第930話:文化交流の重要な局面
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
トウガラシ入りのスープは身体が温まるなあ。
冬にはいい。
『ああ、こんばんは』
「サイナスさんの声は安らぐなあ」
『ハハハ、癒し系かい?』
「もう最近では、サイナスさんとおやすみしないと寝られない気がする」
『さすがにそんな殊勝なセリフには騙されないけれども』
アハハと笑い合う。
ただサイナスさんとの夜の通信が落ち着くというのは事実だ。
考えがまとまるからかもしれない。
『スキルスクロール用の紙が必要だということは、一応アレクに話しておいたよ』
「あっ、ありがとう!」
『空スクロールを大量に作るという発想には驚いていたな。そんなに需要があるのかって』
ここは考え方を統一しとかなきゃいけないところだな。
「魔法を大量に生産して売り捌くことは、よっぽどやり方を考えなきゃならんな。どこでも攻撃魔法を買えるような世の中は物騒でかなわん」
『うん、ユーラシアの考えは?』
「生活が便利になる魔法は別だよ。皆が喜ぶドーラは儲かる、いいことばっかりじゃん。ペペさんが作ってくれさえすれば、どんどん作って輸出したい」
『魔法をどんどん輸出か。ユーラシアの話には夢があるなあ』
あたしはドリーマーではないんだけどな。
いずれ現実になるだろうってことを話してるんだから。
『とにかくアレクはユーラシアの詳しい話を聞きたいって言ってたぞ?』
「アレクを洗脳しなければいけないな。でもあたしも忙しいんだよ。三日後カラーズに行くから、その時にしようか。次の輸送隊はアレク休みかな?」
『ああ、次回は休みと言っていた。ところで三日後の用って何なんだ?』
興味ありますか?
次回の輸送隊進発は二日後だから、札取りゲームや画集の用じゃないってわかるもんな。
「仮面が完成するの」
『仮面?』
これはわかるまい。
「今日ソロモコってとこ行ったんだ」
『新クエストで出たと言っていた島国か』
「仮面を被ってないと失礼だとゆールールを教わったの。だから今度行くまでに、黄の民に仮面作ってもらおうと思って。ついさっき頼んできたとこなんだ」
『しかし……仮面と言っても作法があるんじゃないか? 却って怒らせることになるかもしれないぞ?』
「だったら作り直せばいいじゃん。今日は美少女面だったんだからさ。すぐ仮面作ってきた努力くらいは認めてくれるよ」
失礼かそうでないかに関しては、どういう仮面でも大した問題じゃないんじゃないかな。
今日ソロモコで会った二人の仮面から感じたのは、装着者の個人的な拘りだった。
逆に言えば個性が許されると見た。
『すごく嫌な予感がするが、まともな仮面なんだろうな? どんな仮面を作ってくれという注文なんだ?』
「まともな仮面だってばよ。文化交流の重要な局面だぞ?」
『大事な局面で君はエンターテインメントをより重要視しそうだから』
「エンターテインメントを重視したくなってきたけれども!」
エンタメはさておき。
「バアルにもらった仮面なんだ。その仮面のレプリカを三つ作ってくれってゆー注文」
『バアル? ああ、お宝なのか?』
「逸品であるぞ」
「バアルまだ起きてたか。といっても飾り立てた派手っちいのじゃなくてさ。一見地味なやつなんだけど、バアルの審美眼を満足させたくらいだから」
「間違いのないものである」
「バアルの目は信頼できるよ」
「光栄である!」
サイナスさん苦笑してるんだろうな。
でもあたしがバアルの見る目を信用してるのは本当。
『ふうん、いいものであることは間違いないのか。じゃあその仮面を着けて訪問すれば、何らかのリアクションは期待できそうなんだな?』
「神として崇められるか、あるいは敵として戦争になっちゃうかってこと? サイナスさんたらムリヤリフラグ立ててくるなあ」
『それオレのセリフ』
アハハ、睡眠前の軽いジョークだよ。
『仮面はいいとして、ソロモコはコモンズが通じないだろう?』
「コモンズって何?」
『共通語。オレ達が普通に話してる言葉のこと』
「あっ、言葉が通じないし発音がおかしいの。何度教えても『美少女』を『ぶしょうじょ』って言う!」
『アハハハハハ!』
笑い過ぎだろ。
「言葉が通じないのはビックリしたよ」
『カル帝国がかつて植民地化を諦めた理由の一つが、意思の疎通がしづらいことだと言うぞ』
「言葉通じないこと知ってたなら教えてくれりゃよかったのに」
『いや、あとから思い出したんだ』
「何とか意思の疎通はできるけどなあ」
『もっとも帝国が無視してるのは、産物に魅力がないからだろうけどな。いずれにしてもソロモコについて知られていることはごく少ない。君の働きを楽しみにしているよ』
「うーん、学者さんみたいな楽しみとは無縁だけれども」
ある程度踏み込んで調査しないと、何の困りごとがあってのクエストかさえもわからんしな?
『行政府の方はどうだったんだい?』
「プリンスが信頼する貿易商に会えたよ」
『ふむ、どうだった?』
「なかなかだね。まともで重厚な感じ。野心もあると見た。人脈はあるけど貿易商としてはこれからの人みたい」
『何してきた?』
「仕掛けるのが当然みたいな物言いだね。例の水魔法を覚えさせた」
『ああ、売る側が効果わかってた方が売りやすいな』
「それもあるけど、あたしもどんな魔法か知らなかったから」
『実験台だったのか……』
ペペさん作だから、効果盛り過ぎはあり得ても不足があるとは考えてなかったよ。
ただレベルの低い人が使用してどうかは、あたしじゃ本当にわからないことなのだ。
「追加で『アクアクリエイト』のスキルスクロール二〇〇〇本の注文もらった」
『かなりの数じゃないか』
「まあねえ。でもドーラのスキルスクロール生産量を見積もられちゃうんだよね」
『どういうことだい?』
少な過ぎると侮られ、多過ぎると警戒されるのではないかということを話す。
「月に二〇〇〇本が生産限度と思ってもらおうと思って」
『細かいところまで気を回せるのが、ごまんとある君の長所の一つだなあ』
「あっ、先回りされた!」
アハハと笑い合う。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はイシュトバーンさん家で会食だ。




