第992話:悪役令嬢について情報共有
「イシュトバーンさん、聞こえる?」
『おう、バッチリだぜ』
イシュトバーンさんと連絡を取る。
昨日はウルピウス殿下がいたため、話せないこともあったから。
「今、悪役令嬢と会ってきたんだ。案の定レイノス~リレイヤ間で靴擦れ起こして歩けなくなってたから、リレイヤまで運んで『リフレッシュ』かけた」
『えらく親切じゃねえか』
「あたしは足の爪の先から髪の毛のてっぺんまで可愛いとゆーのに。違った、親切だとゆーのに」
リタイヤされてもつまらんからな。
あたしが手をかけてやるからたくさん苦労しろ。
『じゃあまだ当分楽しめるってことだな?』
「イシュトバーンさんはわかってるなー。道中の記録残しとけって言ってあるんだ。あとからでも笑えると思う」
『記録? 恥の塊になるだろ。貴族がそんなもの書くのに同意したのか?』
「リリーに土産話寄越しなよって。失敗談は鉄板だぞーって言ったった」
『ははあ? その悪役令嬢は、皇女殿下と仲がいいのか?』
さて?
「ちょっとまだわかんないところなんだ。昨日悪役令嬢にリリーの話したら食いついてきたから、悪役令嬢がリリー好きなのは間違いないな。それからメキスさん、ドーラに攻め込んだ潜入工作部隊の隊長ね。彼からの情報で、仲悪くないとは聞いた」
『つまり皇女殿下がどう思っているかはわからないということか?』
「うん。リリー側の感情も不明ではあるんだけど、悪役令嬢の父ちゃんの元男爵がリリーに言い寄ってたんだよ」
『はあん? 何だそれ?』
「複雑でしょ?」
『よくわからねえ』
わかるまい。
説明を付け加える。
「悪役令嬢の実のお母ちゃんは、綺麗な人なんだけど平民なんだよね。だから正室にリリーを迎えたいってことだったみたい」
『ほう、なかなか野心家だな』
「元男爵は結構ガツガツ来る人で、多くの人に嫌われてたみたいだな。リリーが嫌ってたかは知らんけど」
『母親が平民なのか。だから悪役令嬢は母方の実家を頼るのでなくて、ドーラに来たんだな?』
「あ、そーゆーこともあり得るか」
母方が貴族だったところで帝都に出られないのは一緒だけど、領地に引きこもってる手はあったか。
個人的にはドーラの方が色々できる可能性があって、面白いと思うけれども。
『外国も帝国の植民地もたくさんあるだろうに、ドーラを選んだのは運があったんじゃねえか?』
「あたしもいるしねえ」
『わかってるじゃねえか』
冗談のつもりだったのに、イシュトバーンさん本気みたい。
照れるな。
『元男爵と皇女殿下の件は、ゴシップ紙の与太話じゃなくて本当なんだな?』
「言い寄ってたところは、リリーに確認してるから本当」
『おい、大丈夫なのかよ? 悪役令嬢なんか塔の村に放り込んで』
「うーん、多分大丈夫」
リリーは陰でコソコソ言われるのは嫌いだろうけど、正面から言われるのは平気だしな。
悪役令嬢もリリーが父ちゃんの正室になることを、むしろ望んでたんじゃないかって気もする。
『それで?』
「それで、とは?」
『とぼけるな。あんたが悪役令嬢に構う理由だよ。面倒見がいいにもほどがあるだろ。どういう関わりがあるんだ?』
鋭いな。
どうせまたあのえっちな目をしているに違いない。
「悪役令嬢の子の父ちゃん、ババドーンって言うんだけどさ。ドーラ独立戦争であたしが帝国の山岳地帯にいた時、二度交渉に来た役人なんだよ」
『ほう?』
交渉っていうか、威圧か恫喝だけどな。
「ウルピウス殿下にはまだあたしがテンケン山岳地帯にこもって抗戦してたことや、飛空艇を落としたことは伝えてないんだ」
『見当はついてたぜ。だから昨日は詳しい話をしなかったんだろう?』
「まーね」
『で、あんた何やらかした?』
「あたしはほら、平和主義者じゃん? 元男爵を口先で言いくるめて追い返したんだよ」
『なるほど。あんたの娯楽を追求する姿勢の犠牲となって、男爵様は失脚したんだな?』
「必要な犠牲だったね」
元々すげえ評判が悪かったっていう前提があるんだってばよ。
あたしのせいばかりじゃない。
「港で悪役令嬢と会った時、プリンスの他クリークさんマックスさんアドルフも一緒だったんだ。マックスさんは山に攻めて来た歩兵部隊の隊長だから、あたしが役人をからかったこと知ってるんだよね。クリークさんも聞いてたみたいで、あの二人ニヤニヤしてこっち見てくるんだよ」
『若い娘同士がきゃいきゃい話してるのが微笑ましかったからじゃねえか?』
「そーだったかー」
きゃいきゃいなんて微笑ましいものじゃなかったわ。
まあいいけれども。
『つまり放っとくのも後ろめたいから、ちょっとは手を貸すかってことなんだな?』
「うん」
『悪役令嬢が性格的に高慢だってのは伝わったが、能力的にはどうなんだ?』
「大したことない」
体力は並以下だし、もちろん固有能力持ちでもない。
『あんた大体損得で物事考えるじゃねえか。悪役令嬢をドーラで飼ってて得になるのか?』
「六人で来てるんだ。母ちゃんと使用人四人と。使用人は皆真面目、特に執事さんは優秀だよ。トータルで考えりゃ損はないな」
『ああ、全部ひっくるめて勘定してるのか』
納得していただけましたか?
「記録取っとけって言ってあるじゃん? 結構な珍道中になると思うんだよね、初日から歩けなくなっちゃうくらいだし。面白く仕上がったらエンタメ紀行文として売りたい」
『あんたが読みたいだけだろ』
「読みたいけれども」
愉快になりますように。
笑いの神様に祈っとこ。
「帝国本土で結構な知名度のある子みたいだから、かなり売れちゃうんじゃないかな。特にゴシップ紙読んでるような人には」
『輸出する目論見があるのかよ? あんたのやることはムダがねえなあ』
あたしはムダなことがあんまり好きじゃないのだ。
ドーラに帝国人の興味を惹きつける効果もあるんじゃないかと思う。
「時々様子見てこようかと思ってるんだよ」
『面白要素を盛ってくるのか?』
「いや、天然素材のままでいい味出してると思うんだよね。トラブルメーカー臭がするの」
『ハハハ、あんたと一緒だな』
「違うとゆーのに」
勘違いしてもらっては困る
あたしには主人公補正が付属してるだけだ。
「じゃねー、イシュトバーンさん」
『おう、またな』
「ヴィルありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』




