第969話:リモネスさんを連れてきていい?
――――――――――一七六日目。
「アリスー、おっはよー」
朝から本の世界にやって来た。
無論お肉の調達のためだ。
昨日も来たんだけどな。
「あら、おはようございます。今日も肉狩りなの? 働き者ね」
「そこで『食いしん坊』でも『食い意地が張ってる』でもなくて、『働き者』ってワードが出てくるところはさすがの気遣いだなー」
アハハと笑い合う。
本の世界のマスター、金髪人形のアリスが笑うのかと言われれば、まあそんな気がするのだ。
「そろそろ次の移民が来るでしょ? いつだっけ?」
「明日レイノス港に到着予定ね」
「明日だったか。少し開拓地の方にもお肉持っていこうかと思ってるんだ。様子見を兼ねてね」
「だから今日も肉狩りなのね。本当に働き者ね」
「アリスはあたしの本質をズバリと言い当てるなーまいったなー」
再びアハハと笑い合う。
「働いてくる!」
「行ってらっしゃい」
お肉お肉と。
◇
「こんにちはー。美少女精霊使いユーラシアがやって来ましたよ」
「おはようございます」
掃討戦跡地の方へコブタ二〇トンを置いてから、聖火教の本部礼拝堂の方にもやって来たのだ。
こっちの様子も確認しておきたいし、リモネスのおっちゃんの件もある。
応対に出てきた修道女に言う。
「お肉になる魔物をお土産で持ってきたんだよ。どこへ置いておけばいいかな?」
しばらく礼拝堂地区には来てなかったから、先月の第一弾の移民がどの辺に住み着いてるか知らないしな。
「できれば北の方へお願いできますか」
「北というと、もじゃもじゃ長老のいる元・山の集落の人達のところ?」
「いえ、そのすぐ東側に一ヶ月前の移民の住んでいる区域があります。西との境が集会所のように広くなっていますから」
「おおう、なるほど。移民の皆さんはうまくやってるかな? あたしが力になれることがあれば協力するよ」
「今のところ順調ですね。ユーラシアさんみたいな方が気にかけてくださって、皆嬉しいと思いますよ」
「やっぱ美少女は何するにしても嬉しがらせちゃうかー」
アハハ、あたしみたいな実力者が気にかけるからだって?
実力者って言われると背中がかゆくなるな。
「えーと、移民の区画同士の境の広くなってるところだね。ありがとう、お肉運んでくる!」
「いえいえ、ありがたいのはこちらです」
クララの『フライ』でコブタマンを運ぶ。
「こんにちはー」
「ユーラシアさん!」
ミスティさん、こっちにいたのか。
話が早いわ。
「様子見に来たんだよ。皆さんはどう?」
「極めて順調ですよ」
さっきの修道女もそう言ってたし、問題はないな。
ミスティさんも満足そう。
冬だし、しばらくこっち来てなかったちょっと心配してたわ。
あ、ワラワラ人集まってきた。
「お土産のお肉だぞー! 皆で食べてね」
「おお!」
「大量じゃねえか! こりゃすまんな」
皆さん喜ぶ喜ぶ。
お肉って素晴らしい、幸せの食材。
もじゃもじゃ長老とワッフーとヒゲの移民頭が来た。
「精霊使い殿、お久しぶりですな」
「うん、こっちの皆に活気があってよかったよ」
ワッフーが言う。
「次の移民がいつ来るか知らないか? そろそろのはずなんだが」
「明日レイノス港に到着予定って聞いたよ。ミスティさん、こっちにいていいの? レイノス行くなら連れてくけど」
「いえ、大丈夫ですよ。一ヶ月前ほどの規模ではありませんので、レイノスのハイプリーストが先導してここまで連れてくる手筈になっているんです」
「もう次はこの前みたいに身の回りのもの取り上げられちゃってるってことはないはずだから、全然平気だな」
あたしも今んとこ今月の移民の様子を見に行くつもりはない。
帝国の法律が変わって出国税がなくなった今回に問題が起きるようなら、根本的に考え直した方がいいわ。
ヒゲが苦笑する。
「いや、高額の出国税は本当に勘弁して欲しい。今でもタムポート港で絶望的な選択を迫られた時のことは夢に見るんだ。目覚めると冷や汗かいてるよ」
「目が覚めてよかったと感じる夢は悪夢じゃないよ。目の前にごちそーを山ほど並べられて、さあ食べるぞーって時に目が覚めると一日ブルーだわ」
笑い事じゃないわ。
大マジだわ。
「で、君が今日来た本当の理由は何なんだ?」
意外とワッフー鋭いな。
「リモネスのおっちゃんが来たいって言うんだ。連れてきていいかな?」
ヒゲが驚く。
「リモネスというと賢者リモネス? 皇帝家とも縁の深い?」
「そうそう、その人」
「何故に?」
「ドーラの聖火教徒の様子を見にっていうのが表向きの理由」
言語化されてる情報は以上だ。
ミスティさんが何かに気付いたように言う。
「表向きじゃない理由がありますか?」
「どうもリモネスさんの身辺は不安定なんだよね」
人の心中を知る『サトリ』の固有能力持ちで、発する言葉は絶対的に信用される。
ならばゆえにその存在を疎ましく思う人間はかなり多いんじゃないか。
『サトリ』がキツい固有能力であるとあたしが思う理由だ。
「今の皇帝陛下が亡くなるようなことがあると、おっちゃんの立場はかなり脆いものになるかもしれないでしょ? 誰が次期皇帝かにもよるけど」
「そ、んな話なのか……」
「もしヤバそーだったらドーラに移住する? って意味を込めて、一度ドーラ見てみるかって誘ったんだよ。即答でオーケーだったから」
リモネスさんの『サトリ』は他人の心を覗ける稀有な固有能力ではあるが、未来が見えるわけじゃない。
身に迫る危険を察知できはしないのだ。
ヒゲが考えつつ話す。
「……賢者殿と言えば両陛下に全幅の信頼を置かれている方だ。まさかそんな危うい身の上だったとは……。考えてみたことすらなかった」
「もちろんこちらはいつでも構いませんよ。私もリモネスさんとは話してみたいと思いますし」
「大丈夫? こっちの考えてることわかっちゃう、かなりえっちな能力だよ?」
ワッフーが笑う。
「精霊使いはリモネス氏のことを、かなり気に入ってるみたいじゃないか」
「あたしは言動に恥じるところのない美少女だから、特に困ることないし」
笑うとこじゃないよ?
「信用できる人なのは間違いないなー。いい人にはいい目に遭って欲しいよ」
全員が頷く。
「じゃ、日が決まったら伝えに来るね」
「ええ、お願いします」
皆に別れを告げ、転移の玉を起動し帰宅する。




