第955話:さらに悩め、もっと困れ
皆が活気づく。
「敵の企てを逆手に取るんだな?」
「そゆこと。相手に見えてない部分が多けりゃ気味が悪いと思うよ。少なくともこれ以上の動きは止められるんじゃないの? 皇妃様はまず安全」
「名案ですぞ!」
よーし、実行犯の呪術師をもらえそうな雰囲気になってきた。
優秀な人材を手に入れると嬉しいなー。
「魔道士長さんも、これほどの才能の持ち主が殺されちゃうのは、もったいないと思うよねえ?」
「うむ、確かに」
「ドーラは魔物があっちこっちにいるから、よく効く魔物除けを作れる人がいると、すごくありがたいんだ。ウィンウィンだね」
呪術グッズの工房に入ってもらって、生産力を上げた方が嬉しいか?
黒の民の村に連れてってみよーっと。
ウルピウス殿下が断じる。
「では君にこやつを任せる」
「ありがとう! じゃあもらってくね。で、ここから先が大事だよ。もし誰かに呪術師どうしたって言われたら、秘密にする必要ないから素直に話しちゃって」
「素直、とは?」
「ドーラ人のあたしが連れ去った。高度な呪術の研究をさせている。元の依頼者を恨んでおり、皇妃様の下へはいつでも馳せ参じることができる、で」
口止めしてたら、侍女が捕まって全てを吐かせられるなんてありそう。
ならば口止めせず、聞けばさらに悩むような答えを用意しとけばよろしい。
「向こうが打ちそーな手に対応して、もっと困らせてやりゃいいよ。黒幕はいよいよ何もできなくなるから」
「なるほど、面白い」
「ハハハ、精霊使い殿は人が悪いですな」
そーいえばいい人ってあんまり言われたことないな。
殿下が聞いてくる。
「君は……何なんだ?」
「あたしは『アトラスの冒険者』だよ」
『地図の石板』と転送魔法陣、与えられるクエスト、おいしいお肉がどうたらこうたら。
「……転送魔法陣。ふうむ、ドーラからメルエルへすぐに来られるということか」
「うん。それでリモネスのおっちゃんや近衛兵の皆に仲良くしてもらってたの」
「リモネス、間違いはないんだな?」
「ありませぬ」
断言。
リモネスさんの発言は重いみたいだな。
誰も疑おうとしない。
「いくつか質問がある。よいか?」
「どーぞどーぞ」
「その悪魔は何だ?」
「うちの連絡係と偵察係を受け持ってる高位魔族ヴィルだよ。クエストで知り合って仲間にしたんだ。普通の悪魔みたいな嫌がらせしない、とってもいい子」
「よろしくお願いしますぬ!」
「悪魔を嫌う聖火教徒のリモネスが平然としてるのは何故だ?」
あ、鋭いな。
リモネスさんと知り合った件から話すと拗れそうだ。
まだ今の段階で飛空艇がなんちゃらみたいな話はしたくないし……。
「おっちゃんくらいの固有能力持ちになると、見ただけでヴィルがどんな子かわかるでしょ。危険のない悪魔と判断したんじゃないの?」
「ふうむ」
誤魔化したった。
事実ではあるが真実とは遠い。
リモネスさんの存在感は重く、その持ち固有能力『サトリ』についてはよく知られていると見た。
ならばこーゆー理由は通るだろ。
リモネスさんがおかしそうな顔してら。
「『アトラスの冒険者』とは、ドーラのものなのか?」
「いや、昔は帝国本土出身の人もいたって。でも今はドーラ人だけだよ。帝国では一般人の武器所持が禁止されたから、いなくなったんじゃないかという説は聞いたことがある。本当かどうかは知らない」
「『アトラスの冒険者』とは、皆、君のような存在なのか?」
「あたしは特別可愛いって言われてるけど」
皆が笑う。
何故に?
ただの事実なのに理不尽だな。
「あー君はかなりの高レベルなんだろう?」
「レベルについてはメチャクチャだのデタラメだのってよく言われる。あたしは仕事に精出してるだけなのになー」
だから笑うなとゆーに。
「君は今日、何しにここへ来たんだ? 母上の危機に間に合ったのは偶然か?」
「あたしはドーラを発展させたいんだよね。となると帝国との関係が重要になるじゃん?」
「道理だな」
「あたしほど帝都とドーラを行ったり来たりできる者はいないから、帝都で人脈を築いたり街を知ったりしたいんだよ。今日は近衛兵の皆さんと食べようと思って、お肉持って遊びに来たんだ。皇妃様の危ないところに居合わせたのは偶然だけど、あたしは『ゴールデンラッキー』っていう、運がやたらといい固有能力持ちなの。完全な偶然じゃないのかもしれない」
運がいいとトラブルに遭遇しやすいのかもしれないしな?
大きく頷くウルピウス殿下。
「気に入った。予の妃にならんか?」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
全員のビックリした顔。
リモネスさんも驚いてやがる。
殿下やるなあ。
「殿下の真っ直ぐな物言いは嫌いじゃないよ。もうちょっと経験積んでいい男になったら惚れちゃうかもなー」
「ハハッ、そうか」
爽やかな笑顔だね。
頑張ってください。
「じゃ、あたし達は帰るね」
「では、また会おう」
「バイバイぬ!」
皆と別れ、転移の玉を……。
「お肉食べに来たんだった。忘れるところだったわ」
「では近衛兵詰め所の方へ」
近衛兵長さんは後処理があるようだ。
詰め所への道々、リモネスさんと話しながら行く。
「鮮やかなお手並みでしたぞ」
「あたしは褒められれば褒められるほど実力を発揮しちゃうなー」
アハハと笑い合う。
「ところでグロちゃんがいかがわしいことしてたあの塔だけど」
「グロちゃんて。いかがわしいことて!」
グロチウス=グロちゃんでいいだろが。
いかがわしいことはズバリその通りだろーが。
「ふむ、皇族ならばどなたでも使用許可は出せますが」
「おっちゃん、先回りしてくるなー。で?」
「わからないですな」
誰が使用させたのかまでは知る術がない、か。
まあ仕方ない。
「おっちゃん、ドーラの聖火教徒の様子見に来るつもりない?」
真っ直ぐリモネスさんの目を見つめる。
いざという時の逃げ道にドーラはどうだ、という考えは伝わってるだろ。
えっちな能力持ちだから。
「お願いしてよろしいですかな?」
「じゃ、近い内に連れていくよ」
即答だぞ?
あたしが考えてるより、リモネスさんの身は危ういのか?
「して、バアルのことですが」
「うん、どう?」
「ヴォルフ近衛兵長ともども、話を聞かせてくだされ」
「わかった。バアルのことも次回以降ね」
さて、詰め所に着いた。
「お肉だぞー!」




