第923話:ザガムムのお守り
「よし、ウシ子の勇気は認めようじゃないか」
「えっ、認める?」
あれ、嬉しそうだね。
悪魔って変なの。
「あたし達はウシ子と争いたいわけではないんだ」
「そうなのん?」
「そりゃそーだ。何の得があるってゆーんだ」
「もっともなことである」
「得がないぬ!」
「悪魔は損得に敏感だなあ。ウシ子が戦いたいってゆーなら希望通りにしてやってもいいけど、余計な手間かけさせやがる場合は対価を要求するぞ?」
「対価を要求します!」
何でコケシはこんな時ばかり嬉々としてカットインしてくるんだ。
あんたの主人が顔を顰めてるからな?
「で、ウシ子はどうしたいの?」
「ザガムムに忠告するである。吾が主の取り立ては大変に厳しいであるからして、対価を要求されるようなマネをするのは賢くないである」
「御主人をは優しいけど怖いぬよ? 全面的に要求を受け入れざるを得なくなった人もいるぬ」
「えっ? ……じゃあ話をしたいのん」
よーし、完全にこっちのペースだな。
あんまりウシ子をやり込めて、塔の村の冒険者達が割を食ってもいけないから……。
「互いに対等に話をしようじゃないか。エルの要求は地下ダンジョンを解放しろでいいんだね?」
「当然だ。他には特に要求はない」
「じゃあウシ子に聞こう。地下のダンジョンを解放するにはどうしたらいいの?」
困ったような顔をするウシ子。
「……実はよく知らないのだけれども、そこのボタンを押せばいいと思うのん」
「偵察のヒカリとスネルも同じことを言っていた」
「うん、じゃあボタンは押すとして、ウシ子の要求は?」
「「「「「えっ?」」」」」
うちの子達は何も言わないが、ウシ子とエルのパーティーはビックリしてやがる。
「ウシ子は交渉に応じてくれたし、情報もくれた。意図してはいなかったといえ、塔の頂上階を守ってたことになるんだから、対価ぐらいはもらっていいでしょ」
「正当な対価を値切られるようでは、高位魔族と言えないである」
「言えないんだぬ!」
「さあ、どうする? でも欲をかくとお仕置きだぞー!」
「お仕置きですよ!」
ビビるなよ。
単に交渉を優位に運ぶための常套手段だぞ?
そしてどーしてコケシは嬉しそうなのだ。
「えっ、いや、あの、あなた達にお任せするのん」
ぶん投げてきたぞ?
あ、バアルが呆れた顔してる。
「ユーラシア、何とかウシ子の面子が立つように考えてくれないか?」
「エルが殊勝なこと言ってるように見えて、実はウシ子言っちゃってるからな?」
「あっ!」
最初はちゃんとザガムムって呼んでたのに。
どいつもこいつも。
まあレベルが遥か上の悪魔に呑まれず対応してることは、いい経験になるんじゃないかな?
「ところでウシ子は魔王配下なんでしょ? 魔王のところにいなくていいんだ?」
「魔王様は側にいろって言ってたけど、ワタシにあまりメリットないから」
「正当な理由だぬ!」
「うむ、自らの利を追求してこそ高位魔族である」
「ふーん?」
魔王の側にいることで恐怖の感情は得やすい気がするけど、割に合わんのかな?
悪魔のことは、まだよくわからんことが多いな。
「じゃ、ウシ子は塔最上階にいるメリットが大きくなれば、ずっとここにいるんだね?」
「いたいのん」
「ザガムムのお守りを売ろう」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
おお、全員ハモったぞ。
「ウシ子は悪感情が好きかもしれないけど、尊敬されるならそっちの方がいいんでしょ?」
「……尊敬されることが可能なら願ってもないのん」
「儲かることも好きなんでしょ?」
「もちろん」
「冒険者がピンチになった時、封を切ればウシ子が現れて魔物をやっつけてくれる、ありがたーいお守りだよ。デス爺なら作れるだろ。冒険者からはメチャメチャ感謝されるし、儲けの半分はウシ子がもらえばいいじゃん。村にも利益出るし、冒険者も危険が減る。いいことばっかりだ」
「おお、さすがユーラシア!」
「さすがなんだよ。ウシ子はどう思う? 賛成する?」
「賛成するのん!」
「よーし、デス爺んとこ行くよ。ウシ子もおいで」
「待ってくれ。ボタンを押して地下を解放してからだ」
◇
「ふむ、了解じゃ。ザガムムもよいのじゃな? 金銭を得て危機に陥った冒険者を救う契約になるが」
「いいのん」
「では早急に『ザガムムのお守り』を用意しよう」
これでよし。
せっかくだからウシ子にサービスしてやるか。
「皆注目!」
何だ何だと冒険者が集まって来る。
「彼女はこの塔の最上階に住まう高位魔族ザガムムだよ!」
「高位魔族?」
「悪魔が住んでたのかよ……」
最初雰囲気が悪くなるのは計算の内。
「今度からザガムムは冒険者のサポートに当たることになりました!」
「サポート?」
「どういうことだ?」
「こう見えてザガムムのレベルは六〇近いです。諸君らが塔内でピンチになった時、彼女が颯爽と現れ救ってくれます」
「そりゃあありがたい!」
「ザガムム様々だぜ!」
あったまってきたぞー!
ウシ子も嬉しそう。
「ザガムムの加護を得るために必要なアイテムを発売するよ!」
「え? 金取んのかよ」
「当たり前じゃないか。代償なしで働く悪魔なんて、あとで何要求されるかわからんだろーが」
「お、おう」
でも今のツッコミは良かったよ。
「低価格で確実な効果がある悪魔の助力なんて滅多にないぞ!」
「「「「おう!」」」」
「ザガムムを呼んだ時は感謝を忘れずに!」
「「「「おう!」」」」
「皆、ありがとう! ザガムムをよろしく!」
「「「「パチパチパチパチ!」」」」
よーし、こんなもんだろ。
「こ、こんなに期待されて拍手もらったの、初めてなのん……」
「皆がウシ子を認めてるんだぞ? 気持ちいいでしょ?」
「うん、うん」
泣くなよウシ子。
どこが悪魔らしい悪魔なんだよ。
人情味溢れるわ。
「ワタシは最上階へ戻るわ。また来てねん」
「ばいばーい」
「バイバイぬ!」
手を振りながらふよふよ飛び、最上階に帰っていくウシ子。
何だかんだでまあまあ可愛い悪魔ではあった。
「あたしも帰ろうかな。エル、面白かったよ。ありがとう」
「礼を言うのはボクの方だろう」
「午後は地下へ行くんだ?」
「ああ。軽く様子を見てこようと思ってる」
エルも新しいエリアだな。
いや、あたしも新しいクエストがあるんだった。
「じゃあね、また来る」
転移の玉を起動し帰宅する。




