第966話:幻影の城
「あっ、チャラ男こんにちはー」
階段の近くで暇そうにしていたピンクのモジャ髪に声をかける。
「チャラ男はやめてくれよ、ウルトラチャーミングビューティー。彼らはドラゴンスレイヤーのパーティーだね?」
「はい、ソールといいます。こちらがアンとセリカ。あなたは?」
「パラキアスさんの手下だよ」
「一応内緒なんだけど」
互いに自己紹介して、モジャ髪について説明する。
塔の村の様子を探るために送り込まれ、デス爺にもこき使われてるの何の。
「塔のダンジョンにおける、縁の下の力持ちですね」
「率直に褒めてくれると嬉しいよ、ハンサムボーイ」
「ははあ、持ち上げて落とすパターンだな?」
「君は黙っててくれ。人を信じられなくなる」
「信じられなくなるぬ!」
大笑い。
「チャラ男の相棒がすっごく可愛いんだよ」
「「「相棒?」」」
「こいつさ」
モジャ髪の中からリスが顔を出す。
「「可愛い!」」
「可愛いじゃなくてカッコいいと言ってくれ」
それマジで言うのな。
モジャ髪が嬉しそうだ。
「これなんだよ。女の子の反応はこうじゃないと!」
セリカが言う。
「ちなみにユーラシアさんの反応はどうだったんですか?」
「ギャップがズルい! って。芸人の批評っぽい反応だった」
「もーいいじゃないか、過去のことは」
だから笑うな。
「今日は何しに来たんだい?」
「ウシ子に会いにだよ。ソル君達は今、『魔王』ってクエスト請けててさ」
「ああ、ザガムムは魔王配下の悪魔だから、話を聞きにってことだね?」
「そゆこと」
肩を竦めて両手を広げるモジャ髪。
「『魔王』か。聞いただけでも恐ろしげなクエストだね。オーケー、充分に情報収集していってくれよ」
「うん。じゃあね」
最上階でウシ子の部屋のある三一階へ。
◇
「こんにちはー」
「あーら、いらっしゃい」
「ウシ子、聞いたぞ。冒険者達に頼りにされてるらしいじゃん。やるなあ」
「ありがとうなのん!」
機嫌のいいウシ子。
ヴィル連れてくると衝突するかなと思ったけど、あたしがいれば全然問題なさそうだ。
ヴィルも機嫌良さそう。
「そちらの方々は? かなりのレベルとお見受けするけど?」
「ドラゴンスレイヤーソル君のパーティーだよ。ウシ子の話が聞きたいって言うから連れてきたんだ」
「そうなのん? えへへっ」
よしよし、ウシ子もうまくやってるようじゃないか。
黄珠を出す。
「はい」
「え? 何なのん?」
戸惑うウシ子。
「あんたの話を聞きたいって言ったろーが。情報料だよ。対価はもらっときなさい」
「あ、ありがとうなのん」
よし、受け取った。
これでウソは吐けまい。
「ソル君達は『魔王』ってクエストを請けてるんだよ」
「『魔王』? 何なのん?」
「あたしも内容は聞いてなかったな。クエストの内容は判明してるの?」
ソル君が答える。
「いや、まだなんです。だから魔王に会うのが先なのかなと」
「レベルが高くなってくると、どーやったら完了なのかわからんクエストが増えてきたなあ。ソル君達もそう?」
「「「はい」」」
面白いっちゃ面白いんだけど、クリアまで時間がかかるということでもある。
「魔王のいる現場はどこなん?」
「遥か西の方にある、大陸というほどではないけど大きな島があって、そこを占拠してるのん」
「なるほど、魔王島か」
ソル君達も頷いている。
どうやって調べたか知らんけど、魔王島の概要は知っているらしい。
墨珠を出す。
「はい」
「え、もらっていいのん?」
「だから正当な対価は受け取りなよ。これから話してもらおうと思ってることは、これくらいの価値はあるとあたしは思うから払うの。あんたがこれでは見合わないと思うならつき返しなさい。わかった?」
「わ、わかったのん」
完全にペースは握ったな。
「で、魔王島に着いたとするでしょ? 魔王のところまで行くのはどうしたらいいかな?」
「一ヶ所しか船着場がないから、そこから話すのん。東の森と湖を越えたところに館があるから、飛んでいけばいいのん」
「「「えっ?」」」
ソル君達が一斉に声をあげる。
何なの?
「ずっと西に道が続いていて、その先におどろおどろしい城のようなものが見えるんですよ。あれは? 道の果ての城が目的地なのかと思ってたんですけど」
「幻影なのん。頑張ってそこまで来ようとする者を笑って、悔しさとか苦しみとかの感情を得ようという趣向なのん」
「趣味悪いアトラクションだなー。いや、悪魔っぽいのかな?」
ウシ子に聞いてよかったなー。
余計な面倒を続けるところだったわ。
あれ? ソル君達がガックリして精神的ダメージを受けてる。
ウシ子を喜ばすだけなのにな?
「クエストが出るってことは、何か困りごととか要求とかがあるはずなんだけど、ウシ子は心当たりないかな?」
「ないのん」
「魔王の依頼で、ウシ子が島を離れている。捕まえて連れ戻せって話かもしれないぞ? その時は恨むなよ?」
「えっ? えっ?」
途端に慌て出すウシ子。
小物だなあ。
「こ、困るのん。ワタシはここの居心地がいいから、離れたくないのん!」
「さて、どーかなー?」
震えるウシ子に苦笑するソル君。
「いや、連れ戻せというクエストじゃないでしょう。『魔王』ですし」
「あたしもそう思うけど、ソル君達ばかりダメージ受けてて、ウシ子がノーダメージなのはフェアな取り引きじゃないなーと思って」
『魔王』ならば魔王本人か魔王島に関わる案件なんじゃないかな。
正直ウシ子みたいな小物がいなくなったって、魔王たるものが痛痒を覚えると思えん。
マジでウシ子を捕まえるなら、配下全員を動員しそうだし。
「あ、あなたがダメージ受けてないのはおかしいのん!」
「あたしは魔宝玉を支払ってるだろうが。懐にダメージ受けてるわ」
「わっちもダメージ受けてるぬ!」
あっ、ソル君やウシ子が受けた精神的ダメージを浴びちゃうからか。
「ヴィルが一番割に合わないダメージ受けてるねえ。アンセリにぎゅーしてもらいなさい」
「ダブルでぎゅー!」
「ふおおおおおおおおお?」
よかったね。
「これはお礼だよ」
藍珠をウシ子に渡す。
「いいのん?」
「いいよ。ちょっとしたスリルもサービスしてやったし」
「全くいらないサービスだったのん!」
アハハ、怒らない怒らない。
聞きたい話は聞けた。
「ウシ子ありがとう。またね」
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