EP 10
ルナミスーパー銭湯とボタニカルシャンプー。凸凹パーティー、いざ正式結成!
「ぷはぁぁぁっ! 労働の後のお風呂とフルーツ牛乳、最高ぉぉぉっ!!」
ルナミス帝国が誇る偉大な娯楽施設、『ルナミスーパー銭湯』。
佐藤太郎という地球出身の建国者が遺したその文化は、国境の街であるここにもしっかりと根付いていた。
湯上がりのぽかぽかした体で、畳敷きの休憩スペースの座布団に寝転がりながら、私は腰に手を当ててフルーツ牛乳(ロックバイソンの乳と果汁のミックス)を一気に飲み干した。
「はぁ……生き返る……」
暴走するロックバイソンへの『超特大鼻うがい大作戦』から数時間後。
見事に魔獣を鎮め、乗客たちを救った私たちは、ギルドへ報告を済ませた後、まっすぐにこのスーパー銭湯へと直行した。
理由は言うまでもない。大量のバイソンの鼻水と、たまんネギの刺激臭を全身に浴びてしまった二人のイケメンが、「今すぐ俺を洗い場へ連れて行け」「美月殿……俺はもう、鼻が曲がりそうだ……」と限界を迎えていたからだ。
私は約束通り、貯まったポイント(1,000P)を気前よく消費して【日本】【高級】【入浴剤】【ヘアケア】を指定し、ランダムボックスから最新のボタニカルシャンプー、トリートメント、そして泥パック洗顔料のフルセットを召喚して二人に渡した。
「お待たせ、美月殿!」
休憩所のふすまが開き、男湯ののれんをくぐって、二人の青年が現れた。
その瞬間、休憩所にいた他のお客さんたち(獣人のおじさんや、冒険者の男たち)が、目を丸くして彼らを振り返った。
「「…………キラキラしてる」」
誰かがポツリと呟いた通りだった。
元々、顔面偏差値がカンストしている二人である。
そこに、地球の最新科学が詰まった高級ボタニカルシャンプーとヘアマスクの威力が加わった結果、どうなったか。
ルークのプラチナブロンドの髪は、まるで天使の輪っかが常に浮かんでいるかのように光を反射し、サラサラと流れるように揺れている。
リアスの銀髪に至っては、元々のミステリアスな色気に『極上のツヤとまとまり』がプラスされ、歩くたびに高級エステサロンのようなフローラルハーブの良い香りを周囲に振り撒いていた。
「すごいぞ、美月殿! 君が出してくれたあの『しゃんぷー』と『とりーとめんと』という秘薬! 髪に揉み込んだ途端、指通りが絹のように滑らかになった! ルナミス帝国の宮廷美容師でも、ここまでの仕上がりにはできまい!」
ルークが感動の面持ちで私の手を握ってくる。
「……フン。たまんネギの悪臭が落ちたことだけは評価してやる。だが、あの『どろぱっく』とかいう顔に塗る泥……あんなもので本当に肌が清められるのか? なんだか無駄にしっとりして気持ち悪いんだが」
リアスは不機嫌そうにそっぽを向いていたが、そのお肌は冗談抜きでゆで卵のようにつるっつるのモッチモチになっていた。文句を言いながらも、渡された泥パックをきっちり規定時間(5分)顔に乗せていた証拠である。
「あはは! 二人ともすっごく綺麗になってますよ! これで鼻水事件のことはチャラにしてくださいね!」
私は笑いながら、二人に冷たい陽薬茶(お茶)の入ったグラスを渡した。
「さあ、お風呂の後はご飯です! 今日は約束通り、私が全部奢りますから、併設の食堂で好きなだけ頼んでください!」
「おおっ! ならば俺は、肉椎茸のステーキ丼と、大盛りの太陽芋コロッケをもらおう!」
「……俺はピラダイの刺身と、牛すじ煮込みだ。酒はサケスキーをロックで頼む」
「はいはい、かしこまりました!」
私は食堂のおばちゃんに注文を通し、B級冒険者の報酬でホクホクの財布から銀貨を取り出した。
運ばれてきた料理を前に、私たちはジョッキとグラスを掲げた。
「それじゃあ、ロックバイソンの鎮圧と、私たちの無事を祝って……乾杯!」
「「乾杯!!」」
カチン、と小気味良い音が響く。
肉厚な肉椎茸のステーキを頬張るルークが、「うむ、美味い!」と目を輝かせ、リアスがサケスキーのグラスを傾けながら牛すじを上品に口に運ぶ。
私は昨日の泥酔の反省を生かし、今日は大人しく微炭酸の果実水だ。
「しかし、見事だったな美月殿。まさか、水責めで魔獣のパニックを鎮めるとは」
「鼻うがいは医療の基本ですから! まあ、あそこまで大掛かりなのは初めてやりましたけどね」
私がえっへんと胸を張ると、リアスが呆れたようにため息をついた。
「結果オーライなだけだ。あんな真似、二度と御免だからな。それより、ギルドの登録についてだが……」
リアスが箸を置き、真剣な目で私とルークを見た。
「今日、ルークの馬鹿がギルドで臨時加入したことで、俺たち三人はシステム上、正式な『固定パーティー』として扱われることになった。だが、パーティー名がまだ未登録のままだ」
「あ、そういえばそうですね。冒険者のパーティーって『暁の剣』とか『黒鉄の鷹』みたいな、かっこいい名前をつけるのがお約束ですよね!」
私がワクワクしながら言うと、ルークスがドンッと胸を叩いた。
「そのことならば心配無用! 実は、美月殿たちが風呂に入っている間、俺がギルドの出張窓口で、最高のパーティー名を申請しておいたのだ!」
「えっ? ルーク、もう申請しちゃったんですか? なんだか嫌な予感が……」
嫌な汗をかく私と、冷たい目でルークを睨みつけるリアス。
ルークスは、サファイアの瞳をキラキラと輝かせ、立ち上がって高らかに宣言した。
「我がパーティーの名は、ずばり! 『紅蓮の白雪姫と二人の騎士』だ!!」
「「…………は?」」
私とリアスの声が、完璧にハモった。
「ど、どうだろうか! 美月殿の美しき二つ名を中心に、俺とリアス殿が君を守る剣と盾になるという、ロマンと覚悟を完璧に体現した至高の名だと自負しているのだが!」
「却下だ、ど阿呆ッ!!」
「即刻取り消してきてくださいッ!!」
リアスがテーブルを叩き、私が頭を抱えて叫んだ。
「だ、誰がそんな恥ずかしい名前で呼ばれて依頼を受けるか! 『おい、そこの二人の騎士、ドブ掃除の依頼だ』とか言われる俺の身にもなってみろ!」
「私だって嫌ですよ! そもそも私、姫じゃなくて看護学生ですし! 百歩譲って『白衣の天使と愉快な仲間たち』か『救急救命最前線』にしてください!!」
「こーど・ぶるー? なんだその呪文のような名は。断じて却下だ! やはり紅蓮の白雪姫が一番美しい!」
ギャーギャーと食堂の隅で言い争う私たち。
結局、その日の夜にギルドの窓口へ駆け込み、すったもんだの末に折衷案として『チーム・白雪』という極めてシンプルな名前に落ち着くことになった。(ルークは「紅蓮が消えた……」とひどく落ち込み、リアスは「まあマシだ」と妥協した)
***
スーパー銭湯を出ると、空には二つの月が明るく輝いていた。
「……ふふっ」
夜風に当たりながら、私は思わず小さく吹き出した。
「どうした、美月殿? 泥パックが肌に合わなかったか?」
「お前、また酔ってるんじゃないだろうな。果実水しか飲んでなかったはずだが」
不思議そうに私を覗き込んでくる、二人の規格外のイケメンたち。
出会ってまだ数日しか経っていないのに、なんだかずっと昔から一緒にいるような、不思議な安心感があった。
過酷な実習とテスト勉強に追われ、恋愛も遊ぶ暇もなく、ただ机に突っ伏して眠りに落ちたあの日。
目を覚ましたら異世界で、チートスキルと六法全書という謎の縛りを与えられて。
命の危険も、借金も、鼻水まみれになる大騒動も経験した。
でも。
(悪くない……ううん。すっごく、楽しい!)
私は腰に差した相棒『白雪』の柄をポンッと叩き、二人に満面の笑みを向けた。
「なんでもないです! それより明日ですけど、また広場のゴミ拾いか、安全な薬草採取の依頼にしましょうね!」
「却下だ。明日は東の山に巣食うワイバーンの討伐に行く。金貨3枚の美味い依頼だ」
リアスが冷酷に言い放つ。
「おお! ワイバーン! 空を駆ける竜との死闘……これぞまさに冒険者のロマン! 腕が鳴るな!」
ルークが安物の鉄の剣(新品に買い直した)の柄を握り、サファイアの瞳を燃え上がらせた。
「だーかーらー! なんでそう命の危険があるハードモードばっかり選ぶんですか! 私の平和なポイ活ライフを返してぇぇーっ!」
夜の異世界の街に、私の情けない叫び声が響き渡る。
神城美月、20歳。職業・B級冒険者(元・看護学生)。
愛に生きる過保護な元公爵令息と、冷徹で現実主義なネフィリムの青年。
全く噛み合わない凸凹な私たち『チーム・白雪』の、ポイントと借金とロマンにまみれた本当の冒険は、まだ始まったばかりである!
読んでいただきありがとうございます。
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