第926話:画集の宣伝
――――――――――一七〇日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「これは精霊使い殿。お待ちしておりました」
本の世界でコブタ狩りをしてから、イシュトバーンさん家にやって来た。
ここの警備員さん達は礼儀正しいなあ。
「これ、頼まれてたお肉とワイバーンの卵だよ」
「は、確かに」
明日海の女王をイシュトバーンさん家に招待するので、その仕込みなのだ。
お肉を煮るって言ってたけど?
イシュトバーンさんが『遊歩』で飛んでくる。
「待たせたな」
「行こうか」
行政府に向けてしゅっぱーつ。
◇
「……で、リモネスのおっちゃん、敵が多いみたいなんだ」
「ドーラに連れてくる可能性、か?」
「うん。どう思う?」
イシュトバーンさんと、主に帝国へのクエストであったことを話しながら行政府へ行く。
今日は警備員が二人ついて来ている。
「余計な世話じゃねえか? 皇宮に住んでるんだろ?」
「今はね。まあお節介かも。提案だけはしてみるよ」
イシュトバーンさんは気の回し過ぎじゃないかという考えか。
ふつーに考えて皇宮より安全な場所なんかないだろう。
次の皇帝が誰になるかでも、状況はかなり変わるしな?
とゆーかリモネスさんの身が危なくなるのって、誰が皇帝になった時だ?
この件はもうちょっと事情が知れてから動いても遅くないのかも。
「逃げ道が多くて困るってことはねえけどな」
「リモネスのおっちゃん自身がどう考えてるかにもよるしなー」
「あんた、聞いてねえのかよ?」
「ちょっと聞くタイミングがなかったわ」
陛下が死んだら身辺危険かもしれんけどどーする? とはなかなか聞きづらいわ。
もっともリモネスさんはえっちな固有能力持ちなんで、考えてるだけで察してくれそうではある。
「皇宮クエストで面白いのは、賢者リモネスに関してだけか?」
「リモネスさんは面白い話の範疇じゃなかったけどな。そーだ、あたし『ウルトラチャーミングビューティー』って二つ名になったの」
「ほお? これ以上ないくらいピタッと嵌るじゃねえか」
「でしょ? イシュトバーンさんはわかってるなー」
アハハ、気分がいいわ。
「帝都裏町の名付け屋の子につけてもらったんだ」
「名付け屋? つまりあだ名をつけて代金をもらう商売か?」
「そうそう。すごく変な子だったから、また会いたいな。イシュトバーンさんはきっとすげえニックネームつけられちゃうよ。『スケベクソジジイ』とか」
「想像の範囲内じゃ面白くねえな」
「想像の範囲内かー」
警備員達の肩が小刻みに上下してやがる。
「あ、来た来た」
「予定通りじゃねえか」
「ユーラシアさん、イシュトバーンさん!」
「密会ですか逢引きですかスキャンダルですか?」
いつものノリの男女二人組、新聞記者ズだ。
「こんにちはー」
「あんたらはいつもいつも熱心だな」
「ユーラシアさんとイシュトバーンさんはつきまとっても嫌がらないですし、必ずネタが出てくるので本当にありがたいです」
ハハッ、やっぱどこ行っても嫌がられるんだなー。
遠慮すりゃいいと思うけど、それじゃ面白い記事ネタなんて仕入れられないんだろ。
「これから行政府ですか?」
「うん。大した用があるわけじゃないけど、これくらいの時間に行くとお昼食べさせてもらえるから」
どっと笑い。
「記者さん達にプレゼントがあるよ」
「「何でしょう? 喜んでいただきます」」
「すげえ、そんなのが被るとは。やっぱ愛し合ってるから?」
「「いやいやいや!」」
慌てる新聞記者ズ。
面白いぞ、あんたら。
もうカップルって認めちゃいなよニヤニヤ。
「じゃーん! イシュトバーンさんの画集『女達』が完成しました! 一冊ずつあげるね」
「「ありがとうございます!」」
イシュトバーンさんが言う。
「これは記事にしていいんだろ?」
「もちろんだよ。これ明後日にはカラーズから出荷されるんだ。三~四日後にはレイノスの本屋さんに並ぶからね」
「小売価格は六〇ゴールドでしたっけ?」
「安心の六〇ゴールドだね。記事にするならルール決めとこうか」
「「ルール?」」
首傾げる角度まで一緒だぞニヤニヤ。
「まず、記事として載せていい絵は表紙のあたしの絵だけね」
「了解です」
「表紙絵はありなんですね?」
「でも中の絵について、文章で表現することはもちろんありだよ。とゆーことは、一面に魅力的な文章を持ってきた方の新聞が売れちゃうなー」
「「……」」
厳しい目で見つめ合う二人。
波風立てたったニヤニヤ。
どっちにしても新聞記者ズが張り切って記事を書いてくれれば、画集のいい宣伝になる寸法だ。
「あたしの方からモデルさんが誰かは言わないけど、全員実在の人物だよ。絵に書かれてる名前をヒントに探してみると面白いかも。特定が簡単な人もいるから、インタビューしてもいいねえ。でもあんまりしつこくするのは禁止ね」
「「わかりました!」」
「じゃーねー」
「「ありがとうございました!」」
新聞記者ズが帰ってゆく。
「おいおい、服屋の別嬪さんが大変なことになるんじゃねえか?」
「かもね」
最も特定が簡単で記事にしやすいのが、レイノス在住のモデルであるセレシアさんであるのは明白なのだ。
「きちんと商売に結びつけて欲しいねえ」
「ハハッ、サービスのつもりだったのかよ」
「セレシアさん、感情が顔に出るところがあるからね。クリエイターならばいいかもしれないけど、商売人はそれじゃダメじゃん?」
「理想はクリエイターに専念すべきだろ。店長は別のやつがやればいい」
あたしもそう思わんでもないんだが。
「んー、でもセレシアさんをコントロールできなきゃいけないんだぞ? 相当人選難しくない?」
「あんたがやりゃ問題ねえが、興味も時間もないだろ? 他に心当たりねえか?」
「イシュトバーンさん以外で心当たり? セレシアさんの弟にディオ君って子がいるんだ。セレシアさんとは似ても似つかないしっかりした子でさ。彼ならちょっと経験積むだけで務まりそう。でも青の民の族長代理やってるんで、カラーズから動けないんだよね」
「まあ、今後の課題だな」
セレシアさんの才能は、帝国ですごく評価されることもあり得る。
となりゃ帝国へ移住も考えるべきだが、今から先のこと考えてても何とやらだしな。
「セレシアさんとこはまだ画集届けてなかったんだった。ちょっと寄ってくね」




