第970話:エンタメの種
「フェイさーん、こんにちはー」
「よく来た、精霊使いユーラシアよ」
カラーズ緩衝地帯の黄の民のショップに来た。
グリフォンから羽毛を得るために使う櫛ができあがる日なのだ。
「これでどうだろう?」
「うんうん、ありがとう。使ってみて具合良ければ、もう一、二本注文するかも」
「うむ、待っておるぞ」
グリフォンのお腹のところはすげーもふもふだからなあ。
布団にはかなり期待してる。
「ユーラシアさん!」
「あ、インウェン」
奥からインウェン出てきた。
ニコニコしとるわ。
「幸せそうだねえ。これが新妻オーラか」
「まだ新妻じゃないですよ」
アハハと笑い合う。
あれ、急に真面目顔ですね?
「現在のクルクルの様子って、御存じありませんか?」
「わかんない。あたしはクルクルに行ったことないんだ」
カトマスと塔の村の中間辺りにあるという自由開拓民集落クルクル。
インウェンやハオランに縁の深い地で、『アトラスの冒険者』の後輩ボニーの出身地でもある。
地理的には自由開拓民集落ユーラシアに近いはず。
「数ヶ月前ハオランに初めて会った時、食っていくのが大変だったから冒険者になったみたいなこと言ってたよ」
「やはり……。私のいた頃とあまり状況は変わっていないようです」
西域の自由開拓民集落の中には、生活の厳しいところ多いだろうからなあ。
「あたしが思うに、あの辺の自由開拓民集落はカトマスから距離があるじゃん?」
「強歩丸一日はありますね」
「商人が一泊でカトマスから行って帰ってこられる距離じゃないじゃん? 交易で発展させようと思うと、より東に位置する集落より難しいのかなあって気はする」
自給自足メインじゃ、発展はなかなか。
ただし塔の村が発展して西域街道を行き来する人が増えりゃ別だ。
宿場町需要は高まる。
「インウェンの見る限り、クルクルの問題点って何なの?」
「魔物ですかね。比較的出現する魔物が強いように思えます。ですからなかなか耕地も広げられず」
「なるほど」
そーいやボニーも最初レベル二って話だったのに、あたしが会った時には三になっていた。
ある程度魔物退治が常態化してるんだろうか?
「あれ? 西域で魔物除けの札を見たことないな」
少なくとも、あたしの名前の自由開拓民集落にはなかったぞ?
「魔物除けの札を生産しているのは黒の民だけだろう」
「西域では柵で防御したり鐘で脅したりが一般的ですよ。街道には魔物除けの基石が埋められているそうですが」
「じゃあ魔物除けの札を買って設置すれば解決するのかな?」
「どうであろう。強い魔物だと魔物除けの札の効果は薄いと聞くが」
「一昨日黒の民に、効果の高い魔物除けの札を作れる呪術師が仲間入りしたんだよ。グロチウスって名前。彼に聞いてみるといいかも」
「ほう? 何故そんなことを知っている?」
あ、フェイさんが面白気配を感じ取ったらしい。
敏感だな。
「帝国で皇妃様を呪い殺そうとしたっていう、言語道断な事件があってさ。その実行犯なんだ。黒幕がわかんないから、解決したわけじゃないんだけど」
「えっ?」
インウェン驚いてるが、あんたの旦那は悪いやつだからニヤニヤしてるぞ?
「よく大逆の者をドーラに連れてこられたな」
「呪術師として有能だから欲しくなっちゃったんだ。黒の民にも歓迎されてるからよかったよ」
「ふむ、効果の高い魔物除けの札は西域に売れるかも知れんな」
「検討の余地はあるねえ」
ある程度の枚数を揃えようとするとかなりの金額になる。
貧しい西域の自由開拓民集落では難しいかもしれないが、魔物除けの札というものがあるということは知らせておくべきかもしれないな。
あたしも西域の個々の自由開拓民集落の事情は知らんから、考えておかなきゃならん。
「じゃ、あたし帰るね」
「うむ、さらばだ」
「さようなら」
黄の民のショップを後にする。
◇
『おう、聞こえるぜ。この金何だ?』
ヴィルを使って、イシュトバーンさんと連絡だ。
「画集の初期出荷分七〇〇部の、イシュトバーンさんの取り分だよ」
『おう、忘れてたぜ』
割とどうでもいいみたいだな。
面白いことの方が優先か。
『やたらと売れてるんだろ? オレんとこにも問い合わせが来るんだぜ。重版まだかって』
「絵師のイシュトバーンさんに聞いたってしょうがないじゃんねえ。重版どころか、初版二〇〇〇部もまだ全部出てないのになー。いやヘリオスさんから重版二〇〇〇部注文もらってるし、帝国への輸出分二万部もあるから、とにかく刷ってとは言ってある」
『予定通りのヒットだな』
「絵師がさすがだからねえ。仕掛け人はもっとさすがだけど」
アハハと笑い合う。
『何か面白いことねえか?』
「フリが雑だなあ。大したことはないけど、ドラゴンスレイヤーのソル君いるでしょ? 今『魔王』ってクエストに取り掛かってるの。難航してたんだけど、進展しそうな気配になったんだ」
『ん? どうして『魔王』なんてエンタメ要素満載なクエストが、あんたに回んなかったんだ?』
「エンタメが全てあたしんとこ集まるわけじゃねーよ。いや、皇宮クエストと二択だったんだ。あたしが元々持ってた、帝国の山岳地帯行きの転送魔法陣が使えなくなっててさ。繋ぎ換えるのが簡単だという理由で皇宮クエスト振られたの」
『ほお、もっともな理由があるんだな』
納得するイシュトバーンさん。
「あたしはパワーカード装備じゃん? 一見武器持ってないように見えるから、一般人の武器所持禁止の帝国で都合がよくて、皇宮の方を任されたってこともあると思う」
『なるほど』
「石板クエストの配給はおっぱいさんがやってるんだよ。細かいとこすげー考えてくれてるんだ」
『ほお?』
おっぱいさんの名前が出ただけでニヤニヤしてるだろうことを、あたしに見透かされるイシュトバーンさん。
「ソル君にはもし魔王と知り合えたら、あたしにも紹介してって頼んであるんだよ」
『エンタメの種か』
「そうそう。で、あたしはあたしで、午後リリー連れて皇宮行ってくる」
『エンタメ要素があったら話せよ』
「今日は皇妃様のお見舞いだから、エンタメはないと思うけど」
『油断は大敵だぜ』
どんな油断だ。
変なフラグ立てんな。
「じゃあ、またね」
『おう、楽しみにしてるぜ』
「ヴィルありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』




