第927話:貿易商と交渉
セレシアさんの店を経由して行政府に到着。
「こんにちはー。ウルトラチャーミングビューティーユーラシアとお供一名、さらにお供のお供二名がやって来ましたよ」
「あっ、精霊使いさん! もし来たら直ちに通せと言われているんです!」
受付のお姉さんが慌ててるように見える。
何事?
イシュトバーンさんが言う。
「おい、これどっちに通されるんだ?」
「いや、わかんない」
あたしに用があるようだけど、オルムスさんなら知事室だし、プリンスルキウスなら大使室だろう。
それなりにおいしいもの食べさせてくれるだろうから、どっちでも構わんな。
おゼゼの出どころは一緒か。
受付のお姉さんの後について二階へ。
「イシュトバーンさんは、黙ってりゃレイノスに隠然たる勢力を持ってる実力者じゃん?」
「お? オレを褒めるのは何か魂胆があるのか?」
「ではなくて。先導してくれてる受付のお姉さんのさ。なかなかいい尻だなと思ってるんだろうけど、口に出さない方がいいよ?」
「喋ってるのあんただからな?」
ついにお付きの警備員二名が笑い出す。
あ、大使室の方だったか。
「こんにちはー」
「グッドタイミングだ、待ってたよ」
待たれてたぞ?
プリンスルキウスの機嫌の良さそうな声。
クリークさんマックスさんアドルフのいつものメンバーにもう一人いる。
あっ、貿易に関わる商人さんかな?
ラッキー!
「ドーラからの輸出品に関わる精霊使いユーラシアと、引退してなおドーラに大きな影響力を持つ引退商人イシュトバーン氏だ。こちらは予が最も信頼する貿易商ベンノ」
「よろしく」
握手。
鋭く力強い視線だ。
いかにもやり手で抜け目なさそう。
しかし小ズルいところはないと見た。
プリンスルキウスが目配せしてくる。
なるほど、一番信頼する貿易商なんだね?
了解。
「早速なんだが、例のスキルスクロール化した水魔法『アクアクリエイト』の効果を、ベンノが見たいということなんだ」
「だと思って持ってきたよ。ベンノさん、開いてみて」
「や、話が早い。しかしスキルスクロールとは使い切りなのでしょう? 私が使用してしまってよろしいのですかな?」
「いいのいいの。売ってくれる商人さんにはサービスだよ」
本当はレベルの低いアドルフに覚えさせて使用感はどうか、様子を見たかったから買ってきたスクロールだけどな。
まあ実際に販売に関わるベンノさんが習得してくれた方が、宣伝にもなるから都合がいいや。
ベンノさんがスクロールを開き、習得時特有の魔力に包まれる。
「これで私も魔法使いですか。こそばゆいですな」
「こちらに流し台がある。使用してみてくれ」
あたしも見たことないから興味あるな。
ベンノさんが意志を持って魔法を唱える。
「アクアクリエイト!」
手の真下に水が生まれる。
水量も触れ込み通りだ。
コップ四、五杯といったところか。
慣れれば自分の近くどこにでも水を発生させられるのだろうが、今のように手の下に発生させるイメージが使いやすいと思う。
前方に勢いよく発射され、また術者の魔力によって勢いや水量が変わる『プチウォーター』に比べ、制御が非常に簡単だ。
「どうだ、ベンノ」
「問題なく使用できます。特に練習も必要ないですな」
ハハッ、落ち着いてるように見せても、気が高ぶってるのはわかるよ。
「マジックポイント使用による気怠さはどーかな?」
「大丈夫です。体感で一〇回くらいは唱えられそうですな」
おそらくベンノさんのレベルは一。
最大マジックポイント量はわからないけど、低レベル者が一〇回も使えるなら十分過ぎる性能だ。
「スクロール一〇〇〇本を試しに注文させていただきましたが、実際の納入量はいかほどになるか知りたいのです」
「来月の期限までに一〇〇〇本納められると思うよ」
「ほう、そうですか!」
イシュトバーンさんと視線を交わす。
やはりこのベンノという商人は、ドーラのスキルスクロール生産量をある程度推測していたようだ。
しかも一〇〇〇本は予想外に多いと見ているみたい。
さて、どう交渉しようか?
ぼろ儲けしたいのは山々だが、生産可能量の多さが帝国のお偉いさんに漏れて、警戒されても困るしな?
「『アクアクリエイト』は期待以上の使い勝手でした。実は帝国本土で、安価かつ実用的な水魔法が注目されておりまして、当方もまとまった数を仕入れたいのです」
「うーん、月産二〇〇〇本まではギリギリ大丈夫と思う」
「二〇〇〇本ですか。大したものですな!」
「ドーラは魔法が発達してるからね」
「なるほど、魔物が多いと聞いております」
ベンノさん納得してるけど、こっちにも言えないことがあるんだってばよ。
「では再来月の納入分二〇〇〇本お願いしてもよろしいですかな?」
「ちょっと二〇〇〇本確約はできないかな。二〇〇〇本を上限に可能な限りということなら受けるけど、どーだろ?」
「結構です」
「じゃ、注文入ったぞーって頼んどきまーす」
握手。
ドーラのスキルスクロール限界生産量は二〇〇〇本と思ってください。
「そーだ、ベンノさんこれあげる」
「何でしょう、本?」
「画集だよ。これも輸出にどうかって言ってたんだけど」
「大使殿下から伺っております。ドーラでの小売値六〇ゴールドとかいう」
「そうそう。画集なら字の読めない人でも買う。大量に刷るなら安くできるっていう実験を兼ねてるんだ。製紙業と印刷業を育てたいねえ」
「……おお? これは?」
ベンノさんビックリしてガン見してやがる。
イシュトバーンさんも小鼻がピクピクしてるよ。
得意げだなー。
イシュトバーンさんの美人絵には、目を離せなくなっちゃう魅力があるからな。
「実に素晴らしい! 絶対に帝国でも売れます!」
「でしょ? ドーラでは三、四日後に発売になるんだ。注文殺到してるから来月はムリだけど、再来月にはある程度回せるよ」
「二万部注文してよろしいですか?」
二万? マジか。
思ったより大量に注文来たぞ?
「ごめんね。二万はどう考えてもムリだなー。でも可能な限り数は努力するよ。他の貿易商には売らない。どうかな?」
「結構な条件ですが、よろしいので?」
「プリンスルキウスが信頼するって言ってるからだよ。でなきゃ売らないぞ?」
「いや、実にありがたい話ですな……」
さりげなくプリンスの株を上げたった。
これでいい。




