第968話:お肉たくさん幸せの日だった
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食にたっぷりお肉を食べたあと、毎晩恒例のヴィル通信だ。
ハハッ、今日はお肉たくさん幸せの日だ。
『ああ、こんばんは』
「今日、ソロモコ行ってきたんだ」
『そこまでは昼会った時に聞いた。でもすぐ帰っちゃったじゃないか』
「だってサイナスさんとこにお土産に持ってったお肉が、最後のストックだったんだもん。狩りに行かなきゃいけなくて」
実際にはお肉の確保より先に魔境へ行ったけど。
『肉の確保は重要だな』
「何より重要でしょ?」
『何より、かはともかく』
「そーか、あたしも信頼とか絆とかの方が重要だもんな」
『君ズルくないか?』
「あたしの新芸風に何か文句が?」
アハハと笑い合う。
こーゆー掛け合いもあたしにとって重要なのだ。
『ソロモコはどうだった?』
「ココヤシってゆー背の高い木があるんだけど、てっぺん近くにすげえデカい実がなってるの。下で昼寝してたら危ないなと思った」
『そんなことを聞いてるんじゃないんだが』
「クララによると、かなり利用価値のある植物なんだって。でもドーラじゃ温度が足りないから、大きく育てるのが難しいみたい」
『そんなことを聞いてるんじゃないんだが』
何を聞かれてるんだろ?
『仮面だよ、仮面! あの仮面を被っていったんだろう?』
「被っていった。そしたらちょっと面白いことになった」
『何をやらかした?』
やらかしてないとゆーのに。
サイナスさんはすぐトラブル方向に話を持っていくんだから。
「あのお面のオリジナルは、何とソロモコ製でした」
『ほう?』
「昔、海に流されたもので、あのお面を身に着けた者がソロモコの危機を救うっていう言い伝えがあるんだって」
『つまり救世主ユーラシアか』
「いい響きだねえ」
気分はいいけど、まだクエストの正体がわかんないからな。
ん、サイナスさん何?
『ソロモコ人とは言葉が通じないんじゃなかったか?』
「通じないよ。けど大体の意思の疎通はできるよ。人間同士だもの」
『大体どころか、かなり細かい情報のやり取りができてるようじゃないか』
「え? まあできるねえ」
『あれか。君のお得意のカンで相手の言ってることがわかって、君のお得意の説得力で自分の言いたいことを伝えるというやつか?』
「……全然意識してなかったわ。サイナスさんの言う通りかも」
『ユーラシアの無意識コミュニケーションがえぐい』
そげなことゆわれても。
あたしすごいでよくない?
「で、ソロモコの危機とは何だって聞いたんだよ。多分クエストの内容に関わることだと思うから」
『うん、えぐさを掘り下げても仕方ないから先を聞こう』
「先日大きな船が沖に見えたってことなんだ」
『大きな船? 帝国船か?』
「あたしが見たんじゃないし、何とも。ただ前に『ウルトラチャーミングビューティー』って名付けてもらった日、帝国の港町タムポートに二艦の軍艦がいて、明らかに通常時より物資の積載量が多いって、情報屋に聞いてはいた」
『大きい船を出せる国なんて限られてるぞ?』
「うん。帝国の軍艦が偵察に行ったんだとすると、日数的に辻褄は合うなあと」
ドーラ戦の失点を取り返したい主席執政官の第二皇子は、おそらく外征での華々しい勝利を望んでいる。
前は植民地の独立運動を煽って鎮圧する方法を取るのかと考えていた。
が、プリンスからの献策があったからか労多くして功少ないことに気付いたからか、その後音沙汰がない。
共通語であるコモンズの通じない蛮人の住む島国、かつ今後活発になるであろうドーラ貿易との中継地にちょうどいいソロモコは、格好の標的になり得る?
「怪しい気はプンプンするけれども」
『いや、もし帝国の侵略目的の軍艦だったらどうするんだ?』
「どうって、お引き取りいただくしかないじゃん」
そーゆークエストの解決法が望まれてるならしょうがない。
しかしあたしが帝国と敵対することがドーラの幸せとは思えない。
うあ、ジレンマがあるわ。
気が進まないなあ。
『追い返すことは可能なのか?』
「一度言いくるめるだけだとまた来ちゃいそうだから難しいねえ。沈めちゃう方がよっぽど簡単だけど、あたしは平和主義者だから」
『悪魔の説得力とレベルの暴力をチラつかせた平和主義者かい?』
「なかなかいい謳い文句だけど、二つ名にはちと長ったらしいね」
アハハと笑い合う。
「まだわかんないんだ。友好的な目的かもしれないし」
『言葉の通じない国に対して友好的な訪問なんて、自分でも信じてないだろう?』
「うーん、時期が時期だもんなあ」
『ユーラシアのカンではどうだい?』
「無事に治まる気配だね。何たってあたしが絡んでるから」
『ハハッ、幸運を祈るよ』
つってもソロモコはまだ何も起きてないからな。
「明日カラーズに行くね」
『ん? 今日肉を持ってきてくれたのに、まだ用があるのかい?』
「櫛ができ上がるんだ」
『ああ、グリフォンどうこうって言ってたやつか。羽毛なんかどうするんだ?』
「洗うとすげえフカフカになるんだって。プリンスもグリフォンの羽根布団は最高級品だって言ってたよ」
『輸出品ということか?』
「だね。あたしん家用に四人分欲しいけど、あとでいいや。ヨハンさんが引き取ってくれるみたい」
サイナスさんが思いついたように言う。
『羽毛は嵩張るだろうが、あの無限ナップザックがあれば運べるから、商用の目処が立ったということだな?』
「運搬手段も問題なんだけど、グリフォンってあんまり数がいないんだよ。狩ってると絶滅しそうなの」
『ダメじゃないか』
「ところがどっこい、あたし達はグリフォンを餌付けすることに成功したのでした! 人形系レア魔物の亡骸が好物なの。でもグリフォンじゃ人形系倒せないでしょ? 時々あげて仲良くなることができたんだ。どういうわけかグリフォン同士で情報が共有されてて、最近どの子も挨拶してくれるんだよ。多分ブラッシングくらいさせてくれるな」
『コミュニケーションに見境がなくてえぐい』
友好はえぐくないわ。
「明日午前中行くよ。午後はリリー連れて皇宮へ遊びに行くんだ」
『わかった。今日はそんなところか?』
「うん。サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日はまずカラーズかな。




