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過保護な公爵様に溺愛されましたが、対等になりたいので城を出ます!〜医療チートと神速の抜刀術で無双する借金冒険者生活〜  作者: 月神世一


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EP 2

安全第一の薬草採取を希望します!……えっ、レッドオーガ討伐(超ハードモード)ですか!?

極上ホットサンドでしっかりと胃袋を満たした私たちは、朝の活気に満ちた冒険者ギルドへと足を踏み入れた。

「ふふふっ、今日はどの依頼にしようかなー♪」

私は足取りも軽く、依頼書がズラリと貼り出された巨大なクエストボードへと向かった。

昨日の反省を生かし、今日は絶対に安全第一だ。

掲示板の端っこ、初心者向けの『Eランク』エリアに目を皿のようにして張り付く。

「あ、これいいかも! 『ポポロ村周辺での陽薬草ようやくそうの採取』! 薬草を集めれば医療物資確保で善行ポイントも入るし、魔物にも遭遇しにくいって書いてある!」

陽薬草といえば、怪我の治療にも使えるし、お茶にすればポーション代わりにもなる万能植物だ。医療系女子としては絶対に見逃せない優良クエストである。

「よし、これに決めた! リアスさーん、私この依頼受け……」

意気揚々と依頼書を剥がそうと手を伸ばした、その瞬間だった。

「邪魔だ。そんな小銭稼ぎで、いつになったら俺への借金(銀貨2枚)を返せると思っているんだ、ど阿呆」

私の頭上から、スッと伸びてきた長い腕。

リアスが私の背後に立ち、クエストボードの中央――上級者向けの分厚い羊皮紙が貼られたエリアから、一枚の赤黒い依頼書をむしり取ったのだ。

「え……?」

振り返って彼の手元を見ると、そこには禍々しいドクロのマークと共に、太く荒々しい文字でこう書かれていた。

『緊急討伐依頼:レッドオーガ(推定脅威度B)の撃破』

「……レッド……オーガ……?」

「ああ。ここ数日、東の森に棲み着いて街道を荒らしている厄介な魔獣だ。討伐報酬は金貨1枚。これなら、お前のショボい借金も一発でチャラにして、お釣りが来るだろう」

リアスは事も無げに言ってのけるが、私の脳内では緊急警報がガンガン鳴り響いていた。

「お、オーガって……あの、絵本とかRPGに出てくる、金棒を持った巨大な鬼ですよね!? しかも『レッド』って何よぉ!? 絶対やばいやつじゃないですか!」

「そうだ。返り血を浴びすぎて皮膚が赤黒く染まり上がった、狂暴な変異種だ。人間の腕くらいなら、フライドポテトでも食うように簡単に噛み砕くぞ」

「ひいいいいいっ!?」

私は両手で顔を覆い、悲鳴を上げた。

フライドポテトって何!? この世界にもフライドポテトあるの!? いや、今はそんなことどうでもいい!

「ムリムリムリ! 絶対無理です! 私、ただの看護学生(見習い)なんですよ!? 法律の授業で『赤い鬼を討伐する時の正当防衛のライン』なんて習ってません!」

「またその意味の分からん『法律(掟)』の話か。安心しろ、お前にオーガを倒せとは言っていない」

リアスは面倒くさそうに息を吐き、私の肩をポンと叩いた。

「昨日の夜に言っただろう。俺の魔法の準備ができるまで、お前は魔物の気を引く『デコイ』になればいいと。お前のあの、峰打ちだか鞘当てだか知らんが、急所を外して殴る変態的な剣技なら、1分くらいは時間を稼げるだろう」

「囮!? 余計に死に直結してるじゃないですかぁぁ!」

涙目で抗議するが、リアスは完全に聞く耳を持たない。

彼はそのまま受付の列に並び、平然とした顔で受付嬢に『レッドオーガ討伐』の依頼書を叩きつけた。受付嬢が「えっ、リアスさん、これソロで受けるんですか!?」と驚愕していたが、彼は「いや、そこにいる囮(Eランク)とパーティーを組んで行く」と冷酷に言い放った。

「ふえええん……鬼畜ぅ……! 私の平和なポイ活ライフがぁ……」

ギルドの片隅で膝を抱えて泣き崩れる私をよそに、手続きは無情にも完了してしまった。

***

――数時間後。

街から東へ数キロ離れた、鬱蒼と生い茂る深い森の中。

「はぁっ、はぁっ……。リアスさん、やっぱり帰りましょうよぉ。ほら、見てください! あんなところに、とっても可愛いピンク色のお花が咲いてますよ! 太陽の光を浴びてキラキラしてます! きっと新種の薬草に違いありません! だから今日はこれを持って帰って、お花の研究を……」

「現実逃避をするな。歩け」

「ああっ! 待って、私の首根っこを掴まないでぇぇ!」

私は完全に心が折れ、現実逃避モードに突入していた。

道端に咲くどうでもいい花を褒め称え、何とかしてこの森から引き返そうと試みたが、無駄だった。

リアスは私のバックパックの後ろ首の部分をガシッと掴み、まるで駄々をこねる子猫を運ぶかのように、私を森の奥深くへとズルズルと引きずっていく。

「いいか、美月。オーガは嗅覚と聴覚が鋭い。これ以上無駄口を叩くと、俺がお前を囮にする前に、あいつの方からお前を食いに来るぞ」

リアスの低い声には、先ほどまでの呆れたような響きはなく、プロの冒険者としての冷たく研ぎ澄まされた緊張感が孕んでいた。

周囲の空気が、明らかに変わってきている。

ギルドを出た時の清々しい空気はどこへやら、森の奥へ進むにつれて、淀んだような重苦しい気配が肌に張り付いてくるのだ。

巨木の幹には、大人の背丈よりも高い位置に、何か巨大な刃物でえぐられたような生々しい爪痕がいくつも残されている。

「ひっ……! な、何この爪痕……トラックでもぶつかったみたい……」

「オーガの縄張り(テリトリー)に入ったな。あの巨体で木々をなぎ倒しながら進むから、道が不自然に開けている。……近いぞ」

リアスが足を止め、腰の魔刃鞭の柄にスッと手をやった。

彼が立ち止まったせいで、引きずられていた私も前のめりになりそうになる。

「あ、あの……リアスさん。私、やっぱり……」

「黙れ。息を殺せ」

リアスの琥珀色の瞳が、前方にある巨大な茂みの奥を鋭く睨みつけた。

静まり返る森。

風の音すら消えたような錯覚に陥る中。

ズシンッ……。

大地が、小さく揺れた。

ズシンッ……。

一定のリズムで、何かが近づいてくる。

それは足音だった。あまりにも重く、巨大な質量の塊が、森の土を踏みしめる音。

「……よし。美月、この袋を持て」

リアスは魔法ポーチから、血の滴る皮袋を取り出し、私に押し付けた。

袋からは、鉄錆のような強烈な血の匂いと、生肉の腐りかけたような異臭が漂ってくる。

「な、何ですかこれ……くっさ!!」

「魔獣の肉をすり潰したミンチだ。オーガの大好物でな。強烈な匂いで奴をおびき寄せる。いいか、お前はあそこの開けた広場まで走って、そのミンチを地面にぶちまけてこい。それが終わったら、そこで武器を構えて待機だ」

「ふぇぇ!? そんなの、完全に『私を食べてください』って言うようなもんじゃないですか!?」

「だから『デコイ』だと言っているだろうが、ど阿呆。お前がヘマをしなければ、俺がすぐに魔法で消し炭にしてやる。行くぞ!」

リアスが私の背中をドンッと力強く突き飛ばした。

「あわわわっ!」

私は勢い余って、指定された広場のど真ん中へと飛び出してしまう。

手にあるのは、強烈な匂いを放つ魔獣のミンチ。

背後には、「早く置け」と冷徹な視線を送るネフィリムの青年。

そして前方からは、大地を揺らす巨大な足音が確実に近づいてくる。

「ううぅ……パワハラだぁ……! ギルドの労働基準局に訴えてやるぅぅ……!」

私は半泣きになりながら、皮袋の口を開け、ドバシャァッ!と血まみれのミンチを地面にぶちまけた。

強烈な匂いが風に乗って拡散していく。

その、直後だった。

『ゴォォォォォォォォォッ!!!』

森の木々が吹き飛ぶほどの、鼓膜をつんざく凄まじい咆哮。

バキバキバキッ!と、樹齢数百年はありそうな太い木をへし折りながら、広場の奥から『それ』が姿を現した。

「で、出たぁぁぁーーッ!!」

私の口から、絶叫がほとばしる。

見上げるほどの巨体。ゆうに3メートルは超えている。

全身の皮膚は、返り血が染み付いたような赤黒い色をしており、筋肉の鎧のように隆起している。

巨大な口からは黄色く濁った牙が乱杭のように生え、その手には、大木をそのまま引っこ抜いて削り出したような、おぞましいサイズの棍棒こんぼうが握られていた。

間違いなく、絵本で見た『オーガ』だ。

ただ、絵本よりも一万倍リアルで、狂暴で、絶望的にデカかった。

「グルルルゥ……!!」

レッドオーガの濁った黄色い瞳が、地面にぶちまけられたミンチを捉え、そして次に、そのすぐ横で腰を抜かしかけているスウェットと紅蓮の鎧姿の私(獲物)をハッキリと捉えた。

「よし美月! そこで1分稼げ!」

広場の端に身を隠したリアスから、非情すぎる指示が飛ぶ。

彼の周囲では、すでに膨大な魔力が渦巻き始めていた。

「1分!? こんなの3秒でペシャンコにされますぅぅ!」

レッドオーガが、私に向けて巨大な棍棒を振り上げる。

その風圧だけで、私の髪が後方へ激しく煽られた。

迫り来る圧倒的な死の恐怖。

あ、終わった。私の異世界生活、2日目でゲームオーバーだ。

思わず目をギュッと瞑りかけた、その刹那。

私の脳裏に、ふと、ある「事実」が閃いた。

(……あれ? 相手、人じゃないよね?)

目の前にいるのは、日本の六法全書で保護されるべき「人間」ではない。

言葉も通じない、街を襲う完全な「野生の魔獣」だ。

つまり。

(対人間の『過剰防衛』とか『傷害罪』とか、一切気にする必要ない……法律の適用外(フルパワーOK)じゃん!!)

「――!」

恐怖で凍りついていた私の目から、怯えがスッと消え去った。

理性が飛んだわけではない。むしろ逆だ。

今まで「手加減しなければならない」という呪縛(法律)によって無意識にかけていたリミッターが、カチリと音を立てて外れたのだ。

「ゴァァァァッ!!」

レッドオーガの丸太のような剛腕が、私を肉塊に変えるべく、凄まじい速度で振り下ろされる。

私は深く息を吐き、腰を限界まで沈めた。

左手で鞘を引き、右手で白雪の柄を握り込む。

祖父の声が蘇る。

『ただ一度の太刀筋を極めろ』。

私はただの看護学生だ。

でも、この一撃だけは、誰にも負けない。

『無月流居合――閃光』

音も、光も、オーガの棍棒の軌道すらも。

全てが、止まって見えた。

読んでいただきありがとうございます。

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