第942話:ゴブリン反省会
「で、どう思ったか、嬢とダンの感想を聞きたい」
軽く昼食を取ったあとの反省会だ。
さっきゴブリンとこでお肉を食べたろうって?
いーんだよ、細けえことは。
ジーク君とレノアが縮こまっているが。
「犯人も十分反省してるようだから、許してやってもいいと思うけど」
「犯人じゃないヨゥ!」
「でも反省はしているのですっ! ドラゴンは遠いと思いましたっ!」
あれ? 特攻少女レノアが反省してるのか。
罠に引っかかって逆さ吊りされたことは結構なショックだったのかな?
冒険者ってものを考えさせるという意味で、マウ爺の思惑通りなんじゃないか。
ならば……。
「大した問題はないよねえ?」
「ああ。中級冒険者になる頃には、十分対応できると思うぜ」
そもそもジーク君とレノアにとって、今日のクエストはレベルが足りてない。
にも拘らず、ジーク君は罠をある程度見切ることができていた。
レノアは危なっかしいけど、多少罠にも引っかからないと面白みがないし。
「あんた、少しは罠にも引っかかってやれと思ってるんだろ?」
「ダンも思うでしょ? エンターテインメントも重要だから」
「まあな。せっかく時間潰して参加したんだ。少々愉快な目に遭ってくれねえと、割に合わねえだろ」
「わかるわー」
「ネタ扱いされるのは迷惑だヨゥ!」
「大迷惑なんだぬ!」
アハハ、ヴィル面白い。
「でもジーク君が気をつけてりゃ大丈夫だろ、ってのは本音だよ」
「ふむ、ゴブリンの罠についてはある程度知ることができたじゃろ。コボルトも似たようなもの。最も危険なのは、囲まれて毒矢を浴びせかけられることじゃ。前衛レノアは特に前に出過ぎぬように注意せよ」
「「はい」」
うん、いいんじゃないかな。
「ゴブリンとは共存できるのですかっ?」
「そーきたか」
「む? 嬢の行動を基準にするでないぞ」
「ユーラシアのやってることは大概デタラメだ。マネすると大ケガするぜ」
「ひどいなー」
あたしはメリットのないことはしたくないだけだってばよ。
「ノーマル人居住域と重なる西域では、駆除を目的とするクエストが出ることもある。ゴブリンを甘く見ていると痛い目に遭うぞ」
「ユーラシアは大方、ゴブリン倒したって得がねえから、エンターテインメントを優先しただけだぜ」
「まーね。今日のはゴブリンと利害が対立するケースじゃなかったじゃん? うちのパーティーはバトルマニアじゃないから、話し合いで解決できるならいいやと思ったんだ」
「だが、こいつにしかできないことは参考にならねえ。ゴブリンと話し合いができるとは思わねえことだな」
「わかったヨゥ」
わかられちゃったよぅ。
「ところで今、ジーク君とレノアの使えるスキルって何なの?」
「オレが『ウォーターマトリクス』と『ウォーターウォール』、レノアはないヨゥ」
ともに味方の魔法防御と火耐性を上げ、ヒットポイント自動回復一〇%を付与するんだそうな。
マトリクスの方が単体を、ウォールは全体を対象とする。
『水魔法』はウォール系を早く覚えるようだ。
「悪くねえスキルだが、使う場面は限定されるな」
「今請けてるクエストって、アルアさんの工房だったよね?」
「そうだヨゥ」
「マウさん。ジーク君達のクエストエリアには、踊る人形が出ることあるんだよ」
「ふむ、頃合いじゃの」
マウ爺も頷く。
「何ですかっ?」
「魔宝玉は人形系っていう特殊な魔物のドロップ品だって、前言ったの覚えてる?」
「覚えてるヨゥ」
「ぼろ儲けですねっ!」
気が早いよぅ。
「アルアさん家の外は、人形系レア魔物の踊る人形が出るんだ。売値二〇〇ゴールドくらいの黄珠を必ず落とし、たまに売値四〇〇ゴールドくらいの墨珠をドロップするんだよ。倒すべきでしょ?」
「もちろんですねっ! 倒さないと意味がないですっ!」
「おお、レノアとは気が合うなあ。踊る人形のヒットポイントは一」
「倒し放題ですねっ!」
「待つんだヨゥ。人形系は普通の攻撃じゃダメージ入らないと聞いたヨゥ」
お、ジーク君よく覚えてるね。
何でダンはニヤニヤしてるんだよ。
レノアが人形系フリークになりそうだからか?
レノアの固有能力『吝嗇』は、人形系ハントとは相性がいいのだ。
「人形系魔物からは、衝波属性もしくは防御力無視と呼ばれる攻撃でないとダメージを取れぬ」
「レベルの低い内の、唯一の防御力無視属性の攻撃は『経穴砕き』だよ。これはチュートリアルルームで一五〇〇ゴールドで売ってる」
「一五〇〇ゴールドかヨゥ……」
「買うべきですねっ!」
「普通ならね」
「どういうことですかねっ?」
「レノアが『吝嗇』の固有能力持ちであるがゆえに、迂闊な買い物は火力の低下を招くということじゃ」
ダンが聞いてくる。
「おい、『吝嗇』ってどんな能力なんだ?」
「お金持ちになるほどパラメーターにプラス補正だって。逆に借金持ちになるとマイナス補正ついちゃう」
「……基本的に得だろうが、難しくねえか?」
「だよねえ。サイフの紐が緩いと戦闘が厳しくなっちゃう。買い物に制限がかかる固有能力ってのも珍しいね」
「あんたみてえに、サイフの紐が堅くても底に穴開いてたらダメだろ」
「おいこら、訂正を要求するぞ」
「要求するぬ!」
アハハと笑い合う。
「嬢が今までお主達に『経穴砕き』について話さなんだのも、今このタイミングで話すのも、よくよく考えよということじゃぞ?」
「ぜひ意見を聞きたいヨゥ。今『経穴砕き』を買っておくべきかヨゥ?」
「買う買わんの前に、『経穴砕き』をどういうスキルだって覚えてる?」
「確か、敵単体に一ダメージを与え魔法防御をかなり下げるバトルスキル、だヨゥ」
「うん。例えばジーク君が『経穴砕き』のスキルスクロールを一本買ったとしようか。誰が覚えるべき?」
「レノアに……いや、そういうことかヨゥ」
ジーク君気付いたか。
「どういうことですかねっ?」
「誰が撃っても一ダメージということだヨゥ。だったらオレが覚えて、レノアが通常魔物を、オレが踊る人形をアタックした方がいいヨゥ」
「ジーク君いい考え方だね。実際には普通の魔物と人形系が同時に現れることはほぼないけど、誰が撃っても一ダメージというのは重要なポイントだよ。で、今のトレンドはパーティー全員が『経穴砕き』を覚えていること」
「「えっ?」」
ダンが笑う。




