第962話:主人公はピンチに登場する補正
「サイナスさん、こんばんはー」
毎晩恒例のヴィルを介した通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日は大事件があったんだ。あたしとしては大活躍したつもりなのに、そういうこともあるんだろうとかあたしにしては大人しいだの言われたの。事件が地味なのはあたしのせいじゃないのに」
『いきなりまくし立てるじゃないか。しかも被害者面は珍しいな。何をやらかしたんだい?』
「やらかしてないとゆーのに。あたしは解決した側だとゆーのに」
『経過を聞かないと素直に信じられない。何があったんだい?』
実に失礼だな。
素直に信じろ。
「帝国のカレンシー皇妃、ドーラに来てる皇女リリーの母ちゃんね。の暗殺未遂事件があったの」
『大事じゃないか』
「サイナスさんもあまり驚いてくれないなー」
ま、これはフリが大き過ぎたから仕方ないか。
ドーラに関係のない事件ということもある。
「呪いをかけられてたんだ。『舞踏の呪い』ってやつ。あれってバアルがあたしにかけたのと同じ呪いだよね?」
「そうである」
『えっ?』
驚くポイントおかしくない?
「発狂して三日間もがき苦しんで死ぬんだって。今日三日目だったからヤバかった」
『ユーラシアが騒いでたから、またいつものエンタメかと思って油断してたよ。本当に結構な事件じゃないか』
「だからそー言ってるじゃん。実行犯の呪術師が言うには、あと五時間あったら皇妃様は確実に天に召されてたって」
『呪いは魔道結界で効果を遮断できないのか?』
「遮断はできぬであるが、効果の浸透を遅くはできるである」
「へー。あ、だから宮廷魔道士長が呼ばれてたんだな」
現場がバタバタしてたから、そこまで頭が回らなかったよ。
でも魔道結界の気配なんかなかったぞ?
「これから張るところではなかったであるか?」
「かもしれないな。あれ最初、呪いだなんてわかんないよねえ?」
『呪いとは未知の感覚ではないのか?』
「うーん、あたしにとっては未知の感覚だったな。身体が重くて何これと思った。何かの状態異常を疑ったから、クララに『キュア』かけてもらったら治った」
「吾が主のカンは尋常ではないのである。普通は病からくる体調不良だと考えるものなのである」
呪いだと判断するのが遅れ、ギリギリになるという寸法か。
嫌らしい呪いだな。
魔道結界を張れたとしても、少し延命できる時間が長くなるに過ぎなかっただろう。
「マジでヤバかったのか。この主人公はピンチに登場する補正、何とかなんないものかな? 物事には余裕を持って当たりたいんだけど」
『皇妃殿下にもクララの『キュア』をかけたんだな? しかし『キュア』は基本八状態異常にしか効かないだろう?』
「いや、クララの『キュア』は大体何にでも効くんだよ。理由はわかんないけど」
『精霊だからかもな。どうして気付いたんだ?』
「吾が主は常識外だからである」
「こらバアル。答えの間が良過ぎるだろ」
アハハと笑い合う。
「あとからヴィル呼んで呪いの負力の方向を突き止めてさ。犯人ふん捕まえてドーラに連行した」
『ちょっと待て』
あたしの流れるような説明に御不満が?
『犯人をドーラに連行したってどういうことだ? やらかしてるじゃないか』
「やらかしてないわ。帝国に無断で連れてきたわけじゃないわ。ちゃんと許可を得てるわ」
隙あらばあたしがやらかしたことにするのやめろ。
美少女精霊使いは清廉潔白だわ。
「呪術のテクニックはすごいんだよ。そいつの作った魔物除けの効果は高くて、宮廷魔道士長やピンクマンも感心してたくらい。ドーラで活躍してもらった方が得でしょ?」
『君が実行犯の呪術師を欲しがる理屈はわかったが、よく帝国が許したな?』
「その辺はどうにでも」
『またトリッキーな理屈で言いくるめたのか。ユーラシアの悪魔的説得力は恐ろしいな』
「吾が主は常識外だからである」
もうちょっと景気よく笑ってよ。
『黒の民の村へ連れていったのか?』
「よくわかったね。その呪術師もドクロ好きでさ、黒の民にすげえ歓迎されてんの。すぐ馴染みそうな気配だったけど、サイナスさんも一応注意しててよ」
『わかった』
仮に黒の民と折り合いが悪くなったって、ドーラは広いのだ。
どこでもやり直せる。
「問題は皇妃様呪殺未遂事件の黒幕がわかんないことなんだよね」
『考えられるとすれば皇帝側室の嫉妬、皇妃の影響力を排除しようとした皇位継承権保持者の画策、個人的な怨恨くらいか』
「太陽が眩しかったからかもしれないし」
『何だそれ?』
穿った見方をすれば、こういう事件を起こすことにより誰かに疑いの目が向くようにしたとも考えられるしな?
決めつけはよろしくないのかも。
「まーあたしは外野だから、これ以上関わるのは違うかなって思ってる」
大体重要ポイントである人間関係を知らんもん。
『エンターテインメント感覚で首突っ込むのは不謹慎だしな』
「不謹慎かなあ?」
『ところで問題の呪いは、対象までの距離が重要なのかい』
「距離? バアル、どうなの?」
サイナスさんは変なとこに興味持つなあ。
「距離、触媒アイテム、対象者関連の品、魔法陣の正確さが重要である。吾のようなワープの使い手は、距離についてはほぼ無視できるである」
「あんたゼロ距離であたしを呪ってたんかい! しかもあんなにデカい水晶ドクロを触媒に使って!」
『あれ、ユーラシアは過去のことには拘らないんじゃなかったのかい?』
「拘らないけれども。損得が関わる時以外は」
「吾が主は寛容である」
何も言えなくなったじゃないか。
まったくバアルも知恵をつけて。
「この事件について、行政府とリリーには連絡したんだ。明後日リリーと見舞いに行ってくる。その頃には皇妃様も目を覚ましてると思うし」
『行ってらっしゃい。今日帰ってきた輸送隊から、画集の売り上げが届いているよ。時間のある時にでも来てくれ』
「おゼゼか。ヴィルに持ってきてもらってもいいけど、自分で手にした方が実感ありそうだなあ」
『ユーラシアのそういうところは普通だな』
「超絶美少女に共通だぞ。溢れ出るおゼゼへの愛」
笑い。
眠くなってきた。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日はソロモコ行き。
お面? 仮面? の効果を実証できるぞ。




