第936話:明日の予定はゴブリン
フイィィーンシュパパパッ。
魔境から直通の転送魔法陣でギルドにやって来た。
「やあ、チャーミングなユーラシアさん、いらっしゃい」
「こんにちはー、ポロックさん」
「こんにちはぬ!」
「ヴィルちゃん、いい子だね」
頭を撫でられて御機嫌のヴィル。
よしよし、いい子だね。
「今日は換金かい?」
「換金もだね。ワイバーンの卵を拾ったから、食堂に持ってきたの。大将に卵焼きを作ってもらおうと思って」
「おっと、ツイてるな。家へのお土産にしよう」
ポロックさんにも喜んでもらえてよかったな。
ギルド内部へ。
買い取り屋で換金してから食堂へ行く。
実は明日大した予定が入ってないんだよなー。
誰かと会えて明日予定ができると最高なんだけどな。
一日くらい休めって?
そんな心配はしてくれなくていい。
休むくらいならレジャー施設の魔境へ行くから。
あ、いたいた。
「マウさん、ジーク君、レノア!」
「嬢か」「精霊使いかヨゥ」「師匠っ!」
「師匠はマウさんでいいじゃん」
アハハと笑い合う。
「ちょっと待っててね。ワイバーンの卵拾ったんだ。食べようよ」
大将に卵を渡し、注文を入れる。
「で、レノアはどうかな?」
「オレの心配はしないのかヨゥ?」
「ジーク君にまで問題あったら解散した方がいいわ。解散記念に一食奢ったるわ」
「勝手に解散させるなヨゥ!」
いや、ジーク君がどれほど戦力になってるかとか気にはなるんだが、一番の問題点を放置するわけにいかんから。
「ハハハ、レノアか。大変に生きがいい。方向性さえ間違わなければ大物になるの」
「ありがとうございますっ!」
方向性大分間違ってるだろと言いかけて気がついた。
方向性は……いいのか?
目的地にワープしようとするのがダメなだけで。
あたしもせっかちだから目的地に真っ直ぐ行きたいタイプなんだよなー。
レノアのまずいところはよーく見えるんだが、あたしと似てるっちゃ似てるのだ。
「ペペさんにドラゴンを魔法で倒すところを見せてもらいましたっ!」
「よかったねえ」
「ものすごい魔法だったヨゥ! ドーラ一の天才魔導士と言われる理由がわかったヨゥ!」
「でしょ? ペペさんの魔法は、必要性とか利便性とかを全く無視してるのがヤバ過ぎる。着弾すると地形変わってるでしょ?」
「はいっ! スペクタクルとして最高でしたが、ドラゴンを倒したというスリルがあまり……」
「なーるほどー!」
ペペさんのロマン砲はスペクタクル優先なのか。
で、レノアのドラゴン退治にはスリルが欲しいわけね?
メッチャ腑に落ちたわ。
「魔物を倒すのにスリルなんかいらないヨゥ!」
「あたしもその意見には全面的に賛成だけど、さすがにドラゴン初めて倒す時は割とギリギリになると思うよ? レノアもスリルは自分が倒す時まで取っておけば? ドラゴン倒した時のスリルが足りないとつまんないでしょ?」
「そーですねっ!」
マウ爺笑ってやがる。
どーやらマウ爺はレノアのアタッカーとしての資質を、固有能力『吝嗇』込みでかなり買ってるみたい。
と同時に操縦の難しい暴れ馬だなと感じてるっぽい。
あたしがうまく誘導したと思ってるみたいだけど、どーせレノアは明日になれば忘れてるぞ?
「あっ、御飯来た! いただきまーす!」
◇
「卵焼き最高だヨゥ!」
「最高だよねえ。ワイバーンの卵は黄身がデカくて旨みも強いの」
「ワイバーンは強いですかっ?」
「レノアはバトルマニアだなー」
やる気があるのはいいことだ。
まあワイバーンはドラゴンと戦う前の前哨戦みたいなところがある。
「ワイバーンは亜竜ななのかヨゥ?」
「うん、亜竜だね。真竜のドラゴンより大分小さいしスマートだけど、知らん人が初めて見るとドラゴンかと思うみたいだよ」
「小さいドラゴンですかっ?」
「そう言ってもいいくらいの魔物だよ。ヒットポイントは魔境の魔物の中では少ない方。でも攻撃力はバカにならないよ。『ウインドブレス』っていう全体攻撃が結構痛い。爪が素材で比較的高めに売れるし、卵もおいしいからあたしは好きな魔物だな」
「好き嫌いがあるのかヨゥ?」
マウ爺が笑う。
「ハハハ。好き嫌いはともかく、得意不得意は必ずあるから、魔物の特性を把握して得意分野を生かすのじゃぞ」
「はいっ!」「わかったヨゥ」
「嬢はどんな魔物が嫌いなのじゃ?」
「クリティカル頻発の巨人は好きじゃないなあ。中でもたまーにしかドロップしていかないオーガは嫌いかな。あんまり戦わないようにしてる」
「うむ、魔境でクリティカル対策は重要だ。クリティカルを無効化するパワーカードは何だったか、覚えているな?」
「『シンプルガード』だヨゥ!」
随分勉強してるみたいだな。
いいじゃないか。
「魔境探索には必須、つまりドラゴンを倒すためには必要ということじゃぞ」
「はいっ!」
なるほど、ドラゴンで釣ってレノアを操縦してるのか。
さすがマウ爺。
「ちなみにマウさんが嫌いな魔物とはどんなのかな?」
「ワシか。ふむ、ゴブリンやコボルトなどの小鬼の類は嫌らしいな」
顎を撫でさすりながら言うマウ爺。
そーいやあたし、ゴブリンって遭ったことないな?
有名な魔物なのに。
「うちのパーティー、ゴブリンやコボルトって戦ったことないんだよ」
「ほう? 珍しいな。中級冒険者になるとまず配給されるクエストじゃが」
「あたし掃討戦でいっぺんにレベル上がったから、中級冒険者相当の期間がすごく短かったんだ。だからかも」
掃討戦のあとはヴィル、カル帝国・山の集落、塔の村のクエストだった。
塔の村も五階までしか登ってなかったので、ゴブリン達に遭う機会はなかったな。
正統派で経験豊富な典型的冒険者のマウ爺が嫌らしいって言うくらいの魔物には興味がある。
「であれば明日、共闘はどうじゃ? ワシのところの転送先からちょうどいいのがある」
「いいの? ぜひ!」
「お願いするぬ!」
満足そうなマウ爺。
やったぜ!
面白そうなピクニックに参加できる。
「うむ、ジークとレノアに経験させるにはちと早いと思っていたが、嬢がいるなら危険はあるまい。よい機会じゃ。明日の朝、ここギルドで待ち合わせ。よろしく頼むぞ」
「はーい」
ははあ、ジーク君とレノアのお守りですか。
とゆーことは、レノアが突っ走ると危ないみたいだな?
ともかく、明日予定ができた。
楽しみだなー。




