第925話:ソロモコという未知の国
「で、ソロモコってどこなん?」
うちの子達と食卓を囲む一時。
新しい転送魔法陣の行先が、『仮面の王国ソロモコ』だと教えてもらったのだ。
仮面ってのもまた謎めいたワードだな。
クララが地図を広げ、指差す。
「ここだと思います」
「ほうほう、島国か」
ドーラ大陸から見ると東の海上に位置する。
大きな大陸からは離れている、孤立した諸島だ。
何だ、帝国よりかなり近いじゃないか。
「海流の関係で、ドーラよりも熱い地域です」
「エンパイアの植民地じゃないね? ホワイ?」
「うーん、ドーラと帝国の貿易が活発なら、中継基地として重要になりそーな位置だけどなあ」
さらに東の方の大陸にも帝国の植民地が多い。
何で帝国はソロモコを植民地にしてないんだろうな?
補給物資を手に入れづらいのか、それともドーラ植民地が軽視されていたということなのか。
「帝国の野郎、舐めくさっていやがるのか!」
「怒らない怒らない。あたしに征服されることさえ理解しないで意気がってるんだから、可愛いもんじゃないの」
「おお……?」
冗談だぞ?
「クララ、ソロモコについて何か知ってる?」
「すみません。気候と、それから他所とほとんど関わりを持ってない国としか」
「ふーん?」
帝国より近い国なのにクララが知ってることが少ないってことは、資料がほぼないんだろう。
他所とほとんど関わりを持ってない国というのにも符合する。
他所者を極端に嫌う民族性なのかもしれないな。
要注意だ。
「帝国に続いて外国と関わりができたか。面白いねえ」
「どうします。明日行きますか?」
「いや、本当は今日の午後様子見に行くつもりだったんだよ。画集来ちゃったからなー」
「間が悪かったでやすね」
「ショートタイムではクリアできないクエストばかりね」
「最近そーゆーのが多いね」
あたし達のレベルも上がって、ややこしい案件が回ってくるからだろう。
楽しいけど。
「明日、午前中に行政府行ってくる。午後に新クエスト、チラッと様子見くらいの予定ね」
「「「了解!」」」
「ごちそうさまっ! 寝よっ!」
◇
「サイナスさん、こんばんはー」
毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日ねえ、ウシ子に会ってきた」
『ウシ子? 誰だ?』
「悪魔だよ。最近どういうわけか悪魔づいてるんだよね。面長の角生えてる子でさ、ヴィルやバアルに印象聞いたら、ウシだぬウシであるって」
『ハハハ。どういう関わりの悪魔だい?』
「塔の村でさ。塔のてっぺんに陣取ってた子なんだよ」
『何故?』
「本人には聞かなかったけど、バアルが言うには冒険者の苦しみの感情を得るために居座ってたんだろうって」
『なるほど。塔のダンジョンのラスボス的存在ってところか』
「そんな貫禄はなかったな。でもワタシと戦うのです! 勝てば地下は解放しますん! って、ボスっぽいことは言ってたよ」
『塔のダンジョンには地下があるのか?』
サイナスさんには言ってなかったな。
「灰の民の村にいた、精霊のヒカリとスネルが塔の村についてったじゃん?」
『ああ、ダンジョンの先行調査させているとは聞いた』
「あの子達が調べて地下があることがわかったみたい。で、地下を解放するために、最上階のボタンを押さなくちゃいけなくてさ。塔の村のエース冒険者であるエルに付き合ってたの」
『ユーラシアは単にその悪魔に興味があっただけなんだな?』
「まあ」
基本的に塔のダンジョンのことは、塔の村の冒険者が解決すべきことだと思ってるし。
「まあまあではあったけど、ヴィルやバアルほど愉快な子ではなかったな。ふつーの悪魔ってウシ子みたいなもんなのかもしれない」
『エンタメを追求しに行くなあ。結局どうなったんだ?』
「円満解決だよ。地下ダンジョンは解放、ウシ子は分け前と引き換えに、危機に陥った冒険者を助けてくれることになった」
『妙なことになったな? 君は何でも働かせるなあ』
「皆が納得してるからいいんだ」
ウシ子も働いてくれい。
『アレクが帰ってきているよ』
「うん、どうだったかな?」
今回の輸送隊任務では、ケスとコンビでインウェンの代わりの事務交渉を務めていたはずだが。
『特に問題はなかったらしいぞ』
「つまらんなあ」
『本音はいいから』
「あたしは正直者なんだよなー。それが玉に瑕なのかしらん?」
『スキルスクロールのことで相談したいんじゃなかったのかい?』
「相談したいね。正直者は封印してでもアレクの協力を取りつけねば」
『心構えの方を変えればいいんじゃないか?』
「自分を偽る行為はあんまり。ウルトラチャーミングビューティーに相応しくない」
アハハと笑い合う。
『実際問題として、早期にスキルスクロール用の紙を生産するってムリがあるんじゃないか? 緑の民の紙職人を考えてるんだろうが、人数が足りないだろ』
「移民の手を借りられないかって考えてるんだけど」
『開拓地に製紙工場をということか。しかし……」
うむ、水はあるにしても、世界樹の輸送手段にも労働者の熟練度にも問題しかない。
大体どっちにしても緑の民の紙職人の手を借りないと、スクロール用紙の研究も量産化の始動もできない。
「イシュトバーンさんにも難しいんじゃないかってニュアンスのこと言われたな」
『焦ることないだろう』
「まあね」
ちょっと成功の条件が足りてない。
画集が落ち着いた頃を見計らってかな。
「明日行政府行ってくる」
『昼御飯をたかりに行くのか?』
「食事も重要な目的だけれども」
『程々にしておけよ』
「あたし基準の程々でいいのかな?」
『ユーラシア基準は知らないけれどもえぐい』
ディスられた気がするぞ?
「食後は新クエストで出た、ソロモコってとこ行くつもりなんだ」
『ソロモコ諸島? ほとんど情報のないところだ』
「クララも似たようなこと言うんだよ」
『カル帝国の探検隊が到達したことはあるはずだが、追い返されたんじゃなかったかな』
「ふーん。手強いクエストかな?」
『どうだろう? 君は相手の懐に入るのが得意だから』
「そんなのはごまんとある長所の一つに過ぎないとゆーのに」
『またそのフレーズか』
「飽きるまで使うぞ?」
アハハと笑い合う。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日はまず行政府。




