第918話:あの言葉が原動力
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさん、こんにちはー」
「はいよ。アンタはいつも元気だね」
魔境から帰宅後、アトムを連れてパワーカード工房にやって来た。
「お姉さま!」
「エルマ久しぶりだね。画集もそろそろ完成予定だから、楽しみにしててよ」
「はい!」
「ハハハ。ユーさん、工房も仕事終わりの時間なんだぜ」
「遅めに来てごめんね。これ、お肉お土産。エルマの分もあるから持って帰ってね」
「いつもありがとうよ」
「おいしくいただきます!」
うむ、お肉は正義。
「こんな素材を手に入れたんだよ」
「ほう、雲の欠片かい。大層な珍品だね」
「「雲の欠片?」」
ゼンさんとエルマは初見らしい。
「『雲唯』。ちぎれた雲が落ちたものという言い伝えがあるんだ。実際の成因はよくわかっていない」
ちょっと興味をそそられるな。
アトムが知らなかったので、鉱物じゃないとは思ったが。
正体は何なんだろ?
「素材を換金していくかい?」
「お願いしまーす」
交換ポイントは二三一三となった。
増えたなー。
「交換レート表だよ」
「最近チェックしてなかったから、ちょっと楽しみなんだ」
新しくラインナップ入りしたカードは以下の通り。
『風の杖』魔法力+一五%、スキル:『プチウインド』
『ニンバス』[騎]魔法力+二五%、敏捷性+一五%、混乱/即死耐性五〇%、MP再生五%
『根性はちまき』防御力+二五%、斬撃/刺突/殴打耐性五〇%
交換ポイントは『風の杖』が通常の一〇〇、『ニンバス』一五〇ポイント限定一枚、『根性はちまき』は一二〇だ。
アルアさんがすまなそうに言う。
「『雲唯』は想定外の素材だったよ。特段どこか際立った特長のあるものじゃないが、パラメーターをブーストするのには向いている」
「なるほど?」
「特注を受けやすい素材だよ。こんなカードが欲しいって要望はあるかい?」
「むーん?」
今んとこパラメーター上げなきゃ倒せない敵がいないから、特別思い浮かばんな?
いや……。
「最近逃げちゃって戦闘にならない魔物がいるんだよ」
「ん? アンタ達より素早いのかい?」
「新種の人形系レアなの。逃がさないパワーカードって作れるかなあ?」
アルアさん、ゼンさん、エルマが顔を見合わせる。
難しいのか?
「お姉さま。逃げ封じの効果のあるカードは作れます。でも……」
「ハイクラスの人形系レア魔物には効果がねえんだ」
「おお、エルマもゼンさんも勉強してるね」
ウィッカーマンには、逃げるのを防ぐ呪具やスキルは効かないって話だった。
ハイクラスの人形系レア魔物に共通する特徴なのか。
アルアさんが言う。
「……結論から言うと、上級の人形系を逃がさないことは不可能じゃないんだ。アンタの持ってきてくれる豊富なレア素材があるからね。フィールドに干渉して逃走を封じる、特殊な効果を持つパワーカードを作ることはできるだろう。しかし……」
アルアさんの言葉が途切れる。
しばし待つ。
「フィールドに干渉するということは、同時にアンタ達のパーティーも逃げられなくなるんだ。つまり消耗戦になる。知らない魔物相手に使用するのは勧められないね」
「ははあ、なるほどの理由だな」
ゼンさんもエルマも心配そうだ。
でもあたし達には『アンリミテッド』の衝波属性攻撃があるから、攻撃ダメージが入らないってことはない。
魔物のレベルがあたし以下ならば『雑魚は往ね』も効くはず。
どうにもならなきゃバアルを閉じ込めた切り札『ロック&デス』もあるしな?
「うん、やっぱり製作お願いしまーす」
「いいんだね?」
「常用するカードじゃないから」
アルアさんが笑みを浮かべる。
「そうかいそうかい。アタシも理論だけで終わると思っていた構想が、実際に作れるとなって嬉しいよ」
アルアさんは逃げ封じの研究をしてたことがあったのか。
「効果としては、見えない檻に閉じ込められるようなイメージだ。戦闘終了まで解除されないよ。装備しているだけで戦闘開始と同時に発動する。パーティー内の誰かが装備していればオーケーだよ」
「はーい」
「三日後には完成だ。交換ポイントは一〇〇〇になるよ」
「お願いしまーす」
一〇〇〇ポイントか。
今までの最高が『暴虐海王』の六〇〇ポイントだった。
いや、今回のは特注扱いだから、ポイントは倍になってるか。
まあポイントはどうでもいい。
これで謎経験値君と戦える。
「楽しみだなー」
「ユーさん、気をつけてくれよ?」
「いや、逃げられさえしなきゃ大した魔物じゃなさそうなの」
「お姉さま、信じていますから」
「何であんた達はフラグ立てようとするんだよ。そんなことしたって面白くならない案件だぞ?」
アハハと笑い合う。
「ところで『風の杖』ってカードがあるけど」
「わたしの考えで置いてもらったんです」
「うん、冒険者目線のパワーカードだから、エルマのアイデアかなーと思った」
「どういうこったい?」
ゼンさんに説明する。
「『火の杖』って、アンデッドの多いダンジョンなんかだと最高だけど、火魔法は案外使いにくいんだよ」
「フィールドだと火事が怖いんですよね」
「うん。ノーコストの魔法が付属してるのは明らかに初級者向け。でも『アトラスの冒険者』の最初の方のクエストはフィールドが多いんだ」
「初めの内は飛んでる魔物が強敵だと思います。風魔法は飛行魔物に特に有効ですから」
「なーるへそ。だから冒険者目線なのか」
ん? ゼンさんちょっと憮然としてない?
「うちにゃそういう発想がねえんだよなあ」
「ゼンさんには逆に冒険者に拘んないで、様々な実験をしてもらいたいんだなー。皆が似たような発想になっちゃつまんない」
「ユーさんが以前、二枚貸しだって言ったろう? あの言葉がうちの原動力みたいなもんだ」
「え?」
カル帝国・山の集落にパワーカードを届けた際、あたしが二枚のカードを足した時のことか。
昔のことだし、もう集落の皆はドーラに避難して来ているのだが。
「あの言葉があるから、うちは職人としてやれてるようなもんだ」
「焦らなくていいよ。でもすげー期待はしてる」
「おう、任せてくれ」
アルアさんが何も言わないけどニコニコしてる。
弟子のやる気は嬉しかろう。
「じゃ、あたし達は帰るね」
「またおいで」
「お姉さま、さようなら」
「期待しててくれ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




