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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第987話:悪役令嬢の更生日誌

「ところで今日は何もトラブルはなかったのか?」

「なかったよ」

「あんたはトラブルをトラブルとして認識してねえから信用ならねえ。殿下どうだ?」


 あたしがトラブルを認識してないってどーゆーことだ。

 危機意識くらいあるわ。

 首をかしげるウルピウス殿下。


「トラブルは……なかったな。強いて言えば新聞記者に絡まれたこと。ルキウス兄上の元婚約者が海を渡り、ドーラに来たことくらいか」

「その話詳しく」


 ハハッ、プリンスの元婚約者に反応した。

 イシュトバーンさんは下世話な話が好きだよなあ。

 あたしも好きだけど。

 あ、ヴィルがイシュトバーンさんのとこ行った。


「新聞記者ズは特に。殿下と港へ向かって歩いてたら、醜聞ですか密会ですかスキャンダルですか? って」

「おう、いつものノリだな」

「いつもああなのか? 不快ではないか」


 イシュトバーンさんと顔を見合わせる。


「不快ではないかな。お約束というか、確立された芸風だし」

「からかうと面白えよな」

「あれ? でも殿下もふつーに応対してたじゃん」


 嫌な思いしてたとは気付かなかったわ。

 ウ殿下が苦々しげに言う。


「いきなり這い蹲ったりして奇妙に笑えるとは感じたな。ドーラの新聞記者のノリがいいのは否定できない」

「何がまずいのよ?」

「帝都には、皇族や貴族のゴシップを狙って載せようとする新聞があるんだ」

「新聞記者は平民でしょ? 皇族や貴族のゴシップ記事の取材が失礼にならないの? やっぱ帝国はすごいなー」

「あんたがそれ言うのかよ?」


 アハハ、あたしのことはいいんだよ。

 許される失礼の範囲をわきまえてるから。


 しかしゴシップ紙があるって面白い。

 あたしの求める、エンタメ系の本に考え方が近い気がする。

 そーいや帝国の山の集落で、兵士達が皇室の事情は大衆の娯楽と言っていた。

 ゴシップ紙があることも一因か。


「やつらはあることないことないことないことを記事にする。本当に忌々しい」

「ふーん、皇族の殿下が忌々しいって思うくらいのことをやってるのに、罪になったり発行禁止になったりしないんだ?」

「えっ? 表現の自由の建前があるから、機密事項以外は……」

「殿下よ。そりゃそのゴシップ紙があることで得してるやつらがいるんだぜ? 政権の上の方にな」

「ま、まさか……」


 絶句するウ殿下。

 思い当たることがあるのだろう。


「政権のイメージを下げるような記事を制限する代わりに、他の記事は誇張されてようが憶測が混じってようが、ある程度黙認するって寸法だろ」

「想像の範囲だよ? でも実にありそう。ずっこいとは思うけど、まあ許せる範囲なんじゃないの?」


 皇族や貴族のスキャンダルが報道されるたび、相対的に政権がマシに見える。

 政権をよいしょする記事や、政権にとって邪魔な人をつつくような記事を書かせてるのかもしれないな。

 政権の安定は帝国臣民にとって損になることじゃないし、ゴシップ紙だって暗黙のお墨付きもらってりゃ商売しやすいだろ。


「殿下の話を聞く限り、帝都の新聞はドーラの新聞よりエンタメ寄りみたいだな。面白そう。記者と知り合いになりたい」

「しかし、ないことを書かれれば腹も立つだろう!」

「あることで埋めてやればいいんだぜ」

「えっ?」

「紙面の大きさは決まってるでしょ? 新聞屋だって商売なんだから、紙面を埋めなきゃいけないんだよ。だったら殿下が記事を提供してやればいい。新聞は敵じゃないよ」

「ユーラシアがあんな無礼なやつらに寛容なのは?」

「仲良くしとけば、自分に都合のいい記事も載せてくれるし。宣伝に都合がいいんだよね」

「あ……」


 よーく考えてください。


「で、ルキウス殿下の元婚約者ってのは?」

「悪役令嬢だよ。悪人令嬢かな?」

「はん?」


 ウ殿下が説明する。


「名をフィフィリアという、男爵令嬢だ。名門のエーレンベルク伯爵家に繋がる血筋なのだが、男爵である父御が失脚して、兄上とは破談になった」

「ひょっとしてプリンスが在ドーラ大使になったのって、破談になったことも影響してるのかな?」

「おそらくは。当面の独り身が決まったこと、ルキウス兄上を醜聞から遠ざけるという側面もあったと思う」


 プリンスのドーラ島流しって、傍から見れば結構な必然性があったのか。

 思ったより凝った策だったんだな。


「フィフィリア嬢は、確かに貴族意識が鼻につく印象は元々あったな。しかし帝都を逃げ出す境遇になってまで、あれほどの気位を見せつけてくるとは思わなかった」

「ドーラをド田舎とほざくのは事実だから黙認するとしても、あたしのことをおサルさん扱いしやがったぞ?」

「で、どうしたんだ?」

「リリーのいる塔の村行けって言ったった」

「レイノスにも居づらいってことだな? しかし普通だな?」


 あんた何かやらかしたろって目で見てくるイシュトバーンさん。

 何でわかるんだよ。

 あたしは悪役令嬢の子の父ちゃんの失脚と関わりがあって、ちょっと負い目があるんだよ。

 でも殿下の前では話しにくいから、また今度ね、とアイコンタクト。


「精霊使いの目から見て、そのお嬢はどうなんだ?」

「キャラ立ってるよ。あんだけ高飛車な子は初めて見たな」

「ルキウス殿下の妃は務まると思うか?」

「いやあ、とてもムリ。悪いけど破談になってよかったと思う」


 能力は知らんけど気質がな。

 悪役令嬢フィフィは強気で自分の思うようにしたいタイプだわ。

 皇帝を目指すプリンスに合ってるとはとても思えん。

 ウ殿下も無言で頷く。


「あんた、悪役お嬢を塔の村に送ったわけじゃねえんだな?」

「歩いて行くと思うよ」

「強歩三日と言ったか。では、到着に一〇日くらいはかかるのではないか?」

「貴族の令嬢の足だもんなー。天気次第ではもっとかも」

「おい、どこに面白ポイントがあるんだ?」

「悪役令嬢の更生日誌って面白そーだと思わない?」

「要するに苦労させてツンがデレる瞬間を観察しようってんだな?」

「そうそう」


 イシュトバーンさんはわかってるなあ。

 二人してニヤニヤしていると、ウ殿下とクララが趣味悪いって顔で見てる気がするけど気のせいだ。


「殿下、そろそろ帰ろうか」

「うむ。翁よ、大変美味であった。歓待感謝する」

「またドーラに来た時は寄ってくれよ」

「じゃーねー」

「バイバイぬ!」


 繰り返し転移の玉を使用し帰宅する。

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