第937話:言葉尻が不穏過ぎてえぐい
「サイナスさん、こんばんはー」
毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日の昼、イシュトバーンさん家で会食だったんだ」
『会食? 誰と?』
「言ってなかったっけ? 海の女王とプリンスルキウスだよ」
『豪華なメンバーだな』
「何てったってドーラのヒロインでウルトラチャーミングビューティーのあたしもいたしねえ」
アハハと笑い合う。
「海じゃ食べ物が限定されちゃうじゃん? 女王も普段食べてるの魚介類と海藻くらいだって言うし」
『しかし海底には海底の調理法があるんだろう?』
「どーかなー?」
以前女王は、魚は生か焼きかが最も美味いって言ってたくらいだ。
そんなに複雑な調理法があるとは思えない。
せいぜい海藻の旨みと魚醤を使うくらいなんじゃないか?
「地上は季節がハッキリしてるじゃん? 季節ごとに得られる美味いものが違うんだよね」
『手に入れられるかは別だぞ?』
「問題はそこなー。誰もがいろんなものを手に入れられる世の中にしたいよ」
『理想だな』
「あたしは『アトラスの冒険者』になってから、すごくいろんなところに行けるようになったじゃん?」
『羨ましいことだね』
「あれ? サイナスさんがそーゆーこと言うのか。お世話になってるから、レベル上げして『遊歩』のパワーカードあげてもいいぞ? かなりあちこちに行けるようになるけど、どーする?」
『つまり自分で飛んでどこかへ行けと? 何というセルフ罰ゲーム』
アハハ、どんだけ飛ぶのが嫌いなんだ。
「冒険者になる前は、自分に何が足んないかわかってなかったな。冒険者になれてよかった」
『ここまでいい話風。からの?』
「何でもおゼゼで解決できるようにするのだ」
『どうしてユーラシアは偽悪的なことを言うんだろう?』
「オチをつけないと申し訳ない気になるんだよね。性分かな?」
『ごまんとある君の長所の一つじゃないか?』
「長所だったかー」
再びアハハと笑い合う。
「海底って甘いものなさそうじゃん? 以前バアルにもらったスイーツのレシピ集ってのがあってさ。イシュトバーンさんに渡して作ってもらったら、今日すげえおいしいデザートが出てきた」
『ほう?』
「帝国の宮廷料理人を多く輩出していた一族の、秘伝のレシピ集である。今は途絶してしまったであるが」
「秘伝のレシピ集だったのか。世に出ると食文化が発達するわ。皆のためになるねえ。ありがとう、バアル」
「ハッハッハッ、吾を崇めるがよい!」
何だかんだでバアルは役に立つ子だ。
『スイーツというと、必要なものは砂糖、小麦粉、牛乳、卵、バターくらいか?』
「基本的なところはそーだね。砂糖は輸出品として有望だから、どんどん作って欲しい。あとフルーツとナッツだって」
『フルーツやナッツって、案外ドーラに少ないな』
「イシュトバーンさんも手に入らないって言ってたな。食べられる木の実はあるんだけど」
柿と柑橘類以外のドーラ産フルーツってマジで思い浮かばないな?
クララの果樹の図鑑を見てるだけじゃなー。
腹が膨れないのは仕方がないとして、味がわからないのはイライラする。
クルミ以外のナッツもあんまり聞いたことない。
特にナッツなんか干しときゃ保存利きそうだから、もっと多くてもいいのに。
『野生種は甘みや可食部が少ないからな。やはり栽培品種じゃないと』
「何でドーラってフルーツやナッツが少ないんだろ?」
『気候からして栽培しにくいってことはないはずだ。しかし木は移民が持ってこようと思うと結構大変だろう? 食うことを考えると穀物の優先順位が高いし』
「ふーん、だからドーラには多くないのか」
移民国の弱点だったか。
そして輸入はレイノス人が欲しがるものしか入ってこなかったから、フルーツやナッツの苗なんて考慮の外だったんだな?
『帝国で手に入れられないのかい?』
「どーだろ? 農村なら買えるのかもだけど、あたしが行けるの皇宮だし?」
『得意のゴリ押しを発揮して』
「国際指名手配犯になっちゃうだろーが」
でも頭に入れておくことにするよ。
フルーツやナッツはドーラに必要なものだ。
「明日大きい用はなかったんだけど、ゴブリンに遭えることになったんだ」
『……聞き違いじゃなければ『ゴブリン』と聞えたんだが?』
「そうそう、ゴブリン」
『ゴブリンってズル賢い魔物として有名な? 楽しみなのかい?』
「実はあたし見たことないんだよね。嫌らしい魔物だっていうから楽しみで」
嫌らしいスケベジジイならしょっちゅう会ってるけれども。
『メジャーな魔物なんだろう?』
「うん。中級冒険者になると大体ゴブリンとかコボルト関係のクエスト回されるらしいんだけど、あたし達掃討戦でレベル一〇以上いっぺんに上がったじゃん? だから振ってもらえなかったみたい」
『ははあ、納得できる理由だね』
あたしもレベルの関係でエンターテインメントを逸してたとは知らなかったよ。
「で、新人冒険者も一緒」
『少将の息子だな? 早めに経験を積ませておこうということか』
「みたいだね」
『ん? 君の画策ではないんだ?』
「あの二人の教育係が現役最年長『アトラスの冒険者』でさ」
『ああ、聖火教徒崖崩れ殺人事件の』
「ピンポーン」
殺人事件じゃなくて事故だけどな。
リズムが良かったからつい同意してしまったけれども。
「今日の夕食がギルドでさ。嫌いな魔物は何って話題になって、ゴブリンあたし遭ったことないって言ったら、参加させてくれるって」
『その流れで新人も行くなら、要するにフォローしろってことなんだろう?』
「サイナスさん鋭いね。かなり面白くなる予感がするからいいんだ」
『君のカン、当たるんだろう?』
「外れないね」
『新人達が可哀そうだなあ』
「何で可哀そうって決めつけるんだよ」
『でも可哀そうな目に遭うんだろう?』
「遭うね」
こら、ため息吐くな。
エンターテインメントに相応しくないだろーが。
『あんまり虐めるなよ?』
「あたしが虐めるんじゃないってば。一流の冒険者になるべく、必要な体験をしてもらうのニヤニヤ」
『言葉尻が不穏過ぎてえぐい』
きっと面白くなっちゃうから、明日の夜の報告を期待してなよ。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は朝からギルドだな。




