第945話:研究者肌の人は変なやつが多い
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食をいただいたあと、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「サイナスさんの声は和む」
『その褒め言葉は形にならないぞ?』
「冷たい言い草も和むねえ」
『……ちょっと形にしたくなった気がする』
「まあこの辺で勘弁しといてやるけれども」
アハハと笑い合う。
何の勘弁だ。
『今日の輸送隊で、画集が出荷されてるぞ』
「何部出たか聞いてる?」
『七〇〇部ということだった』
時間もなかったのに割と頑張ったな。
結構気合入れて刷ってくれてるらしい。
でも寝不足で事故起こしたりしてくれるなよ。
「次回の出荷でドーラ分の残り全部、一三〇〇部は出せそうだねえ」
『いい傾向だな。追加の発注は受けてるのかい?』
「いや、あたしは聞いてないな。輸送隊がレイノスに着くと、何か言われてくると思う。追加じゃないけど、帝国の商人から二万部注文もらったよ」
『二万部? それはすごい!』
「帝国の商人さんは思い切りがいいよねえ。プリンスの信頼する商人だってことだったからさ、画集はその人を通してでしか売らないことにした」
『ははあ、仕掛けてるな。しかし……』
何か不審なことでも?
『それ今日の出来事なのか? 行政府へ行った一昨日でなく』
「ごめん、一昨日言い忘れた」
『何だ。教えといてくれれば、二万部注文が入ると緑の民に伝えたのに』
「まあねえ」
一昨日伝えようが今日伝えようが、帝国に輸出する分まで手が回らないことはわかってるから、優先順位が低かったのだ。
一昨日は水魔法スクロールについての方が重要だった。
「明日カラーズへ行くから、緑の民には輸出の件言っとくね」
『ああ、仮面ができ上がるとかいう話だな?』
「そうそう。文化交流の要になりそう」
『ソロモコか……』
仮面の王国ソロモコという、最新の石板クエスト。
仮面だかお面だかを被ってないと失礼だそうなので、黄の民に作ってもらっているところなのだ。
このソロモコクエストも、何をするとクリアなのかわからないときた。
まー人間のいるところ困りごとがないなんてあり得んから、とりあえず仲良くして探れってことみたい。
けどあたしに振られるクエスト、人間関係からどうにかしろってやつ多くない?
しかも今回、言葉が通じないってゆーおまけつきだぞ?
「あんまり冒険者っぽくない気がする」
『ん? でも君はエンターテインメント優先だろう? どこぞのダンジョンでボスモンスターを倒せ、みたいなクエストよりいいんじゃないか』
「うーん、ボスが何を提供してくれるかにもよるけれども」
『欲しがる形がエンターテインメントか』
笑い。
まあ確かにいろんな人と交流するのはすごく面白い。
おっぱいさんはあたしが他所の国の文化や産物をドーラに導入したいことを知ってるから、今後外国のクエストを多く回してくれるんじゃないかと思う。
あれ? とするとこのソロモコクエストは、比較的解決が簡単な方とおっぱいさんは思ってるのかな?
気が抜けないなあ。
「ソロモコの方はゆっくり友好を深めていくことになりそう。サイナスさん、ソロモコについて何知ってる?」
『いや、だからほとんど何も。出てきてない話題で言えば、海流の関係で年中暖かいかもしくは暑い。総人口は一~二万人くらい。一つの島が特異的に大きく、人口はほぼその島に集中している。王制というか酋長制が取られていて、酋長は世襲ということくらいだな』
「うん、実際に現地を見た感じでも人口は一万人くらいかなと思ったな。人口規模でもドーラよりかなり小さい国」
『魚食と農産品で穏やかな暮らしをしているんだろうとは言われているが、産物等はほとんど知られていないんだ』
「ふむー。帝国に比べりゃドーラに影響の大きい国じゃないね」
『ドーラは元々帝国からの移民で成立した国だ。ソロモコは言葉が通じないくらい、文化圏が全然違うだろう? ユニークなものがあるかもしれないよ』
そーゆー考え方もあるか。
でも気温がドーラよりずっと高いから、導入できる植物とかは少なそう。
「言葉もあやふやだし、どっちみち素早く何かはできないな」
『ところでゴブリンの方はどうだったんだ? 新人が悲惨な目に遭ったんだろう?』
どーしてそう決めつけるのか?
割と面白かったわ。
マウ爺もダンも笑ってたわ。
「悲惨なことはないってばよ。片足を落とし穴に突っ込んで糞にまみれたりとか、罠に引っかかって逆さ吊りになったりしたくらい」
『ほう、ゴブリンの仕掛けたものか?』
「うん」
『思ったより知恵が回るな』
「マジで驚いたわ。あたしに矢を射てきたゴブリンの子供捕まえてさ。お肉食べさせて仲良くなって、里に案内してもらった」
『相変わらずユーラシアのやることは見境がなくて展開が早いな』
「微妙に褒めてるんだか貶してるんだかわかんない発言はやめてくれないかなあ。モヤモヤする分、睡眠時間が三分くらい減っちゃうんだよ」
三分くらいと言うなかれ。
乙女の貴重な時間だぞ?
「木の上に家作ってたよ。そのゴブリンの子が里のゴブリン達に説明したら、すぐ警戒が解けたんだ。あたしにはキュイキュイとしか聞こえないけど、かなり高度に発達した言葉なんじゃないかなあと思った」
『非常に興味深いな。洞窟や岩穴に住むタイプとは種が違うのかもしれない』
「案内してくれた最年長の『アトラスの冒険者』も、木の上に巣を作るゴブリンはここでしか見たことがないって言ってたわ」
『パワープレイでもっと食い込むことはできるんだろう? 君研究してみるつもりないか?』
「ない。花の乙女の貴重な時間を、ゴブリンなんかに消費する気はない」
『まあユーラシアの趣味じゃないってことはわかってた』
何でゴブリンなんかに食いつくんだよ。
早口になってたぞ?
まったく研究者肌の人は変なやつが多い。
大体ゴブ君のいるところはあたしの転送先じゃないしな。
『仮面を手に入れたらソロモコ行きか?』
「いや、ソロモコは特に急ぎじゃないから、先に帝国行こうと思ってるんだ」
何かきっかけがないと、帝国でもこれ以上の展開は難しいけどな。
イベントプリーズ、とフラグを立ててみる。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日はカラーズ。




