第963話:救世主の仮面
――――――――――一七五日目。
「本当だ。比べると何か違う」
「そうでやすねえ」
お面の話だ。
一昨日フェイさんとサイナスさんの話を聞いてただけじゃよくわからんかったけれども、オリジナルとレプリカを並べてじーっと見てるとやっぱ違う。
重みっていうか貫禄っていうか。
明らかにオリジナルの方がすごい。
目を離せない感じ。
「何がディファレントね?」
「何が違う、ってわけじゃありませんよね?」
「どこが違うってことじゃなくても何かが違うねえ」
いや、よく見比べてもどこかが明らかに違うなんてことはないんだよ。
でも不思議なことに何かが違う。
例えて言うなら、イシュトバーンさんの絵とモデルの差異に近い。
アートってこういうものなのかなあ?
「ま、準備はできた。ソロモコ行くよ」
「「「了解!」」」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「いやー、暖かいのは実にいーなー」
ソロモコに到着。
転送先の小高い丘の上はなかなか眺めもいい。
遠くに綿みたいな雲がポカッポカッと浮いてるが、ほぼ快晴だ。
ドーラとは違うやや湿気多めの風も、却って異国だなあと感じさせていいものだ。
「美少女精霊使いの普段の行いを、お天道様が称賛しているようないい天気だねえ」
「雨が降っていたら恵みの雨だ、慈悲を願う気持ちが天に通じたとか言うんでしょう?」
「ゆーけれども」
「セッソーがないね」
アハハと笑い合う。
物事いい方向に考えた方が楽しいと言いたかったのに、何故かあたしの臨機応変さが褒められてしまったなー。
「じゃ皆、お面被って」
「「「了解!」」」
視野が狭いから歩きづらいな。
慣れりゃどうってことないか。
丘を降る。
「おっはよー」
「「うんばー!」」
近寄ってきた人に声をかける。
うんうん、この前と同じ人か違う人かわからんけど、お面のおかげか友好的だ。
ソロモコでは挨拶は皆『うんばー』なのかな?
「おめら?」
「うん。仮面被ってきたの」
何となく言ってることがわかる。
仮面とお面、何が違うのか知らんけど、ソロモコ人的にはどーも仮面らしいのだ。
「「!」」
「あれ、どーした?」
何なの?
あたしの顔(仮面)見たかと思ったら、二人とも走って集落へ行っちゃったぞ?
「やっぱ超絶美少女だから?」
「姐御、仮面被ってやすぜ?」
「じゃあ滲み出る超絶美少女オーラのせい? 仮面ごときでは隠しきれないあたしの美貌?」
「もうそういうのイイね」
「ダンテが冷たいなー」
いや、何だろうな?
仮面のせいとしか考えられないんだが。
「ちょっと不可解な反応でしたよね」
「仮面が気に障ったのかなあ?」
最初気安い雰囲気だったのに。
今の二人の仮面と似たデザインだとは思う。
でも目鼻の位置とかで微妙な意味があったりするのかもしれないしな?
「考えても仕方ないですぜ」
「ゴーアヘッドね」
「まーね。行こうか」
駆け去った二人の方へ歩いて進む。
「上見てよ。でっかい実がなってるよ」
「ココヤシですね。果肉は食べられますし、内部の水はおいしいという話です。また実の皮からはロープなどが作れるらしいですよ。幹は建築材や船材に、葉からは繊維が取れます」
「すごく使える植物だな。じゃあ栽培してるものかもしれないね。勝手に取っちゃダメか」
「ドーラで育てるのは難しいです。西域の温暖地なら枯れはしないでしょうけど、これほど大きくはならないと思います」
「温度が必要な植物なのか」
いろんなものがあって面白いな。
あ、大勢来たぞ?
敵意はないようだが。大きな杖を持った長老っぽい人が出てきて、あたしをじっと見る。
いやん。
「すごらおめら!」
「「「「「「「「ちぇけらー!」」」」」」」」
長老の声に、大勢の人々が一斉に平伏する。
何なん、一体。
このお面がすごいもので、それを被ってるあたしもすごいってことみたい。
あたしは雰囲気の読めない子じゃないから……。
「うんばー!」
「「「「「「「「うんばー!」」」」」」」」
おー、気分がいいな。
「お肉持ってきたから、皆で食べよう!」
「おにく?」
「火を用意して」
獣肉は知らないっぽいな。
知ってるのは魚か、せいぜい鳥くらいなんだろう。
ソロモコは島国だから。
焼いて塩振って葉っぱに乗せてと。
「いい匂いでしょ? どうぞ」
長老が食べる。
「びみら!」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
「おいしいでしょ? 皆も食べてね」
「「「「「「「「びみらー!」」」」」」」」
そうだろうそうだろう。
コブタ肉は誰が食べても美味いのだ。
「どんどん焼くぞー! あたし達も食べよう」
◇
「やー、美味かった! 潮風とお肉は合うなー」
ついノリで変な時間に御飯になっちゃったけどまーいーや。
何故ならお肉は正義だから。
大変満足だ。
ん? 長老どうしたの?
「すごらおめら」
「この仮面? あたし達の国に流れ着いたものらしいんだ」
「そろもこ、めくら」
「そーなの?」
何とソロモコ製の仮面だとのこと。
昔、海に流されたものであり、この仮面を身に着ける者はソロモコの危機に駆けつける救世主という言い伝えがあるんだとか。
「あたしは救世主だったか。ところでソロモコの危機って何?」
「とくらなきら」
「すごらしぷら!」
「船?」
今現在特に危機なんてないけれども、先日大きな船が沖に見えたとのこと。
……ひょっとしてあれか?
情報屋カラザの言っていた、帝国の港町タムポートにいたという二艦の軍艦。
ソロモコに偵察に来たのか?
「ふーん、ちょっときな臭いな。気にはなるけど、情報がない」
「どぐらまぐら?」
「ちょっとまだわかんないな。あたし達も調べとくから、あんた達も何かあったら教えてね」
「わから」
この件について皇宮で話を聞くのは危険か?
いや、皇宮は政治の場ではないってことだから、そもそも軍事行動の話は聞けないか。
情報屋が何か知ってるかも。
あるいはパラキアスさんが何か掴んでる可能性が高いか?
来た船がただの偵察で、何のことはないって可能性はもちろんある。
でも『アトラスの冒険者』の石板クエストになってる上、あたしが救世主ってフラグが立ってるからな?
「じゃ、あたし達帰るよ。お肉美味かったかーっ!」
「「「「「「「「おにくびみらー!」」」」」」」」
「また来るから、楽しみにしてくれよなー!」
「「「「「「「「うんばー!」」」」」」」」
転移の玉を起動し帰宅する。




