第960話:黒の民に預かってもらった
「あのレイノスという町はかなりの規模のようだが?」
イシュトバーンさんを送ったあと、グロちゃんを連れて黒の民の村へ行く。
「人口五万人くらいかな。レイノスにはドーラの人口の半分くらいが住んでるんだよ」
「ふむ? ドーラとはもっと大きい国だと思っていた」
「ドーラ大陸の面積は広いけどねえ。ノーマル人が住んでいるのは南の方のごく一部だけなんだよ。魔物も多いし、人口は帝国の一〇〇分の一もいないんじゃないかな」
どうも帝国人の中でドーラの扱いは大きいんだか小さいんだかわからない。
あちこちで話聞いてる限り、数ある帝国の植民地の中で一般大衆の中での知名度は高い方だろうと思う。
おそらく独立後も有名は有名。
だけど帝国政府は、大使であるプリンスルキウスに仕事させまいと考えてドーラに送ったみたいだしな?
「でも移民も増えているんだろう?」
「人口を増やして食糧増産して経済規模大きくしてさ。ドーラをいい国にしたいんだ。あんたも協力してよ」
「うむ、もちろんだ」
今日は灰の民の村に用がないので、荒れてはいるが直接緩衝地帯へ繋がる道を通る。
移民が多くなってきたら、いずれこの道も整備しなきゃいかんなあ。
「……君は、どういう人なんだ?」
「ただの超絶美少女だけど?」
「いや、それは見ればわかるが」
「おお、グロちゃんなかなかやるね」
見る目があるのは大事なことだね。
うんうん。
「ドーラ政府の構成員ではないんだろう?」
「うん、違う。給料もらってないし」
「だとしたら、あの影響力はどうしたことだ?」
「何かあたしの言うことは聞いてくれるんだよ。超絶美少女は得だねえ」
考えに沈むグロちゃん。
「……本来、俺が収監・処刑を免れドーラへ来るなんて、ムリ筋だったはずだ。どうして自分がこうなっているのか、今でもわけがわからない」
「グロちゃんを欲しかったのはあたしの都合だぞ? ドーラ政府は関係ないけどな」
「わからないのはその都合というやつだ。ウルピウス皇子はじめ皇宮のお偉方を言いくるめた理屈は、あの場では名案だと信じさせる説得力があった」
「細かく考えりゃ粗もあるんだけどさ。皆にとってメリットがあったよ。世の中大体損得で動いてるからね」
損得じゃなくて意味不明な衝動で流されちゃうこともあるんだが。
あたし自身が信じられていなかったなら、グロちゃんをドーラになんて提案は通らない。
皇妃様の呪いをすぐ解く機会があったのは幸運だった。
「今から行く黒の民の村も、ほんの数ヶ月前まで閉鎖的な村だったんだよ。すげー陰険なやつらが住んでるところだと思ってたけど、話してみると普通の人達でさ。でもドクロ好きのセンスだけはわからんなー」
「裏町にもドクロ好きはいなかった」
「マジか。帝国みたいに人口多ければ一定の需要はあるかと思ってたけど、ドクログッズはいくら作っても売れないってことか」
「別にいいじゃないか、売れなくても」
「何を言ってるんだ! 趣味と商売を一緒くたにしちゃいかんよ。アバウトなことしてるから、おゼゼに困って胡散臭い話に引っかかるんだぞ?」
「う? うむ」
「黒の民にも理解させないといかんなー」
緩衝地帯に到着。
「ここはさっきのレイノスから大体強歩一日弱くらい東北の位置なんだ。赤の民とか青の民とか色名の付いた村が七つあって、それぞれ個性とか得意分野が全く違うの」
「黒の民もその内の一つか」
「全村ひっくるめて『カラーズ』って呼ばれてる。お互い仲悪かったんだけどさ、今ではこうして交流するようになったんだよ」
「それもここ数ヶ月の話なのか?」
「うん」
本当にカラーズは変わった。
移民の来る開拓地まで含めて、アルハーン平原はまだまだ変わるけどね。
黒の民のショップへ。
「こんにちはー」
「ユーラシアじゃないか。そちらは?」
「ピンクマンがいたのはラッキーだったよ。彼はねえ、今朝起きた帝国の皇妃様呪殺未遂事件の実行犯だよ」
「……まあユーラシアが関わる事件ならばな」
「ビックリしてくれないとつまらんなー」
誰も驚きゃしねえ。
大体皇妃呪殺未遂事件ってのが、大仰な割に何も起こってないじゃんって話だ。
もっとド派手なエンターテインメントを提供してやらないと。
こらグロちゃん、ソワソワするんじゃないよ。
あ、ドクログッズ見てるのか。
ピンクマンにグロちゃんの魔物除けの札を見せる。
「どう思う?」
「ほう、素晴らしいな。これは彼が作ったものなのか?」
「帝国の宮廷魔道士長も興奮するくらいの出来なんだよ。処刑されちゃうともったいないじゃん? だから連れてきた」
「どうして簡単にドーラに連れてこられるのかはわからんが、要するに例の悪魔的説得力を行使したということだな?」
「悪魔的かはさておき、十分納得してもらった。呪術の才能に目をつけられて巻き込まれたけど、悪いやつじゃないんだよ。黒の民の村に置いてもらえないかな?」
「小生の一存ではどうにもならんが。お、来たな」
サフランと族長のクロードさん、だろう。
いやだから黒の民は皆黒フードだから、見分けつかないんだってばよ。
「精霊使いではないか」
「ユーラシアさん、こんにちは」
「こんにちはー。今ピンクマンにも説明したんだけどさ……」
かくかくしかじか。
「……とゆーわけなんだ。グロちゃんは『スカルラバー』の異名を取るくらいドクロ好きだからさ。黒の民にも受け入れてもらえるかと思って……」
「ドクロ好きに悪い人はいません!」
「まことにその通り!」
「黒の民の村が責任をもって預かろう!」
「おおう」
食い気味に断言されたぞ?
黒の民の人物判定基準はどーなってんだ?
ドクログッズを熱心に見つめ続けるグロちゃんが言う。
「……愛情と熱意に満ちた渾身の意匠だ。これ以上言葉では言い表せないほど素晴らしい」
「おお、わかってくれるか!」
「同志よ!」
大歓迎じゃねーか。
よかったけれども。
「じゃ、よろしくね。さっきも言ったような事情だから、グロちゃん身一つで来ちゃったけど」
「ドクロ好きならば一向に構わん」
「お土産のお肉があるよ。皆で食べてね」
「これはすまんな……え、どれだけ入ってるんだ、その背負子?」
無限に入るんだってばよ。
グロちゃんの処遇がすんなり決まって喜ばしい。
お肉を置いて、転移の玉を起動し帰宅する。




