第924話:空スクロール生産は難しそう
『おう、画集届いたぜ。いい出来じゃねえか』
「だよねえ。思ったより早く刷り上がってて、あたしも驚いたよ」
イシュトバーンさんへ報告だ。
塔の村からの帰宅後は大変に忙しかった。
『光る石』スタンド量産型二回目の受取日だったのでカラーズに出向いたら、画集も完成していたのだ。
もっともまだ出荷分ではなくて、あたしの分の三〇部だけだが。
どうせ販促に使うだろうからって、早めに仕上げておいてくれたらしい。
実にありがたいね。
頑張って宣伝してくるぞー。
それからヴィルを使ったりあたし自身が出向いたりして、モデルさん達に画集を配って来たのだ。
まだ届けられてないのは、居場所の分からないアンセリ(おそらく魔王クエストの最中)と、レイノスの青の民族長セレシアさんのみ。
「三日後のカラーズ発の輸送隊で運んで、五日後にはレイノスの本屋に並ぶはず。でも何部出せるかわかんない状況なんだ」
『可能な限りってことか』
「まあね。多分一瞬で売れちゃうなー」
でも一〇〇〇部くらいは出せそうだったぞ?
「海の女王の招待は、明後日で大丈夫かな?」
女王をイシュトバーンさん家に招待し、地上の美味いものを食べさせようという趣向なのだ。
さっき画集を届けに海底に行った時、女王には伝えてきた。
『おう、明後日の昼だな。じゃあ明日肉持ってきてくれ』
「りょーかいでーす。明日は行政府へも行くけど、イシュトバーンさんも行く?」
『行政府? ああ、皇子殿下を招待する件か?』
「それもあるけど、歩いてるとどうせ新聞記者ズに捕まるから、画集の宣伝するでしょ?」
『ハハッ、捕まるのが前提なのな』
「最近謎のチェック体制が確立されてるらしいじゃん」
向こうは記事ネタが欲しいだろうけど、こっちも宣伝できてありがたいのだ。
美人絵画集は国民的関心ごとに決まってるから、派手な記事にしてください。
「プリンスのところにも画集届けたいし、あとはペペさんの水魔法のスクロール買ってきたんで紹介したい」
『ああ、貿易商が来た時にサンプルとして見せるのか。魔法は実演した方が効果わかりやすいってことだな?』
「そゆこと」
あたしも『アクアクリエイト』の魔法の効果は見てないしな。
レベルの高低に関わらず使えるところがミソなのだ。
「スキルスクロールさ。一ヶ月後までに一〇〇〇本納入できるってことは伝わってるかもしれないけど、もっとたくさん生産できるぞーってことは知らないはずだから、その辺りでも交渉できるかもしれないし」
『おう、デカい商売になるじゃねえか』
「うーん、でもこれ丸々下請けを向こうの世界に任せちゃってるじゃん? 可能な限りドーラで生産できないかと思ってるんだけど」
『ほう?』
どうせあのえっちな目をしている。
『何を思いついたんだ?』
「スキルスクロールに用いる紙が特殊だって、ペペさん言ってたじゃん?」
『ああ』
「魔力緩衝量が多い材料が必要なんだそーな。ペペさんは多分、世界樹を使ってるんだと思う。本業の紙職人に空スクロールを作らせて術式を印刷することまでできれば、ドーラでもスキルスクロールの量産が可能になりそう。こっちに落ちるおゼゼも増えるなーと思って」
『異世界を下請けに使えなくなる事態まで想定してるんだな?』
「まあね」
イシュトバーンさんは鋭い。
現在バエちゃんやシスターは協力的だけれども、『アトラスの冒険者』本部や向こうの世界のお偉いさんは、こっちの世界との交流を苦々しく思うのかもしれないしな。
いつまでも下請けに使えると考えるのは愚かだ。
対策はしておかなければならん。
いずれにしてもスキルスクロール生産はぼろ儲けの匂いがする。
何万本の注文をみすみす向こうの世界に丸投げするのはもったいない。
とっとと量産体制を確立したいが……。
『空スクロールを効率よく作れるとすると緑の民の紙職人なんだろうが、今手一杯じゃねえか?』
「ズバリなんだよなー。労働力は移民がいるんだけど、空スクロール作製技術を確立するためには、紙職人の手を借りざるを得ないと思うし」
『おまけにあんただって、世界樹エリアには自分だけじゃ飛べねえんだろう?』
「問題が多いねえ」
世界樹エリアまで足を運べそうなのはデス爺かペペさんくらい。
デス爺は塔の村の長で、新政府の連絡係という役目もある。
ペペさんに振るのはそもそも本末転倒だ。
ペペさんの負担はなるべく軽くして、創造的才能を発揮してもらいたいんだから。
「うーん、お金儲けって難しい」
『ムリすんなよ』
「頭がぷしゅーってなっちゃう」
『ハハハ。ウシ君はどうだったんだ?』
塔の村の件か。
「無事解決だよ。今日の午後には、エルのパーティーは地下のダンジョンに入ってると思う。どうでもいいけど、ウシ君じゃなくてウシ子だった」
『ああ、そんなに早く解決したのか。力技か?』
「いや、頭脳プレイだったよ」
『ほう? 拝聴しようじゃねえか』
「『ザガムムのお守り』っていう、ピンチの時に使うとウシ子が現れて助けてくれるっていうアイテムを販売することになったんだ」
『はん?』
わかりづらいか。
「バアルが『吾を崇めるがよい!』ってセリフ使うじゃん? あれ、本心なんだよ。悪魔って悪感情よりも認められたり尊敬されたりするのが好きで、どの悪魔であっても例外はないだろうって」
『そうなのかよ?』
「うん。でも悪魔同士はマウントの取り合いで認め合うってことがないの。人間だって基本的に悪魔なんて信用しないじゃん? 悪感情を得る方がよっぽど簡単だから、人間を嫌な目に遭わせようとするって理屈みたい」
『ははあ、読めてきたぜ』
「お守り販売の儲けの半分はウシ子行きって条件で。ウシ子としては冒険者を救えば感謝されるし、おゼゼも稼げるからお得じゃん? 村も儲かる、冒険者も助かる、ウィンウィンだなー」
ウシ子泣いて喜んでたしな。
まあまあのイベントでした。
『珍しく綺麗に収まったじゃねえか』
「去年まで悪魔はヴィルしか会ったことがなかったけど、今年になって関わりが増えたじゃん? 知れば知るほど悪魔は面白いねえ』
『また面白い悪魔に会ったら話せよ』
「会えるといいなー」
『じゃあ明日、楽しみにしてるぜ』
「うん。じゃあね。ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』




