第932話:女王を連れてイシュトバーンさん家へ
フイィィーンシュパパパッ。
今日は海の女王をイシュトバーンさん家に招待し、地上の美味いものを食べてもらおうという趣向の日だ。
海の王国にやって来ると、既に女王が準備して待っていた。
「こんにちはー」
「おお、よう来た!」
「じゃ行こうか。あれ、女王一人だけ?」
意外だな?
お供とかいないのか?
「何か問題あるかの?」
「……特にないな。人数少ない方が、一人当たりたくさん食べられるわ。つまり正義だ」
「おお、楽しみだの! 早う行こうではないか!」
「オーケー」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「これは精霊使い殿。そちらがニューディブラ女王でいらっしゃいますな?」
「さようじゃ。本日はお招きに与り恐縮である。よろしくしてたもれ」
「これは御丁寧に」
あ、イシュトバーンさん飛んできた。
「絵師殿。よろしゅう」
「ようこそ女王。ん? 一人なのかい?」
「今日はあたし達が護衛仕るよ」
「仕るぬ!」
「ハハッ、これ以上ない護衛だな。こちらへ」
イシュトバーンさんの先導で屋敷へ。
「絵師殿は飛行魔法の使い手なのかの?」
「あーあれは違うんだ。飛べるパワーカードを装備してるの」
「飛べるパワーカード?」
「起動すると同時に飛行魔法『ソロフライ』が発動するってやつだよ。実質消費マジックポイントはナシの優れもの。女王もやってみる?」
「うむ、面白そうじゃの」
『遊歩』のパワーカードを手渡す。
女王のレベルなら普通に使えるだろ。
「ああ、上手上手!」
最初勢いよく飛び上がったからヒヤっとしたが、その後はひらひら飛び回っている。
女王の服装派手だからチョウチョみたいだな。
あ、降りてきた。
「これは面白いの!」
「あげるよ。女王には塩とか輸出品でお世話になるからね」
「うむ、ありがとうの!」
ハハッ、親善親善。
今後のドーラの発展を考える上で、海の王国は非常に重要なのだ。
女王とは今以上に仲良くなっておかねばな。
「魔法の装備品とかアイテムとかと同時使用すると、効果が干渉するかもしれないから注意ね」
「うむ。これは水の中で使うとどうなるかの?」
「「えっ?」」
全く考えたことなかったな。
イシュトバーンさんが言う。
「……基本は風魔法なんだろ? なら水の中で作用するとは思えねえが」
「いや、どうなんだろ? 波は風があるから起きるんでしょ?」
「波と関係あるのかよ?」
「知らんけど、飛行魔法は風に包まれる感じになるから、水中で使えてもおかしくない気はするな。女王、実験してみて教えてよ」
「うむ、任せよ」
こういう知らないことは割と楽しみだ。
新しい使い道を開拓できるかもしれない。
「やあこんにちは。イシュトバーン老、本日はありがとうございます。御馳走になります」
プリンス達がにこやかに登場。
「カル帝国の在ドーラ大使を務めているプリンスルキウスだよ。そしてその部下のクリークさん、マックスさん、アドルフね」
「これはお美しいニューディブラ女王。初めまして。ルキウスと申します」
「うむ、おんしのことは精霊使いユーラシアから聞き及んでおった。よろしゅう頼むぞ」
握手。
プリンスは感じのいい人だからな。
「ハハッ、じゃあ上がってくれ」
「御飯だっ!」
◇
「なるほど、これが地上の魚フライか。サクサクじゃの!」
レイノス名物魚フライまよねえず掛けを食べての女王の感想だ。
「でしょ? 衣をつけて植物油で揚げてるから、食感が違うよ」
「うむ、大層美味い。別物じゃ。してこの白いタレは?」
「まよねえず。酢と油と卵を使った調味料だよ。もう交易で海底にも入る材料だから、気に入ったらレシピ教えてあげるね」
女王にも地上の魚フライの美味さは理解してもらえたようだ。
よかったよかった。
といって海底の魚油で素揚げする魚が不味いわけじゃない。
別の料理だなあという印象だ。
ヴィルが女王の側にいる。
楽しい時間を過ごせてもらえているな。
プリンスが聞いてくる。
「海の王国とは、どのようなところでしょうか?」
「まず平和、と言ってよいが、裏返せば退屈じゃの。いや敵対勢力もおるのじゃが、ここ数十年大人しくしておる」
「幻想的でいいところだよ。今度行かない? 帝国に何を輸出したらウケそうか教えてもらいたいんだ」
「輸出? ああ、なるほど」
海の王国のものを輸出してもドーラには手数料が入る。
帝国に紹介すればプリンスの実績になる、ということだ。
「帝国は魚人と付き合いあるのかなあ?」
「いや、さすがにないな」
「やっぱ地上とは文化が違うから、変わったものもあるよ」
「ふむ、ぜひ案内してもらいたいが」
「やたっ! 女王、何か売りつけよう!」
「うむ、そうじゃの!」
苦笑するプリンス。
「女王陛下も交易には御熱心なのですか?」
「外貨の獲得は国のためじゃの」
「あたしにも女王の表情はわかりにくいんだけど、嬉しい、おいしい、商売人の三つの表情は理解したよ」
アハハと笑い合う。
「こちらコブタ肉と野菜の鍋でございます」
あ、なるほど。
醤油仕立ての鍋にしたのか。
「うまーい!」
薄く切ったコブタ肉とハクサイ、ダイコンが汁とよく絡む。
しかもお肉は前もって煮てあったようで、とろけるほど柔らかい。
「これは地上の植物じゃな? なるほど、食べ方にも一日の長がある……」
ハハッ、皆ガツガツ食べてるやん。
「大層、旨みが強いですな?」
「コブタマンの骨と海底のフルコンブでダシを取ってるんだぜ」
旨みって大事だなー。
醤油自体も美味いしな?
「地上で植物は生では食さないのかの?」
「そんなことはないよ。ただ植物は温かい季節はよく育つんだけど、寒いと育たないじゃん? 夏だとサラダで食べられる野菜が多いよ。でも冬はどうしても少ないんだ」
「ふむ、面白いの」
「あと植物の実で、生で食べておいしいのが幾種類もあるよ。でもこれも手に入れられる期間がすごく短いの」
考えてみりゃドーラには栽培してるフルーツは多くないな。
柑橘と柿くらいか?
「地上の食は、変化があっていいのう」
「これからは海の王国にも入るって。地上も移民がどんどん来る今はまだ、食べるものの量を重視していかないといけないんだ。でも余裕ができたら、美味いものにシフトさせていくからね」
「期待しておるぞ!」
大いに期待されたぞ。
待っててね。




