第958話:エンタメ寄りだから
「ウルトラチャーミングビューティーユーラシアと他二名が遊びに来ましたよって、プリンスルキウスに伝えてくれる?」
「はい、こちらへどうぞ」
受付のお姉さんに案内されて二階へ。
「お、おい。こんなに簡単に通してもらえるのか?」
「最近すぐ通してくれるんだよね。ドーラはゆるいよねえ」
「あんたがやってることはつくづくエンタメ寄りだから、どこでもウェルカムなんだぜ」
「エンタメはどこまでも正義だなー」
だから笑えよ、帝国人呪術師。
不安になるだろーが。
「あっ、パラキアスさんオルムスさん!」
「やあ、御機嫌だね」
「わかる? 帝国皇宮でちょっと進展があったんだ」
「ん? 何か事件を起こしたのかい?」
「違うってば」
どーしてあたしは危険物扱いなんだろーか?
今日のあたしは解決した側だわ。
大体いつも秩序を重んじる側だわ。
「事件起こした人を連れてきたよ。カレンシー皇妃暗殺未遂事件実行犯の呪術師グロチウスでーす!」
「「えっ!」」
「ど、どうも」
少し照れてるグロちゃん。
そんな間抜けな挨拶もないけれども。
「ユーラシア。どうして重大な犯罪者がドーラにいるんだ?」
「ちょっと事情があるんだよ。パラキアスさんオルムスさんにも知っててもらいたいことなんだ。暇だったら来てくれない?」
「決して暇ではないが行こう」
「エンタメ寄りだからだぜ」
何故か得意げなイシュトバーンさん。
マジでエンタメだからみたいだな。
大使室へ。
「こんにちはー」
「やあ、いらっしゃい」
「ほ、本当にルキウス皇子だ……」
「ん? そちらは誰だったかな?」
「カレンシー皇妃暗殺未遂事件の実行犯の呪術師だよ」
「「「「えっ!」」」」
他人の意表を突くのは実に気分がいいもんだ。
しかし帝国の皇族は一般市民によく顔を知られているんだなあ。
以前帝国の山の中で会った兵士達も、リリーが太眉だって知ってたしな?
市民の前に姿を現す機会が多いのかしらん?
クリークさんが言う。
「先日の話か? 市井の呪術師が皇宮に呼ばれたという?」
「そうそう。グロちゃんったら三〇万ゴールドに目がくらんで、皇宮にある塔のてっぺんから皇妃様を呪ってんの」
「断れる状況じゃなかったんだよ!」
んなこたあわかってるけど、皇宮から依頼が来たからってノコノコついてくからだ。
浮かれてるんじゃないよ。
「カレンシー様の御様子はどうだ?」
「あたしの見たとこ問題なさそう。あばら骨折ってて、他にも傷がたくさんあったけど、皆治してきたよ。ただかなり疲労してたから、今日明日くらいは爆睡だと思う」
「こいつ体内の魔力の流れが見えるんだと。健康不健康の見立ては確かだぜ」
「ふむ、まずは心配ないと」
ホッと胸を撫で下ろす面々。
プリンスが言う。
「最初から状況を説明してくれ」
今朝皇宮へ遊びに行ったらいきなり皇妃が呪われていると告げられたこと。
クララの魔法で呪いを解いたこと。
ヴィルに案内させ、犯人グロちゃんを捕まえたことなどなど。
「大活躍じゃないか」
「大活躍だったよ。でも金一封は出なかったな。どーしてだ?」
大笑い。
おお、今度はグロちゃん笑ったじゃないか。
「何日後か様子が落ち着いた頃を見計らって、様子見てこようかなと思ってるんだ。リリーと一緒に」
「うん、それがいい。リリーにも事件について伝えるのかい?」
「あとで塔の村行って教えてくるつもり」
「皇妃殿下にくれぐれもお身体を大切になさるよう、よろしく伝えておいてくれ」
「りょーかいでーす」
呪術師グロちゃんがリリー? って顔してるけど、皇女リリーもドーラにいるんだってばよ。
まだ険しい表情のパラキアスさんが言う。
「この呪術師をドーラに連れてきたのは何故だ?」
「グロちゃんの呪術の腕は大したもんなんだ。帝国の宮廷魔道士長が感心してたくらい。となるとドーラにとって有用でしょ? 魔物除けの札を生産してもらってもいいし、黒の民の呪術グッズを手伝ってもらってもいいし。欲しくなっちゃったから譲ってもらった」
「どうやって? 普通に考えて処刑される運命だろう?」
「言いくるめて?」
心を読めるリモネスのおっちゃんがいるのに呪殺を仕掛けてくるとは、かなり綿密な計画なんじゃないか?
となると獄死にしろ処刑にしろ、捜査で黒幕のところまで辿りつける可能性は極小と考えるべき。
ならば表立った騒ぎにせず、かつ実行犯に恩を着せ生かしておくことによって、相手に無形無言のプレッシャーを与え続ける作戦がどうのこうの。
イシュトバーンさんとパラキアスさんが頷きながら言う。
「納得させたのかよ? 曲芸じみた理屈だな。たまげたもんだぜ」
「まったくだ。悪魔の親分に相応しい」
「ねえ、それ褒めてくれてるんだよね?」
「もちろんだ」
パラキアスさんの断言は信用できないんだが。
何せ悪いやつだから。
「ではカラーズ黒の民の村に預けるのだな?」
「受け入れてもらえるなら、黒の民の村が一番いいなーって思ってる」
黒の民も他所者に対して寛容とは言えないけど、グロちゃんとは気が合うんじゃないかな。
グロちゃんが控えめに質問してくる。
「カラーズ黒の民の村というのは?」
「呪術師ばっかりの村だよ。メインモチーフがドクロでさ、あちこちにドクロが飾られてんの」
「素晴らしい村だ! そんな天国みたいなところが存在するんだな」
「地獄みたいの間違いだろ」
アハハと笑い合う。
まったくドクロ好きのフィーリングはよくわからないけれども。
オルムスさんが言う。
「随分と信頼されたものだね。ユーラシア君は皇妃様の寝室に通されたのかい?」
「あ、どうなんだろ? 侍女は何人かいたけど、寝室なのか病室なのかはわかんないな」
「ハハッ、皇妃様と顔馴染みになれたのは良かったじゃないか」
「顔馴染みにはなれてないんだよ。皇妃様ちゃんとした意識じゃなかったし、呪い解けたあとは気絶したように寝ちゃったし」
「えっ? かなり危ない状態だったのかい?」
呪い三日目って言ってたから、危ないは危なかったんだろうけど?
グロちゃんがポツリと言う。
「呪いは成就間近だった。五時間遅ければ、皇妃様は確実に天に召されていただろう」
「ヤバかったなー」
「君の話し方だと、全然ヤバさが伝わらないんだよ!」
「エンタメ寄りだからだぜ」
だからどーしてイシュトバーンさんが得意げなんだよ。




