第993話:鬼だ、鬼がいる
フイィィーンシュパパパッ。
夕食前にチュートリアルルームに来た。
「ユーちゃん、いらっしゃい」
「こんにちはー。こんばんはの時間かな。これ、お土産だよ」
お肉と骨を渡す。
「あっ、ありがとう。骨はどうすればいいの?」
「たっぷりのお湯で煮てスープにしとくんだよ。沸騰させて灰汁すくって取るでしょ? 一〇分くらい煮たら、あとは余熱でいいくらい。うちではスープをストックしてあるんだ。かれえのベースにしてもいいし、めんつゆ入れても全然味違うはずだよ」
「わかった。やってみる」
バエちゃんの国にはスープ系の料理アシスト材料がかなりあるようだ。
骨スープは何に使っても大概おいしいと思うよ。
「今日はお土産だけなの?」
「チラッと報告かな」
「報告? 何の?」
「赤眼族なんだけどさ。どこかから追放された一族である、という伝承があるんだって」
前回バエちゃんに会った時から新たに得た情報ではない。
が、少しずつ協力しておくのだ。
バエちゃんの立場の強化にも繋がるだろ。
「でも王族どうこうって話は出なかったから、どこまで自分らの出自を知ってるかはわからない」
「ありがとう。報告しておくね」
これでいいだろう。
「これからも赤眼族には会うから、新たにわかったことがあれば教えたげるよ」
「でも終わったクエストでしょう? ユーちゃんだって忙しいでしょうに」
「いや、赤眼族はそっちの世界から追放されたのかも知れんけど、あたし達から見るとドーラの仲間じゃん? あたし達の知らない有用なことを知ってるかもしれないし、仲良くするつもりなんだ」
「ユーちゃんは視野が広いわねえ」
ドーラをいい国にしたいからね。
まずはコミュニケーションからだよ。
「ところで、次の新人さんってそろそろかな?」
「来月の頭には発表されると思う。まだ決定してはいないけど、やはり移民の中から選定が進んでるわよ」
「となると今度こそ開拓地に来てる移民だろうな」
これで悪役令嬢だったりするとビックリだけど、あの子固有能力持ちじゃなかったからな。
『アトラスの冒険者』に選ばれることはあるまい。
「一旦新人さんの選出はやめるかもって話よ」
「ふーん、何で?」
「最近脱落者がいないでしょう? 『アトラスの冒険者』が適正規模に達したってことだと思う」
「なるほど」
予算との兼ね合いで職員を増やせないなら、メンバーの人数にも適正規模があるってことか。
考えてみりゃ当たり前のことだった。
ドーラの人口や経済の規模が今後大きくなっていくとするなら、警察的な役割をも請け負っている『アトラスの冒険者』の人数はもっと欲しい。
しかしそれは運営側の思惑ではないだろうからな。
仕方ないか。
本来ドーラがやらなきゃいけないことだ。
「じゃ、今日は帰るね」
「うん、また来てね」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後に、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日はもう移民が開拓地に到着してるんだっけ?」
『ああ、来ている。今日は天幕を張って食事を取ったくらいだ。明日以降に土地販売について説明になるが、天気がな?』
「明日雨みたいだねえ」
まあ少々遅れようが、順調ならばいいのだ。
「揉めそうだったら教えてよ。肉祭りやるから」
『ハハハ、パワープレイだな?』
「まあお肉を腹一杯食べると、他のことは大体どうでもよくなるよ」
これはお肉の原理かな? 定理かな?
真理というのがあたし的には一番ピッタリくるけれども。
「今日、あたしの方は大したことなかったな。悪役令嬢に会ってきたことくらい」
『今日もレイノスへ行ったのか』
「いや、その子塔の村に行くんだ」
『塔の村? どうして?』
サイナスさんに塔の村行きについては話してなかったか。
説明しよう。
謎は大体解ける。
「要するに悪役令嬢の父ちゃんがやらかしてドーラに来たわけじゃん?」
『君のせいなんだろ?』
「それはそれとして」
あたしのせいばかりではないとゆーのに。
無意識にとどめを刺してしまっただけだとゆーのに。
「噂好きなのは世の常。特にレイノスの上級市民は、わざわざ渡海してきた帝国貴族に興味あるに決まってんじゃん? とするとやらかし父ちゃんの失態がバレて、悪役令嬢は笑い者になっちゃうのでした。ちゃんちゃん」
『君のせいじゃないか』
「それはそれとして」
話が進まないじゃんかよもー。
『つまりレイノスに住むのは都合が悪いと』
「もう一つ塔の村に行きたい理由として、リリーに会いたいってのもあるんだ」
『ほう、リリー皇女と交流があるのかい?』
「うん。やらかし父ちゃんがリリーに言い寄ってたっていう間柄」
『えっ? 色々わからない』
「えーと、やらかしさんがリリーを正室として望んでたってのは、リリーに確認してるから本当。でもその辺の微妙な感情みたいなところは、あたしもまだよくわかんないんだ。世の中は複雑怪奇だよねえ」
おいおい謎を全て解いていこうじゃないか。
「で、リリーみたいな武闘少女はともかく、貴族のやわこい足で強歩三日の道のりって大変でしょ?」
『容易に想像できるな』
「案の定、レイノスから強歩一時間くらいの場所で靴擦れ起こして、行くも戻るもならん状況だったんだ。だから一番近い自由開拓民集落にクララの『フライ』で運んで、『リフレッシュ』で治したった」
『随分親切にするじゃないか。いい子なのかい?』
「いいや、とっても悪い子」
いい子だったら、転送魔法陣使って塔の村送ってるわ。
「笑いを提供してもらいたい。初っ端で諦めちゃったら、オブザーバーとしちゃつまんないじゃん。せめて魔物一杯ゾーンか追い剥ぎ村くらいまでは頑張ってもらわないと、エンターテインメントとして成立しない」
『鬼だ、鬼がいる』
「あたしのことサル言いやがったんだぞ? その報いは受けてもらう」
べつに怒ってるわけじゃないけど、ちょっと苦労しろってのは偽りなき本音なのだ。
悪役令嬢の将来のためにも、あたしの楽しみのためにも。
「今後も何回か様子は見に行くつもり」
『何だかんだでユーラシアは面倒見がいいな』
エンタメのためだぞ?
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は雨だし、ソロモコ行ってくるか。




