第972話:皇妃様と面会
「こんにちはー」
「やあ、精霊使い君。と、えっ、リリー殿下?」
「皇妃様のお見舞いだからね。リリーもいた方がいいと思って」
「あっ、これは御無礼いたしました!」
恐縮してソワソワする詰め所内の近衛兵達に一言。
「よいよい。お勤め御苦労なのだ。職務を全うせよ」
「ユーラシア、それは我のセリフだぞ」
「察してよ。さっきリリー格好良かったからさ。あたしもえらそーに言ってみたいじゃん」
アハハと笑い合う。
今日はエンタメ要素が少なめのようだから、積極的に開拓しないといけないのだ。
「では母様の元へ参ろうぞ」
「オーケー」
黒服何も言わないな。
できる従者はこういうものか。
皇宮の中へ。
「随分近衛兵と親しくしておるではないか」
「もう皇宮に来るのも四回目だからね」
「まだ四回なのだろう?」
もうかまだかは、意見が分かれるところだろうけど。
あたしもドーラの宣伝アンバサダーとして、もっと有力者と知り合いたいもんだな。
「あんまり気にしてなかったけど、皇宮には塔が四本あるんだねえ」
「有事の際の見張り用だが、ほぼ使用されておらんぞ。我も上まで登ったことのある塔はない」
「そーなんだ?」
言われてみれば儀式呪術が行われていた部屋、埃っぽい気がしたな。
普段使われてないから呪うのに都合がよかったのか。
「呪術に使われていたのは、どこの塔だったのだ?」
「あ、ちょっとここからじゃわかんない。皇妃様のいた部屋から一番近い塔だと思う」
あの呪い、距離も重要みたいだから。
「ところでリリーがドーラに来てることを知ってるのは、どのくらいの人までなん? 何か雰囲気的に近衛兵は知ってるみたいだけど」
「近しい者は知っておるぞ」
だからその近しいのはどの辺までなんだよ。
「仲の良い兄弟姉妹とその周りの者だの。近衛兵には言っておらなんだが、誰ぞから伝わったのだろう」
「ふーん」
暗殺未遂事件だが、皇妃様が対象になったというのがイマイチピンと来ないのだ。
次期皇帝争いがカギなら、皇子達を対象にするべきなんじゃないの?
さすがに何人も呪殺するのはムリがあったからなのか、それとも他の理由があるのか。
リリーがドーラに来ていなかったら、対象となる可能性はあったのか?
まあこれはリリーには聞きづらいことだ。
ただ先妃様系の皇子皇女が黒幕とするなら、現在の皇妃様を狙うのは理解できる。
とするとセウェルス第三皇子が黒幕ってのはありそうなんだよなあ。
証拠がない以上、考えても仕方のないことではあるが。
「突き当たりのところだぞ」
「やっぱりここが皇妃様の部屋だったか」
この前の部屋だ。
病室ではなかったらしいな。
侍女があたし達を見て驚く。
「あっ、リリー様! いつこちらへお戻りに?」
「あたしが連れてきたんだよ」
「見舞いに来たのだ。母様は元気か?」
「元気です!」
即答で元気なんだ?
どんだけ皇妃様丈夫なんだよ。
部屋の中に通される。
「あら、リリー、セバスチャン、いらっしゃい。そちらは?」
「精霊使いユーラシアでーす」
「あらっ、まあ!」
リリーより若干明るめでロングの金髪の女性が飛びついてくる。
眉毛の形が血の繋がりを感じさせるなー。
でもえらく動きが俊敏なんだけど?
一昨日死にかけてたと思えん。
「あなたのおかげで命が助かったと聞きました。本当にありがとうございます!」
「いえいえ、そんな……」
リリーが違和感を覚えたようだ。
「何だ? ユーラシアらしくない、歯切れの悪さではないか」
「わかる? クセのない善人って苦手なんだよ。冗談言っちゃいけない気がする」
ダンのパパさんと似たタイプだ。
「母様は武術と冗談が好きだから、問題ないぞ」
「わかった」
確かに皇妃様は拳法の心得がありそう。
リリーに手ほどきしたのも皇妃様なのかな?
「ところでドーラ一のお茶はいかがかな? メッチャおいしいよ」
「あっ、母様。このお茶はすごいのだ! 世界最高峰と言って過言ではない」
「そうなの? いただきます。ふおおおおおお?」
飲むの早いよ。
一気飲みじゃないか。
「おかわりいただきます!」
「どーぞ、御遠慮なく」
ガブガブいくなあ。
何か善人じゃなく小動物みたいに見えてきたぞ?
「これ、ワイバーンの卵。お土産だよ」
「あっ、これすごくおいしかったの!」
「ズルいぞユーラシア! 我にも寄越せ!」
「あんた自分で何言ってるかわかってるか?」
リリーがワイバーンの卵好物なのは知ってるけれども。
いくらおいしいからって、お見舞い品だからな?
親子で好みが似るんだなあ。
「これプリンスルキウスも好物なんだよね。プリンスも、くれぐれもお身体を大切になさるようって言ってたよ」
「ルキウス兄様も現在大使としてドーラにいるのだ」
「ルキウス皇子も事の顛末を御存じですのね?」
「うん」
「お気遣いありがとう、妾は大丈夫ですとお伝えください」
「必ず」
皇妃様はリリーをやや天然に寄せたような天真爛漫な人だ。
こういう人が個人的に恨まれるって考えにくいな。
やはり立場的にターゲットになったと思われる。
「ユーラシアさんは、冒険者のお仕事でたまたま皇宮に来られるようになったとか?」
「うん。ドーラには『アトラスの冒険者』というものがあって……」
かくかくしかじか。
ふんふんと聞いている皇妃様とリリー。
「我も『アトラスの冒険者』になりたいのだがなれぬのだ」
「なりたくてなれるもんじゃないんだって。リリーは塔の村で十分活躍してるからいいでしょ。地下ダンジョンも出たところだし」
「我も母様の危機に駆けつけるという、ヒロインの役どころを演じてみたいではないか」
「そーゆーのは正真正銘のヒロインに任せておきなよ」
アハハと笑い合う。
「今日は精霊さんはいらしてないのですか?」
「精霊は基本的に人間が苦手なの。なかなか人の多いところには馴染みにくいんだよね」
「ああ、シャイなタイプの精霊さんでしたか。ありがとうございましたと、お伝え願えますか?」
「もちろんだよ」
あれ、皇妃様も精霊のことを結構知っているみたいだな?
何でだろ?
お? 誰かが部屋に入って来た。
ウルピウス殿下だ。
「母上、大事ないか?」
「問題ありませんよ」
「小兄様。お久しぶり」
「うむ、リリーよ。ドーラでの生活はどうだ? 息災か?」
「元気も元気なのだ!」
黒服が頭を深く下げる。




