第981話:そーゆーこと大声で言って許される身分になりたい
「穏やかな女性だったな」
「ドーラで主導的な役割を果たしている実力者の一人だけどね」
うちへ帰ってきて、ウルピウス殿下の聖火教大祭司ミスティさん評だ。
「聖火教徒ということで警戒していたが」
「まー宗教はお布施をぶん捕って運営する商売だからね。警戒するのはしょうがない。ただあたしの知ってる聖火教徒は押しつけがましいところがないから、付き合いやすいけどなあ。殿下は聖火教徒に嫌な目に遭わされたことある?」
「ない」
「あたしも帝都の聖火教徒はリモネスのおっちゃんしか知らんから、ドーラとは事情が違うのかもしれないけどさ。初めから偏見を持ってシャットアウトするのは損だと思うんだよね」
「うむ」
「気に入らんことがあったらスパッと切りゃいいんだし」
「ユーラシアはそこで切れるのか? 付き合いがあったとしても?」
「ためにならんと思えば切るわ。あたしは利にならんことに付き合うほど暇じゃないわ」
「……」
ま、でも全然ためにならん人ってのも稀だと思う。
使える部分だけ使えばいいよ。
よく考えてください。
「ギルド行くよー」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
ウ殿下とうちの子達を連れてギルドにやって来た。
「やあ、チャーミングなユーラシアさん。いらっしゃい。そちらの方は?」
「こんにちはー、ポロックさん。帝国のウルピウス殿下だよ。ドーラ観光がしたいみたいだから連れて来たんだ」
「よろしくお願いします、殿下」
「こちらこそ、ミスター・ポロック」
ギルドの中へ足を進める。
「御主人!」
先行させていたヴィルが飛びついてきた。
よしよし、いい子だね。
「……悪魔が一人で歩いていて、誰も何も言わないのか?」
「ここのギルドの人達はもう慣れちゃってるから大丈夫」
「皆優しいぬよ?」
悪感情があるとこにはヴィルも寄りつかないしな。
依頼受付所にダンがいる。
おっぱいさんニコニコ。
「こんにちはー」
「おお、何と美しい! 何と豊かな胸だ!」
「あたしもそーゆーこと大声で言って許される身分になりたい」
「なりたいぬ!」
大笑い。
ダンが聞いてくる。
「で、誰だ?」
「帝国のウルピウス殿下。皇位継承権四番目の皇子様だよ」
「よろしくな。俺はダン、情報屋だ」
「よろしく、ミスター・ダン。そして?」
「サクラと申します、殿下」
「うむ、よく覚えておく。ドーラはいいところだな」
「現金だなあ」
アハハと笑って食堂へ。
◇
「これは美味い!」
「でしょ? ワイバーンの卵は旨みが強くて最高だよ」
「母上がパクつく理由がわかった」
ギルドの食堂で昼食を取る。
また大将の作るフワフワ卵焼きはメッチャ美味いんだよなー。
「おい、そろそろ話せよ」
ダンがせっつく。
早耳のパパラッチとしては、どうして帝国の皇子を連れているのか、気になるというのはわかる。
「あたし、皇宮クエストっていうのもらったんだ」
「ああ、聞いてる」
「三日前に皇妃様が呪い殺されそうになる事件ってのが起きてさ」
目を見開くダン。
あれ、新聞読んでないのかな?
殿下が言葉を続ける。
「ユーラシアに母上を救ってもらったのだ」
「どうやって?」
「治癒魔法『キュア』で。うちのクララの『キュア』は呪いにも効くの」
「効くんだぬ!」
「はーん?」
視線が集まって恥ずかしそうに身を縮めるクララ。
ウ殿下が聞いてくる。
「呪い返しについても聞きたかったのだ。何故呪いに『キュア』が効く? 宮廷魔道士長たるドルゴスすら驚いておったぞ?」
「効くとしても、どうしてあんた、それ知ってたんだ?」
「いや、クララの『キュア』は割と何にでも効くなあ、ってのは感覚的に知ってたの。以前にあたしが呪い食らった時、クララに『キュア』かけてもらって治ったからさ」
「何と!」
「ハハッ、あんただと呪われるくらいのことはあるんだな」
あるんだよ。
たまたまだけどな。
「で、殿下と知り合って、ドーラに来てみたいって言うから」
「もう魔境ツアーに参加させたのか?」
「あ、わかる?」
ダンがしたり顔を見せる。
まあウ殿下のレベルでわかったんだろう。
そしてウ殿下のレベルがプリンスルキウスに遥かに及んでいないことも。
……ダンは察しがいいので、プリンスとウ殿下のどちらがドーラにとって重要性が大きいとあたしが判断しているか、一目で理解したに違いない。
「いや、だってドーラに見所って魔境しかないじゃん?」
「驚きであったぞ」
「魔境をハイキングコースにしてるのはユーラシアだけだ。これ豆知識な」
「どうでもいい知識は、殿下に必要ないわ」
「誤った認識を帝国に伝えられちゃ困るから言ってるんだぜ?」
アハハと笑い合う。
「ユーラシアは幼き頃より冒険者であったのか?」
「いや、違うんだぜ。半年前はただの精霊使いだったんだ」
「去年の九の月に冒険者になったの」
『ただの精霊使い』か。
不思議に新鮮な響きだ。
ほぼ半年前、海岸で『地図の石板』を手にした時から全てが始まった。
「半年……しかし本来レベルというものは、血の滲むような修練と経験で上げるものだろう?」
「こいつは違うんだ。つい一ヶ月くらい前だったか。トラブルでレベル一まで下がっちまったことがあったんだが、不便だからって一日で一〇〇以上にまで上げてきたんだぜ」
「ドーラは魔物が多いからねえ」
「こいつがメチャクチャだのデタラメだの呼ばれる所以だ。ドーラでのレベルアップの常識が崩壊した」
レベル上げは方法論だと思うよ。
ウ殿下がハーブティーのカップを揺らしながら言う。
「……カル帝国での最高レベル者は、確か七〇くらいだったと記憶している」
「魔物が少なくていいなあ。平和の証拠だよ」
「稀に災害級の魔物が出現すると大きな被害が出るんだ。高レベル者はいるに越したことはない」
一応頷いておく。
その高レベル者が味方ならいいけどね。
国を治める上で難しい問題だぞ?
「これからどうするんだ?」
「今日移民が来るんだよ。レイノス港へ見に行くつもり」
「ああ、なるほどな」
頷くダン。
「一ヶ月前の移民は大変だったからさあ。今日は何事もないといいなと思ってる」
「おっ? フラグ立てるじゃねえか」
フラグのつもりじゃないんだが。
「ごちそーさま。ダン、じゃねー」
「おう」
「さらばだ。また会おう」
「殿下ちょっとここで待っててくれる? うちの子達家に置いてくるわ」




