第956話:最高のエンターテインメントの基準
「アトムダンテ、お肉だよー」
近衛兵詰め所からお土産に焼いたお肉をもらって帰ってきた。
お昼に食べてちょうだい。
「ここがドーラか」
周りを見渡してた呪術師グロちゃんがしみじみと言った。
「いいところでしょ?」
「田舎だな」
「まあねえ」
帝都メルエルから見りゃ何にもないところだが。
しかしこれからの国と言い換えることもできる。
もっと言い換えると、あたしのやりたい放題にできる国だ。
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「まず、今からドーラの行政府行くよ」
「行政府? 政府機関か?」
「そうそう。相手の政治力によっては、あんたの身柄引き渡せーみたいなこと言ってくるかもしれないじゃん? するっとすり抜ける根回ししとかないと」
「な、何か悪いな」
「気にしなくていいぞ? あんたはあたしがもらったんだ。横取りされたら腹が立つから、先に手を打っとくだけだからね」
露骨に引くな。
敵も多分そんなアホウなことしてこないけどな。
皇宮でこんなことがありましたってゆー報告がてら、行政府に御機嫌伺いに行くだけだ。
「君は……一国の政府までコネが利くのか?」
「あたしはねえ、ドーラをいい国にしたいんだよ」
答えになってなかったか?
雰囲気だよこんなもんは。
「俺を手助けするのは何故だ?」
「優秀な人がドーラに来てくれるのは嬉しいんだなー」
「ゆ、優秀?」
「いい国にするためには人材が必要だからね」
クネクネすんな。
褒められ慣れてないやつはこれだから。
もっともグロちゃんが大したことないやつだったら、興味を持てなかったってのは本当だけどな。
「ところであんた、ドクロは好き?」
水晶ドクロを見つめる目から愛情とゆーか執着とゆーかを感じたのだが。
「フフン、俺はとある名付け屋に『スカルラバー』の異名をもらったくらいだ」
「裏町のひゃい子にだよね? あたしも『ウルトラチャーミングビューティー』って二つ名をつけてもらったんだ」
「ダセえ!」
「何だとお!」
ドクロ好きとは感性が合わねー!
まーでも黒の民とは相性が良さそう。
「あんたのことは情報屋のカラザに聞いたんだ。心配してたぞ」
「……ああ」
「ただ困ったな。あんたの消息を裏町に伝えるとさ。向こうの人達を危険に晒しそうなんだよ」
グロちゃんが消えて、黒幕どもが泡食って真っ先に探そうとするのは裏町だろうからな。
裏町の人達は何も知らない方がよさそう。
「機会があったら、情報屋だけには軽く伝えとくことにするよ」
「ああ、充分だ」
行くか。
うちの子達に声をかける。
「行政府とカラーズ行ってくる。夜は塔の村で食べよう」
「「「了解!」」」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
グロちゃんを伴い、レイノスのイシュトバーンさん家にやって来た。
「こんにちはー」
「これは精霊使い殿。よく来てくだされた。そちらの方は?」
「彼はねえ、帝国の皇妃様暗殺未遂事件の実行犯だよ」
「ハハハ、また愉快な事件ですな? 旦那様を呼んでまいりますので、しばらくお待ちくだされ」
グロちゃんが目を白黒させながら言う。
「お、おい。冗談だと思われてるのか?」
「いや、ここの警備員は訓練されてるから、少々のことじゃ驚いてくれないんだよね」
まったく何てことだ。
要求されるどぎつさレベルが高みに上ってしまう。
あたしももっと芸風を磨くために精進せねばならないな。
あ、イシュトバーンさん飛んできた。
「例の呪術師だな?」
「例の呪術師だよ。ターゲットはリリーの母ちゃんだった」
「皇妃様かよ。となると、次期皇帝を巡る陰謀か?」
「多分ね」
「お、おい。どういうことなんだ?」
わからんだろうからグロちゃんに説明する。
「帝都裏町の変人呪術師が皇宮に呼ばれた。何故か姿を消したってことは情報屋に聞いて知ってたんだってば」
「そこまでは理解できるが」
「どうせ呪殺の依頼に決まってるじゃん?」
「お、俺ですら、皇宮に連れ込まれて詳しい話を聞くまで気付かなかったぞ?」
「ぬるいなー。しかるべきアイテムがあれば人を呪殺できる、なんてほざいてる裏町の人間に皇宮から依頼があったら、どんな内容かくらい火を見るより明らかだわ」
「あ、明らかなのか」
ガッカリしなくていいぞ?
もう終わったことだし、日陰の身の呪術師が頼られて舞い上がっちゃった気持ちもわからなくはないから。
「呪殺なんてことを企みそーなのは誰か、標的になりそうなのは誰かって相談してたんだよ」
「この爺さんにか?」
「イシュトバーンさんもそうだけど、プリンスルキウスに」
「えっ!」
驚愕するグロちゃん。
「ルキウス皇子? ドーラ人の君と面識あるのか?」
「どーも帝国の人はあんまり知らないみたいなんだけど、プリンスは在ドーラ大使として先月から着任してるんだよ。友達なんだ」
「友達って……」
イシュトバーンさんがニヤニヤしながら言う。
「おう、呪術師。この精霊使いを常識で判断しようったってムダだぜ。あんたが捕まったのだって、どうせデタラメな方法だったんだろ?」
「塔のてっぺんにいたはずなのに、いきなり窓から踏み込まれて……」
「……あんたにしちゃ、やってることが大人しいな?」
「どーしてあたしに対する要求は厳しいのかな? ハードルが高いんだけど」
「ウルトラチャーミングビューティーは、最高のエンターテインメントを提供してくれると信じているからだぜ」
「おおう、期待されちゃってたかー」
こら、グロちゃん。
今のは笑うところだぞ?
帝国人は笑いのツボが違うのかな?
「で、皇妃殿下の容態は?」
「いや、危なかったんだよ。今はもう大丈夫だけど。あの呪いって発狂して三日で死ぬってやつ?」
「ああ、『舞踏の呪い』だ。今日が三日目だった」
「名前だけは聞いたことがある。が、実際に使えるやつがいるとはな。あんたは儀式の現場に踏み込んで術を破ったのか?」
「違くて。あたしバアルに同じ呪い食らったことがあるんだよ。その時クララの『キュア』で治ったから、皇妃様にもかけたの」
「ほう?」
「ば、バカな。治癒魔法で反呪されるとは……」
やっぱうちのクララの『キュア』は特別らしい。
「ハハッ、大体事情はわかったぜ。行政府へ行くんだな?」
「行く。プリンスも結末を聞きたいだろうからさ」
「そんな理由で……」
「エンターテインメントだぞ?」
行政府へしゅっぱーつ。




