事に使うためのものじゃないんだがな」
悪態をつきながらも、リアスの作業効率は異常だ。スパチャバフのせいで魔力が溢れ出ているため、疲労を見せるどころか、むしろ適度に魔力を放出しないと身体が爆発しそうな状態になっているらしい。
【善行獲得:村のインフラ整備(木材調達) +50 P】
【善行獲得:村のインフラ整備(整地作業) +50 P】
私の視界の端では、チリンチリンと小気味良い音を立てて、システムの地域貢献ポイントが加算され続けている。最終目標である10万ポイントの達成に向けて、ポポロ村の開拓は恐るべきスピードで進捗していた。
「皆さん、お疲れ様です! 居住区の配置は、採光と風通しを考慮して、南向きに等間隔で配置しましょう!」
開拓現場の中心では、特注の安全靴を履いたキャルル村長が、広げた羊皮紙の図面を片手に的確な指示を飛ばしていた。
「『天は自ら助くる者を助く』! 豊かな村を作るためには、まず自らの手で基礎を固める自助努力が必要です。そして、村の防衛ラインは円形に保ちつつ、中央の広場には万が一の避難経路を確保します。これは『五輪書』に記された地の利を活かした戦術の応用でもありますね!」
キャルル村長の言葉には、不思議な説得力とカリスマ性があった。
彼女の愛らしい兎耳とラフなパーカー姿からは想像もつかないほど、その頭脳には高度な政治力と都市計画のノウハウが詰まっている。さすがはレオンハート獣人王国の元・第三姫君にして、近衛騎士隊長候補だっただけのことはある。
「すごいわ、キャルル村長。まるでプロの都市プランナーみたい」
私が感心して見つめていると、キャルル村長はふにゃっと笑って、ポケットからイチゴ味の飴玉を取り出して私にくれた。
「えへへ、ありがとうございます! でも、美月さんたちが耕運機で耕してくれたおかげで、畑の準備も完璧ですよ! 早速、私が持っていた種を蒔いたんですが……リーザちゃんの歌のバフと、美月さんたちが整えてくれた魔力溜まりのおかげで、もう芽が出てきているんです!」
キャルル村長が指差した先には、数時間前までカチカチに干からびていた荒れ地が、ふかふかの黒土の畑へと生まれ変わっていた。
そして驚くべきことに、そこに蒔かれた『月見大根』や『ネタキャベツ』といった異世界の魔法作物が、土の魔力を猛烈な勢いで吸い上げ、目に見えるスピードで青々とした葉を伸ばし始めていたのだ。
「すごい生命力……! これなら、数日後には立派な作物が収穫できそうね!」
「はいっ! これで村の食糧問題は一気に解決に向かいます!」
キャルル村長と私がハイタッチを交わし、夕暮れの風が村を吹き抜ける。
廃村同然だったポポロ村に、確かな希望の光が差し込んでいた。
だが。
日が落ち、空が茜色から深い藍色へと変わり始めた頃。
「……あぁ」
キャルル村長が、ふと空を見上げて、小さく息を漏らした。
彼女の視線の先には、東の山の稜線から顔を出し始めた、大きく、丸く、不気味なほどに明るく輝く『月』があった。
明日は、満月だ。
「キャルル村長?」
私が声をかけると、彼女はゆっくりとこちらを振り向いた。
その瞬間、私の背筋に、ゾクリと冷たいものが走った。
「ふふっ……美月さん」
キャルル村長の愛らしい顔は、いつもと変わらない笑顔のはずだった。
しかし、その瞳の焦点が、ほんの少しだけトロンとぼやけている。
そして、彼女の周囲の空気が、まるで熱を持ったように微かに揺らめき、先ほどまでの「頼れる村長」のオーラとは全く違う、ねっとりとした、甘く危険な気配を放ち始めていた。
「月が……すっごく、綺麗ですねぇ♡」
「え、ええ。そうですね、明日には真ん丸の満月になりそうですし」
「……満月……あぁ、満月……♡」
キャルル村長は、自分の両手で自身の頬を包み込み、うっとりとした表情で身悶えした。
「血が、騒ぎますぅ……。こんなに頑張ってくれている皆さんのために、私、明日はもっともっと、いーーーっぱい『お世話』をしてあげたくなっちゃいますね……♡ 身体の芯から、愛と気合を叩き込んで、全回復させてあげたい……あははっ、あははははっ♡」
「ひっ……!?」
私は思わず一歩後ずさった。
なんだろう、この圧倒的なヤンデレ感と、バイオレンスな気配の融合は。
「おい、美月。あの兎、急にどうしたんだ。気持ち悪い笑い方をしてるが」
丸太の運搬を終えたリアスが、不審そうに顔をしかめながら近づいてきた。
「わ、分からないけど……なんだか、明日の満月の日、すっごくヤバいことが起きるような気がする……」
私の医療系学生としての勘(危険予知)が、最大級のアラームを鳴らしていた。
だが、その時の私たちは、キャルル村長の『満月の狂気』の本当の恐ろしさを、まだ1ミリも理解していなかったのだ。
***
同じ頃。
ポポロ村から数キロ離れた、東の深い山奥にて。
『グルルルゥゥ……』
『ブギィィィィッ!!』
薄暗い森の奥底で、無数の赤い瞳が、ギラリと妖しい光を放っていた。
オーク、ジャイアント・ボア、そして凶暴なゴブリンの群れ。普段は山深くに潜んでいる魔獣たちである。
彼らの鼻腔を、風に乗って流れてきた『ある強烈な匂い』が刺激していた。
それは、ポポロ村で急激に成長し始めた『月見大根』や『ネタキャベツ』といった、魔力をたっぷりと含んだ極上の魔法作物の匂いだ。
魔獣にとって、良質な魔力を含んだ作物は、血肉以上に欲してやまない最高のご馳走である。
『ガァァァァァァッ!!』
群れのボスである、体長4メートルを超える巨大なオークキングが、月に向かって咆哮を上げた。
それを合図に、数百匹にも及ぶ魔獣の大群が、涎を垂らしながら一斉に山を駆け下り始めた。
目指すは、甘美な匂いを放つ豊かな畑。
つまり、私たちが血と汗とガソリンとスパチャバフで開拓したばかりの、新生ポポロ村である。
豊穣な大地を取り戻しつつある村に、絶望的な魔獣のスタンピード(大暴走)が、満月の夜を目前にして、静かに、そして確実に忍び寄っていた。
読んでいただきありがとうございます。
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