第959話:これが精霊使いの考え方
「皇妃殿下が無事であるならいいとしよう。ユーラシアが皇宮で新たに知り合いになったのは誰だ?」
パラキアスさん特有のぶっきらぼうとも思える言い方だ。
カレンシー皇妃の安否が周りに与える影響については興味があっても、安否自体にはほとんど関心がないんだろう。
ドライだなあ。
「大きいのはリリーの同腹の兄ちゃんウルピウス殿下と、ドルゴス宮廷魔道士長かな」
「おう、そうだ。さっき聞き損なったが、あんたウルピウス皇子殿下にプロポーズされたそうじゃねえか。話せよ」
「「「「「「!」」」」」」
皆驚いてるけど。
あたしが可愛いから関心があるのかしらん?
「あたしがモテるのはいつものことじゃん。あんまり面白い話じゃないよ」
「待った、呪術師よ。あんたも現場にいたんだろう? あんた話してくれよ。客観的な情報が聞きてえ」
視線がグロちゃんに集まる。
思ったよりも皆が前のめり気味だな。
何故皇妃様呪殺未遂事件の実行犯の発言が、あたしのゆーことより信用が置けると考えるのか?
全くわけがわからん。
「……仕掛けた呪いに関する尋問とその後の俺の処遇について、一応の決着がついたあとだった。ウルピウス皇子殿下が精霊使いにいくつか質問をしたんだ。『アトラスの冒険者』や悪魔についてなど」
「ほうほう」
「皇子の『アトラスの冒険者』とは、皆、君のような存在なのか? という質問に対して、あたしは特別可愛いって言われてるけどって答えていたのは印象的だった」
「ハハッ、精霊使いらしいじゃねえか」
「最後、本当に唐突だった。ウルピウス殿下がいきなり、気に入った。予の妃にならんか? と。人の心を読めるという噂の賢者リモネスが、あんな表情を見せることがあるんだと、素直に驚いた」
「うんうん。で、こいつの答えは?」
何だよ、皆すげえ食いついてんじゃねーか。
嫉妬するわ。
陰気な呪術師じゃなくて、あたしに注目するべきだろーが。
「殿下の真っ直ぐな物言いは嫌いじゃないよ。もうちょっと経験積んでいい男になったら惚れちゃうかもなー、って」
パラキアスさんが言う。
「パーフェクトだ」
「パーフェクトだったかー。さすがあたし」
アハハと笑い合い、プリンスルキウスが言う。
「で、どうするんだい?」
「えっ? どうするとは?」
「我が弟ながら、ウルピウスは見る目があって誠実で果断だよ。ウルピウスは多分本気だ。悪い話じゃないと思う」
「あんた玉の輿には興味ねえんだろ? どうすんだ?」
皇妃殿下の暗殺未遂とは全然関係ない、あたし個人の話じゃないか。
何でプライベートを聞きたいのか。
下世話なやつらだなもー。
「先のことはわかんないなー。ウルピウス殿下がドーラ人になってくれるかも不明だし」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
皆は何に衝撃受けてるのよ?
イシュトバーンさんが聞いてくる。
「……あんたは自分が帝国に行くって考えはねえのか?」
「ないなあ。何であたしが譲らなきゃいけないのよ? あたしはドーラをいい国にしたいの。あたしがウ殿下のところへ嫁に行くなら、ウ殿下はドーラに来るべきじゃん。それでこそ対等でしょ」
プリンスとオルムスさんがゆっくり頷く。
「……これが精霊使いの考え方か」
「なるほど、想定外だ」
意表を突いたったらしいぞ?
何に驚いたかあたしには理解できんけれども。
「もう一つわからねえことがある。さっき新聞記者に絡まれた時、皇妃暗殺未遂事件について話したろ。何故だ?」
「俺もあれは疑問だった。話さねばならない事情はなかったはずだ」
イシュトバーンさんとグロちゃんは、ネタ提供の理由が聞きたいのか。
大した意味はないんだが。
「怪しい人物って受け入れにくいじゃん? でもグロちゃんは暗殺未遂事件の犯人だけど悪いやつじゃないよってぶっちゃけとけば、それ以上の裏はないし」
「ぶっちゃけ過ぎだろ」
皆が笑う。
皇妃様が何たらなんてのはドーラに直接関係ないことだ。
ドーラにとって得なことをすべきだ。
「ドーラは移民の国、幅広い人材を受け入れてるってアピールになるよ。それから……」
「それから?」
パラキアスさんの目が輝いてきた。
あ、気付いてるっぽいな。
悪いやつめ。
「帝国がどこまでドーラの動向をチェックしてるか知らんけど、ひょっとしてこの新聞記事を読んだらアプローチしてくるかもしれないじゃん? 件の呪術師を引き渡せーって」
「あり得なくはないな」
「被害者の皇妃様サイドは丸め込んできたから、もしアプローチしてくるのがいたらこの事件の加害者サイドだよ。オルムスさんはからかって追い返して」
「からかって、とは?」
「イビルドラゴン相手に魔物除けの実験をしてるようですから魔境に行かれてみては、とか、呪術師の村に潜伏してますが油断してると呪われるので気をつけてくださいとか?」
アレンジは色々考えられるなあ。
あたしもからかう役やってみたくなってきた。
「ハハッ、婉曲に断ればいいんだね。任せてもらおう」
「で、パラキアスさんはそいつの尻尾掴んで」
「了解だ」
パラキアスさんと視線が交差する。
セウェルス第三皇子が黒幕というリークはブラフだろう。
しかし皇子の内の誰かが糸を引いている可能性は高い。
……もし圧力をかければドーラなんかすぐ頭下げる、などと甘く見てすっとぼけた要求してくるようだったら、次期皇帝レースから脱落させてくれる。
「もっともそんなアプローチは、まずないだろうけどな」
「まあねえ。こんな方法に引っかかってくる間抜けだったら、あたしも楽しくて仕方がないけど」
行政府にこの話をしに来たのは、グロちゃんの身をドーラで守るという確認を取っときたかっただけだ。
イシュトバーンさんが笑う。
「あんたら似た者同士だな」
失敬だな。
あたしはパラキアスさんほど悪いやつじゃない。
「あたしからの報告はお終いでーす」
「うん、ありがとう。面白かったよ」
「エンターテイナー冥利に尽きるなー。あ、そーだ。数日中にリモネスのおっちゃんをドーラに連れてくることになりそうなの。こっちの聖火教徒の様子を知りたいみたいで。行政府へも来ていいかな?」
「皇帝陛下の相談役だという賢者リモネスだな? もちろん構わない」
「じゃ、日が決まったら連絡するね。さよーならー」
「また来てくれよ」
一旦転移の玉を起動し帰宅する。




