第988話:洗脳する気満々なのがえぐい
「サイナスさん、こんばんはー」
ウ殿下を皇宮に送り届けたあと、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日カラーズは輸送隊の出の日でしょ?」
『そうだね。画集と札取りゲームを作っただけ運んでるから、かなりの大荷物だったよ』
「ああ、ようやく出荷イケイケ態勢になったか。大儲け万歳!」
作っただけ売れるというのは嬉しいものだ。
「皆喜んでるでしょ?」
『緑の民の村だけでなく、全村漏れなく景気がいいからな』
「やっぱコラボだなー。いくつかの村が絡んだ商品が売れると皆が嬉しい」
『ちなみにユーラシアは、灰の民の村とどこがコラボしたらいいと思う?』
「色々あるでしょ。白の民と組んで美少女精霊使い絶賛デカ盛り弁当を売り出すとか。赤の民の鍛冶屋と提携して美少女精霊使いお勧め農具を販売するとか」
『君とコラボしようというのではないからな?』
「あれ、バレちゃった? 名前の使用料は儲けの五%でいいからね」
『まったくずうずうしい』
アハハ。
例えばけちゃっぷを売り出すんだったら灰の民単体でやるより、既に調味料販売の実績と販路がある、黒の民と合同でやった方がいいと思うけどね。
『午前中に移民達が焼き魚の試食会をやってたんだ』
「えっ、どこで?」
『緩衝地帯でだ。ドーラの人間はあまり魚に馴染みがないことを知っているから、販売前にデモンストレーションということだろう』
「へー、賢いな」
うんうん、いいことだ。
魚食は移民の専売特許だし、地引網もある。
カラーズに魚を売りつけるといいよ。
「あたしも緩衝地帯行ったんだけど、魚の試食会には気付かなかったな。午後だったから終わっちゃってたか」
『ん? 君今日ウルピウス殿下を連れてドーラをあちこち回ると言っていたじゃないか』
「ちょっと時間余ったから、呪術師のグロちゃんとこも行ったの。ほら、グロちゃんはウ殿下の母親を呪殺しようとした人だから、その後が気になるかと思って」
『ユーラシアのやることは見境がないなあ。オレにも殿下を会わせてくれればよかったのに』
「あたしの旦那になるかもしれない人だから、勿体つけようかと思って」
『……マジで結婚の可能性があるのかい?』
「いい人だと思うよ。お金持ちだし扱いやすいし」
『条件に爪の欠片ほども乙女心が感じられなくてひどい』
アハハと笑い合う。
『本日ドーラに到着した移民は?』
「スムーズだったよ。あたしが行ったの昼過ぎだったけど、もう皆下船してたし。パラキアスさんもオルムスさんもホッとしてた」
『トラブルがなくてつまらなかったろう?』
「皆同じようなこと言うんだよ。どうしてだろ?」
『普段の行いを考えてじゃないかな』
「つまりあたしは仲裁の女神のようだからか」
『その女神は初登場だな』
いや、あたしはトラブルメーカー扱いされること多いけど、それは違うと声を大にして言いたい。
大体トラブルは向こうから飛び込んでくるのだ。
「今回の移民は種を結構持ってきてるんだ」
『助かるなあ』
「本当にねえ。余剰分は行政府が買い取ったんだけど、最初の移民に十分行き渡るほどじゃないんだ。稲はあたしが全部買ってフェイさんに渡してきた。あと塔の村の分を手に入れたから、向こうは何とかなると思って」
『了解だ。では次回以降の移民が持ってくる分は、こっちの開拓地に全て回していいんだな?』
「うん、構わないと思うよ。所持してるのはトウモロコシが多かった」
『トウモロコシは一番ありがたいな』
トウモロコシは温暖なドーラに向いている穀物だ。
春蒔きで間に合い、収穫量も多い。
『イモを増産する面積は十分にあるしな。作物に関しては、これで何とかイケそうだ。ようやく安心できるよ』
「安心するのは早いんじゃないの?」
『無用なフラグを立てるのはマジでやめろ』
天候次第ということはあるが、ドーラの気候は安定してるからまずオーケーなんじゃないかとは思う。
この辺は神様の領分だし、あたしは神様のウケがいいからな。
『お楽しみタイムなんだが』
「え? 何それ?」
『一日ウルピウス殿下を案内してたんだろう? 君には笑いの神様がついてるから、何か面白いことがあったに違いない』
ウケがいいのは笑いの神様にだったか。
「プリンスの元婚約者って人が、移民として来たよ」
『えっ? 貴族か?』
「どうなんだろ? その子の父ちゃんが失脚して男爵位剥奪って話なんだ。でも伯爵家の一族だから、まだ貴族は貴族なのかな?」
どこまでを貴族と呼ぶのか、ルールがよくわからんけれども。
まあドーラ人になるなら身分なんかどうでもいいだろ。
『つまり父親がやらかしたから婚約破棄ということか』
「うーん、まあ表向きは」
『ん? 含みのある言い方だね?』
「その父ちゃんってのが、悪い意味で貴族っぽい、我を押しつけるタイプの元々評判の悪い人だったんだ。あたしが帝国で山ごもりしてた時に役人として来たんだけど、煙に巻いて追い返しちゃったんだよね。任務も遂行できない無能だってことがとどめになってクビみたい」
『あっ、君が関わってるのか!』
そらみろトラブルメーカーじゃないかってゆー心の叫びはやめてもらいたい。
「まーあたしも必死だったし、ドーラ存亡の危機だったから」
『取ってつけたような理由を捻り出すのはやめろ。どうせエンターテインメントを追求したに違いない』
クララよ、そこで頷くな。
『ところでどんな令嬢なんだ?』
「あれ、やらかし父ちゃんよりもドーラに流れて来た薄幸の娘の方に興味があるのか」
『当然じゃないか。失脚男爵は今後絡みがありそうじゃないからね』
ごもっとも。
「フィフィリアって名前の、年齢はあたしくらいの子だよ。一言で言うと悪役令嬢」
『玩具にするんだな?』
「わかる? 傲慢なんだけど単純っていうか、弄り甲斐のあるキャラなんだ。じっくり楽しむことにする」
『ははあ、ユーラシアに目をつけられるとは、悪役令嬢も可哀そうに』
「多分、悪役令嬢本人はあたしに感謝することになるけどね」
『洗脳する気満々なのがえぐい』
アハハと笑い合う。
またサイナスさんにも愉快な話を披露できると思うよ。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日は細々とした用だな。




